↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラム育ちの俺《浄化》スキルで成り上がる  作者: 月瀬 リュカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/40

第18話 赤指定

 翌朝、ノアは《第七呪物保管庫》へ向かった。前回とは少し違う。《聖護の首飾り》があることは同じだ。《浄化Ⅲ》も、《剣術Ⅱ》も、《身体強化Ⅱ》も変わらない。だが今は、《魔力循環Ⅰ》の使い方を知っている。さらに《俊足Ⅰ》も《俊足Ⅱ》へ成長した。ベルツを出たノアは、歩きながら身体の中へ魔力を巡らせていた。胸から腹、腰、脚、背中、肩。そしてまた胸へ戻す。その流れへ、ごく薄く《浄化》の力を混ぜる。最初は集中しなければ途切れていた。今では歩きながらでも続けられる。

「これなら大丈夫そう」

 身体の内側がほんのり温かい。外へ《浄化》を放っているわけではないため、周囲の汚れが消えることもない。ただ、身体へ入り込もうとする悪いものを、内側から押し流せそうな感覚があった。これを使って、今日は第三地下区画の奥へ進む。

◇

 丘の裏に隠された鉄扉を開き、保管庫へ入る。第一地下区画を通り抜け、第二地下区画へ。ここまでは、もう緊張するほどの場所ではなかった。問題はさらに下だ。

────────────

《第三地下区画》

《高濃度呪染区域》

────────────

 階段を降りる。《聖護の首飾り》が外から侵入する呪いを弱め、《浄化》を混ぜた魔力が身体の中を巡っている。前回は、ここへ入るだけでも重苦しさがあった。今日は違った。

「……楽だ」

 第三地下区画へ足を踏み入れても、ほとんど頭痛がない。冷たさは感じる。空気が嫌なことも変わらない。しかし、それだけだ。ノアは《月銀の剣》を抜き、通路を進んだ。以前倒した黒い怪物の残骸は、もう動かない。そこから手に入れた《魔力循環Ⅰ》のおかげで、今こうして楽に歩けている。

「取ってよかったな」

 第三地下区画には、まだ調べていない扉が大量に残っていた。黄色指定の呪物もある。だが今日、ノアが気にしているのはその先だ。以前見つけた大扉。

────────────

《第三地下区画・深部》

《赤指定保管物のみ》

────────────

「赤か」

 これまでは避けてきた。危険度が一段上。だが、いつまでも黄色だけを浄化していても先へ進めない。ノアは大扉の前で《危険察知Ⅰ》へ魔力を少し多く回した。胸の奥で魔力の流れが変わる。ぞわり。警告。だが、強烈ではない。

「危ないのは危ない。でも、入っただけで死ぬほどじゃない」

 留め具を外す。重い扉をゆっくり押した。

◇

 深部は、同じ第三地下区画とは思えない造りだった。通路が狭い。その左右に小さな保管室が並んでいる。一つ一つの扉には鎖。魔法紋様。さらに札。

────────────

《保管番号三六一》

《赤》

《血喰いの槍》

《生体接触禁止》

────────────

「槍か」

 少し気になった。だが最初に選ぶには名前が悪すぎる。

「後」

 次。

────────────

《保管番号三六四》

《赤》

《飢餓の袋》

《内部確認禁止》

────────────

「これも嫌だな」

 魔法の鞄で、手を入れたら何かに掴まれるという話を聞いたばかりだ。次。

────────────

《保管番号三七〇》

《赤》

《黒灰の指輪》

《長時間装着時、全身衰弱》

────────────

 ノアは足を止めた。

「これなら……」

 少なくとも。槍のように人の血を吸うわけではない。袋の中から何か出てくるわけでもない。装着しなければいい。《危険察知Ⅰ》へ魔力を流したまま、扉へ近づく。警告はある。だが、それ以上強くならない。

「これにしよう」

 扉を開けた。小さな部屋。中央に石台があり、その上に黒い箱が置かれている。ノアは中へ入らず、入口から《浄化》を放った。

「《浄化》」

 白い光が部屋を流れる。普通の汚れが消えた。だが石台の箱から、黒い靄がじわじわと漏れ出してくる。

「強いな」

 黄色指定とは明らかに違う。箱越しなのに。それでも。《浄化Ⅲ》は効いている。ノアは身体の中を巡らせていた魔力の一部を、右腕へ集めた。普段より少し多く。

「《浄化》」

 白い光が強くなる。黒い靄が押し戻された。

「……できる」

 今までなら、魔力を強く使えばその分だけ疲れていた。今は違う。《魔力循環Ⅰ》で流れを意識しているから、どこへどれくらい使っているか分かる。必要以上に使わない。三度。四度。箱の周囲の黒い靄がかなり薄くなる。そこでノアは一度止めた。

「先に箱を開けるか」

 近づく。《危険察知Ⅰ》へ魔力。反応。まだ許容できる。蓋を剣先で押し上げる。中には。黒い指輪が一つ。見ただけで気分が悪くなるような色だった。

「触らない方がいいな」

 距離を取る。再び右手。

「《浄化》」

 指輪を直接狙う。白。黒。二つの力がぶつかった。

「っ……」

 強い。今までの呪物なら、数回使えば目に見えて呪いが減っていた。この指輪は。減る。だが。少しだけ。

「赤ってこういうことか」

 ノアは急がなかった。一回。休む。もう一回。身体の中では《浄化》を混ぜた魔力を循環させたまま。外へ使う時だけ、右腕へ量を増やす。無駄になった魔力を、可能な範囲で再び循環へ戻す。十分ほど。二十分。指輪を覆う黒い靄は、ようやく半分ほどになった。

「時間かかるな」

 でも。できないわけではない。これが大きい。以前。赤指定は見るだけだった。今は。浄化できる。ノアは水を飲み、少し休んでから再開した。

◇

 最後の黒い靄が消えたのは、部屋へ入ってから一時間近く経った頃だった。

「《浄化》」

 白い光。黒い指輪の表面に細い亀裂のような光が走る。そこから。パキン。何かが割れるような音。黒い色が剥がれ落ちた。

「……終わった?」

 指輪は銀色になっていた。中央には薄い青の石。ノアが近づいても、寒気はない。

────────────

《清流の指輪》

等級:希少級

技能:《呪耐性Ⅰ》

────────────

「呪耐性」

 次の瞬間。胸の奥へ。冷たいような。温かいような。不思議な力が染み込んだ。

────────────

《呪耐性Ⅰ》を習得しました。

────────────

「……これ」

 ノアはすぐに分かった。《聖護の首飾り》と似ている。だが。違う。首飾りは外から来る呪いを弱めてくれる装備。《呪耐性Ⅰ》は。自分の身体そのものが。呪いへ少し強くなった。

「当たりだ」

 かなり。今、一番欲しい種類の技能だった。しかも永久に残る。指輪そのものを外しても。技能は消えない。

「これならもっと潜れる」

 ノアは《清流の指輪》も指へはめた。装備効果があるかは分からない。ただ、少なくとも悪い物ではない。

◇

 赤指定の深部をさらに進む。先ほどまでより。身体が明らかに楽だった。

「これが《呪耐性Ⅰ》か」

 《聖護の首飾り》。《呪耐性Ⅰ》。そして。身体の中を回り続ける《浄化》。三つ。重なる。ノアは途中から、《浄化》を混ぜる量を少し減らしてみた。それでも平気。

「魔力、温存できる」

 長時間探索するなら大きい。通路の途中。鉄扉。赤。その隣も赤。全部を見る必要はない。むしろ。今は奥へ行く。

「どこまであるんだろ」

 一本道ではなかった。途中から左右へ分かれている。ノアは壁へ小さく印を付けながら進んだ。《浄化》では消さないようにする。迷ったら困る。さらに奥。ぞわり。《危険察知Ⅰ》。

「……右」

 今回は。かなりはっきり分かった。魔力を流しているからだ。右側。扉ではない。

「床?」

 ノアは立ち止まった。よく見る。石床。他と同じに見える。だが。剣先で軽く叩く。コン。その隣。コン。さらに右。カン。

「違う」

 薄い。床板ではなく、石の蓋。ノアは近づかず、周囲を確認した。壁。隅。古い金属の取っ手。

「開く?」

 《身体強化Ⅱ》で引く。ゴゴゴ……。石板がずれた。下。階段。

「……また下」

 ノアは携帯灯を向けた。壁の文字。

────────────

《第四地下区画》

《重度呪染区域》

────────────

 さらに。

────────────

《赤・黒指定保管区》

────────────

「黒……」

 ノアは思わず笑いそうになった。

「まだあるんだ」

 第一。第二。第三。そして第四。しかも。赤だけではない。黒指定。今まで。《開封禁止》とされていた危険度。

「ちょっとだけ」

 ノアは階段へ足を置いた。一段。冷たい。だが。耐えられる。二段。三段。《聖護の首飾り》。《呪耐性Ⅰ》。《浄化循環》。全部が働いている。

「行ける?」

 五段。十段。そこで。

「……っ」

 胸が重くなった。頭痛。まだ軽い。しかし。第三地下区画とは比べものにならない速度で、身体へ嫌なものが溜まっていく。

「《浄化》」

 身体の中を巡る浄化を強くする。少し楽になる。

「進める」

 さらに数段。階段の終わり。第四地下区画が見えた。暗い。携帯灯の光。その先。巨大な鉄扉が並んでいる。第三地下区画よりさらに間隔が広い。そして。空気の中に。黒い霧のようなものが薄く漂っている。

「……」

 一歩。入る。ぞわっ!《危険察知Ⅰ》。今までとは違う。身体が。はっきり。戻れ。そう言っている。

「まだ駄目か」

 ノアは無理をしなかった。すぐに階段へ戻る。十段ほど上がったところで、警告が弱くなった。

「でも」

 ノアは下を見る。前とは違う。《浄化Ⅱ》だった頃。第三地下区画へすら入れなかった。今は。第四地下区画へ。一歩だけ。足を入れた。

「近づいてる」

 まだ攻略できない。でも。成長すれば。もっと下へ行ける。それが分かる。

◇

 第三地下区画へ戻ったノアは、そのまま帰らなかった。せっかく来た。まだ魔力にも余裕がある。

「もう一個くらい見よう」

 第四地下区画は無理。なら。今行ける場所を探索すればいい。赤指定。残っている。ノアは別の通路へ入った。しばらく進むと。妙な札を見つけた。

────────────

《保管番号三八八》

《赤》

《消える靴音》

《保管室内で単独行動を禁止》

────────────

「……靴?」

 今履いているのは《疾風の旅靴》。変える気はない。だが。呪物としては気になる。扉へ近づく。その瞬間。《危険察知Ⅰ》へ流していた魔力が。強く脈打った。

「危ない?」

 立ち止まる。右。左。扉。中。

「……いや」

 違う。背後。ノアは振り返った。通路。誰もいない。だが。ぞわり。また。背後。

「何かいる」

 《月銀の剣》を抜く。《隠密Ⅰ》へ魔力。自分の音を消す。すると。聞こえた。小さな。足音。ぺた。ぺた。何も見えない通路から。ゆっくり。こちらへ。近づいてくる。ノアは剣を構えた。

「……透明なのは卑怯だろ」

 自分が隠れるのはいい。相手にやられるのは。かなり嫌だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。