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スラム育ちの俺《浄化》スキルで成り上がる  作者: 月瀬 リュカ


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第16話 第三地下区画

 《聖護の首飾り》を買った翌朝。ノアはいつもより早く宿を出た。基本の装備は変わらない。《月銀の剣》。《黒鉄の胸甲》。《影隠しの外套》。《疾風の旅靴》。腕には《剛身の腕輪》。服の内側には《宵闇の短剣》。そして今日は、胸元に新しい物が増えている。

────────────

《聖護の首飾り》

等級:希少級

効果:呪いによる侵食を軽減

────────────

 昨日までと違うのは装備だけではない。この一か月。依頼を受け続けた。何度も魔物と戦った。その結果。《剣術Ⅰ》は《剣術Ⅱ》へ。《身体強化Ⅰ》も《身体強化Ⅱ》へ上がった。金も貯めた。装備も買った。準備はした。

「これで駄目なら、また考えよう」

 無理なら戻る。そこだけは変わらない。

◇

 《第七呪物保管庫》へ着いたのは昼前だった。黒鉄の鍵を使い、鉄扉を開ける。冷たい空気。以前なら入口でも少し感じていた嫌な寒気が、今日はかなり弱かった。

「首飾りかな」

 胸元へ触れる。まだ効果をはっきり実感できるほどではない。ノアは携帯灯へ火をつけ、階段を下った。第一地下区画。問題なし。第二地下区画。ここも。以前なら空気そのものが重く感じた。今は、少し冷たい程度。

「効いてる」

 《浄化Ⅲ》を使っていない。それでも、身体へ入り込んでくる呪いが明らかに少ない。買って正解だった。高かったけれど。

「また稼げばいいし」

 第二地下区画の奥へ。問題の階段。

────────────

《第三地下区画》

《高濃度呪染区域》

《浄化処置なき進入を禁ず》

────────────

 ノアは一度深く息を吸った。

「行く」

 階段を下りる。一段。二段。十段。《聖護の首飾り》だけでもかなり楽だった。前回は《浄化Ⅲ》を使いながらでなければ、ここを進むことすらできなかった。今は。まだ耐えられる。階段の最後。第三地下区画。ノアは足を止めた。前回。ここへ入った瞬間。頭痛。吐き気。寒気。《危険察知Ⅰ》。全部が一気に来た。

「……」

 一歩。入る。冷たい。だが。

「平気」

 頭痛はない。吐き気も。多少身体が重いくらい。

「すごいな、これ」

 高かった理由が分かった。ただし。完全に防げているわけではない。奥へ進むにつれて、胸の奥へ重いものが溜まっていくような感覚はある。そこで。

「《浄化》」

 白い光を自分の周囲へ広げる。身体がさらに軽くなった。

「これなら動ける」

 《聖護の首飾り》で普段の侵食を弱める。溜まってきたら《浄化Ⅲ》で消す。これなら。戦う余裕も残る。ノアは《月銀の剣》を抜いた。

◇

 第三地下区画は、上とは明らかに違った。第一地下区画には木箱や棚が多かった。第二地下区画では鉄箱が増えた。ここには。

「牢屋みたいだな」

 厚い鉄扉。一つ一つが壁へ埋め込まれている。扉には小さな覗き窓すらない。金具も二重。三重。さらに魔法紋様まで刻まれている。最初の扉へ近づく。札。

────────────

《保管番号三〇一》

《危険度:赤》

《哭く兜》

《開封時、防音処置を推奨》

────────────

「赤」

 前回なら触らなかった。今日は。

「……まだやめよう」

 最初から赤へ手を出す必要はない。第三地下区画には黄色指定も残っているかもしれない。通路を進む。一つ。赤。二つ目。赤。三つ目。

「黄」

────────────

《保管番号三一四》

《危険度:黄》

《革帯》

《装着者の筋力を継続的に奪う》

────────────

「これなら」

 ノアは扉を確認した。鍵はない。外側の留め具だけ。《危険察知Ⅰ》。反応は弱い。扉を開ける。中は小さな保管室だった。中央。石の台。その上に。黒い革帯。金具まで黒ずんでいる。

「近づくだけなら平気」

 寒気はある。ノアは距離を取ったまま右手を向けた。

「《浄化》」

 白い光。黒い靄。かなり強い。第二地下区画の黄色より。明らかに。

「やっぱり下に来るほど強いんだ」

 二度。三度。《浄化Ⅲ》でも一気には消えない。だが。確実に薄くなる。休む必要もない。

「これならいける」

 四度。五度。最後。黒い靄が弾ける。革帯の色が変わった。黒から。深い茶。金具は銀色。

────────────

《力帯》

等級:良質級

効果:装着者の筋力を僅かに補助

────────────

「技能なし」

 少し残念。でも。

「売れる」

 《遠征用収納鞄》へ。次。黄色。古い腕当て。浄化。

────────────

《耐衝の腕当て》

等級:良質級

効果:腕への衝撃を僅かに軽減

────────────

「これも売るかな」

 今の装備より弱い。ただし金にはなる。第三地下区画。危険ではある。でも。ここまで来られるようになっただけで、拾える物の質が一段上がっている。

◇

 さらに奥へ進んだ時。《危険察知Ⅰ》が反応した。ぞわっ。ノアは止まる。

「……何?」

 前。右。左。どこ。少し待つ。また。ぞわっ。右。壁際。

「扉?」

 そこには一つの鉄扉があった。

────────────

《保管番号三二七》

《危険度:赤》

《黒爪》

《接触禁止》

────────────

「赤か」

 ノアは近づかない。だが。危険察知は。扉の向こうではなく。さらに。足元。

「下?」

 ノアが一歩後ろへ。その瞬間。床が。ミシッ。

「っ!」

 《俊足Ⅰ》。後ろへ跳ぶ。直後。ガシャァン!石床が崩れた。

「危なっ!」

 前回の墓地を思い出した。

「また床?」

 穴。暗い。携帯灯を近づける。深さは。三メートルほど。

「部屋がある?」

 下にも石床。しかも。人工的。

「第三地下区画の下……」

 さらに階層がある。ただ。階段ではない。床下に空間がある。ノアは穴から距離を取った。

「今日は行かない」

 当然。入口も分からない。降りる理由もない。危険察知もまだ弱く反応している。

「まず第三地下区画」

 欲張らない。上を攻略してから。

◇

 さらに一時間ほど。第三地下区画を調べた。黄色指定。四つ。うち三つを浄化。一つは。

「……強い」

────────────

《保管番号三四二》

《危険度:黄》

《割れた鏡》

《鏡面を長時間見ないこと》

────────────

 《浄化Ⅲ》。一度。二度。三度。ほとんど変わらない。

「黄色なのに?」

 表示されている危険度は、呪いの強さだけではないのかもしれない。ノアは無理をしなかった。

「これは後」

 そのまま扉を閉じる。次。赤。当然、素通り。だが。その先。

「……これ」

 珍しく。扉が開いていた。いや。壊れている。金具が内側から曲がっている。

「何か出た?」

 《月銀の剣》を構える。《危険察知Ⅰ》。反応。弱い。完全に安全ではない。ノアは《隠密Ⅰ》を使いながら近づく。中。暗い。携帯灯を向ける。

「……空?」

 石の台。その上に。何かを固定していたらしい鎖。切れている。床。黒い跡。そして。足跡。

「……」

 人間ではない。細長い。指のような跡が四本。

「外に出てる?」

 ノアは通路を見る。古い跡。今できたものではない。埃の下に残っている。その足跡が。第三地下区画の奥へ続いている。

「嫌だな」

 かなり。嫌だ。呪物は好き。呪いでできた化け物は。あまり好きではない。

「でも、もういないかもしれない」

 何十年。何百年。前の跡かもしれない。ノアは慎重に進む。

◇

 通路の先。大きな部屋。そこに。いた。

「……」

 人間くらいの大きさ。壁に張りついている。身体は。黒い布の塊のように見えた。腕。長い。脚。細い。顔は。ない。ただ。頭の中央に。縦に裂けた口だけがある。

「生きてる?」

 動かない。ノアは一歩。ぞわっ!

「っ!」

 《危険察知Ⅰ》。同時。黒いものが壁を蹴った。速い。

「うわっ!」

 《俊足Ⅰ》。横へ。黒い腕がノアのいた場所へ叩きつけられる。石床。ひび。

「強い!」

 ノアは距離を取る。相手が四つん這い。口。開く。

「ギィィィィィッ!」

 耳に刺さる。そして。寒気。

「呪いか!」

 《聖護の首飾り》が。微かに温かくなった。身体へ入ろうとした冷気が弱まる。

「ちゃんと効いてる」

 黒い怪物が来る。ノアは正面から待たない。《隠密Ⅰ》。横。柱。視線を切る。怪物が一瞬止まった。

「今」

 《俊足Ⅰ》。踏み込み。《身体強化Ⅱ》。《剣術Ⅱ》。首らしき場所へ。《月銀の剣》。ザシュッ!

「ギィッ!」

 斬れた。以前なら。もっと浅かったはず。《身体強化Ⅱ》。《剣術Ⅱ》。明らかに違う。

「いける」

 だが。傷口から。黒い靄。すぐ塞がり始める。

「……再生するの?」

 もう一度。脚。斬る。同じ。黒いものが傷口を埋める。

「剣だけじゃ駄目か」

 だったら。

「《浄化》!」

 白い光。怪物へ。

「ギィィィィィッ!」

 反応が違う。身体が大きく仰け反る。

「やっぱり呪いでできてる」

 墓地の化け物と同じ。剣より。《浄化》。ただし。こちらは速い。《浄化》を当て続けるのは難しい。怪物が壁。天井。走る。

「速すぎ」

 頭上。《危険察知Ⅰ》。ノアは前へ転がった。背後へ落下。床が割れる。

「危なっ!」

 振り返り。《浄化》。光。怪物の腕に当たる。黒い部分が崩れる。

「効いてる」

 だが。全部消すには。時間がかかる。

「動きを止めないと」

 ノアは剣を構え直した。狙う。脚。再生する。でも。すぐではない。

「斬って、浄化」

 怪物が来る。横へ。《俊足Ⅰ》。すれ違い。《剣術Ⅱ》。右脚。深く。ザンッ!怪物の身体が崩れる。その瞬間。

「《浄化》!」

 傷口。白い光。

「ギィィィッ!」

 黒い靄が消える。傷が。戻らない。

「これだ」

 斬る。浄化。再生させない。一本。脚。次。腕。怪物が暴れる。ノアは無理に近づかない。《危険察知Ⅰ》。《俊足Ⅰ》。避ける。相手の攻撃が終わった直後。《身体強化Ⅱ》。《剣術Ⅱ》。刃。そして。《浄化》。少しずつ。怪物の身体が小さくなる。

◇

 最後。残ったのは。胴体。頭。左腕。それでも。怪物は動いた。

「しぶといな」

 ノアは息を整える。相手も。かなり弱っている。怪物が飛びかかった。《危険察知Ⅰ》。横へ。腕を斬る。

「《浄化》!」

 消える。残り。頭と胴体。

「もう終わり」

 《月銀の剣》。首へ。斬る。頭が飛ぶ。それでも胴体が動こうとする。ノアは距離を取って。右手。

「《浄化》」

 白い光が怪物全体を包んだ。黒い身体。崩れる。布。骨。鉄片。何かいろいろな物が混ざっていたらしい。最後。黒い靄が消えた。《危険察知Ⅰ》。反応。なし。

「……終わった」

 ノアは剣を下ろした。

「首飾り買ってよかった」

 なければ。この戦闘中。ずっと《浄化》を自分へ使い続けなければならなかった。そうなれば。勝てたか分からない。高かった。でも。その価値はあった。

◇

 怪物が崩れた跡を調べる。布。古い骨。錆びた金具。

「何かあるかな」

 呪物。探す。その中。

「……これ?」

 小さな黒い石。卵より少し小さい。表面には。細い亀裂。そこから。黒い靄。

「呪われてる」

 ノアは触らない。距離を取ったまま。

「《浄化》」

 白い光。一度。黒い靄が大きく揺れる。

「強い」

 もう一度。《浄化》。さらに。何度も。第三地下区画の呪物。怪物の中心にあった物。簡単には消えない。それでも。《浄化Ⅲ》。効いている。六回。七回。最後。

「《浄化》!」

 黒い石が。白く光った。

「……」

 色が変わる。黒から。深い青。半透明。中に。小さな光が浮かんでいる。

────────────

《魔力循環の核》

等級:希少級

技能:《魔力循環Ⅰ》

────────────

「技能」

 ノアの目が輝いた。次の瞬間。胸。腕。全身。目には見えない何かが流れ始めた。

────────────

《魔力循環Ⅰ》を習得しました。

────────────

「……何これ」

 身体を動かす技能ではない。剣でも。防御でもない。試しに。

「《浄化》」

 白い光。

「……?」

 少し。違う。《浄化》そのものが強くなったわけではない。ただ。魔力が身体の中を流れる感覚が分かりやすい。今まで。《浄化》を何度も使えば疲れた。どれくらい使えるのか。何となくしか分からなかった。今は。

「残りが分かる?」

 正確な数字ではない。でも。あとどれくらい使えるか。休めばどれくらい戻るか。前より感覚的に分かる。

「地味だけど……便利かも」

 長時間。呪物保管庫へ潜るなら。かなり。使える。ノアは《魔力循環の核》を収納鞄へ入れた。技能はもう自分の中に残っている。

◇

 さらに奥。大きな部屋の向こうに。また扉。今度は。今までより巨大。そして。その横。壁へ刻まれた文字。

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《第三地下区画・深部》

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 その下。

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《赤指定保管物のみ》

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「……」

 ノアは立ち止まった。今日は。第三地下区画へ入れた。黄色指定を浄化した。怪物も倒した。新しい技能まで手に入れた。

「十分だな」

 ここから先は。赤だけ。まだ。行く必要はない。ノアは巨大な扉を見上げた。さらに。その先。何があるのか。分からない。でも。もう。前回みたいに。入口で諦める必要はなかった。

「また強くなってから来よう」

 ノアは踵を返した。《第七呪物保管庫》は。まだ。終わらない。


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