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耳染  作者: 木介


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9/14

13階段の怖い話

翌朝、岩田は電車を乗り継ぎ、車で迎えにきていた部下の佐藤と合流する。


その車で向かうのは河田康貴の自宅である。

佐藤と会う約束をした際にわざわざ自宅へと招かれたのだ。


その道中で佐藤との情報交換が始まった。

佐藤は森田の所へ向かった後、行方不明者二人の身辺調査をしていた。


報告書には家族構成や職歴、何かトラブルを抱えていたかどうか等、事細かく書かれている。

山下彩の資料に関して目に止まるものは無かったが、青木の資料を見た時ある職歴が目に止まる。


「元々不動産で働いてたのか?」


「はい、それと彼の学歴も見てみて下さい」


「学歴?」


そんな事が重要なのかと岩田は資料を1枚めくった。


「これって…」


「そう、青木は小学校、中学校、共に栄市の学校を卒業してます。つまり栄市栄町は彼の地元です」


事故物件がたまたま青木の地元にあったとは考えずらい、これは只の行方不明では無く、誰かしらの意思のもと起きている出来事。

その中心人物が青木である可能性が高いと岩田は考えた。


そして二人の身辺調査結果を確認し終えてから佐藤へ質問をする。


「あの事故物件を内見していた早川とは連絡ついたか?」


「はい、連絡して話しましたけど本人いわく内見なんて行っていないとの事でした」


「内見に行っていない?」


「はい、それに休みの日であれば基本的に一日中、家にいるから証明も出来ないそうです」


「となると不動産でまた話を聞くしかないな…」


そんなセリフを溢して考える。

早川の言葉が真実なら彼の名を偽って内見の約束をした人物がいるという事だ。

その人物は早川に近い人物である事は明白であり、不動産で得た早川の連絡先が本物であった事から、少なくとも早川の連絡先を知っている人物である。


そんなやりとりをしている内に目的地、河田康貴の自宅へと到着した。

そこは都内にあるマンションで裕福な暮らしをしているのが伺える。


チャイムを押して迎えられた105号室の部屋は一人で住むには広いはずだが物で溢れており、とても客を呼ぶような部屋では無かった。


「お招き頂きありがとうございます」と形式的な挨拶を済ませて後、岩田は当然の疑問をぶつける。


「何故自宅へ呼んだのですか? 大抵の方は見ず知らずの人を自宅になど入れたくないと思うのですが?」


その質問を待っていたかのように河田は頭をポリポリと搔き。


「やっぱりそう思いますよね、ただ刑事さんの電話でいとま荘について聞きたいと言われた時、やっぱりあの場所で何かあったんだと思いました」


「なので、あそこについて説明するなら自宅の方が良いと思い招いたんです」


そう言って色々な資料をテーブルへ広げた。

オカルト雑誌から新聞記事、過去のSNS投稿まで関係ありそうな情報の全てを。


「これは僕が調べた、いとま荘についての資料になります。良かったら持っていって貰って構いません」


「持っていっても良い」という言葉に違和感を感じ再び岩田は質問をする。


「何故こんなに調べたんですか? それに集めた資料をいらないと?」


「あそこは僕の人生を良い意味でも悪い意味でも変えた場所で、その歴史を知りたかったんです。

そして調べ尽くした僕にはもう不要な資料なので」


その答えにあまり納得せずにいると「早速ですがいとま荘について僕が知っている全てをお話します」と彼は自らの体験談を話し始めた。


「大学卒業後、僕は俳優として成功する為に上京してきました。

夢を追う僕に両親は三年間の猶予を与えてくれて、その期間は仕送りをくれると約束していました」


「けど何をやっても上手くいかず、終いには夜な夜な遊んで借金をする生活になります」


岩田は一体何の話が始まったのかと思っていた、それは佐藤も同じのようで口を挟もうとしたが岩田は目で訴え掛けて制止する。

関係の無い話でも何かしらのヒントがある、そんな可能性を信じて。


「そんな生活が一年続いた頃、父が倒れ仕送りが無くなりました。

借金を両親からの仕送りで返せば良いと思っていた僕は憤慨して約束の残り二年分寄越せと暴言を吐いてしまった事を後悔しています」


「それから両親とは疎遠になり、当時住んでいたアパートの支払いがきつくなった僕が引っ越先に選んだのがいとま荘です」


やっと出てきた、いとま荘の名前に二人はホッと胸を撫で下ろす。


「引っ越しの初日から聞こえたあの【カンッ】という階段を上がる音、これが僕の人生を変える事になります。

刑事さん達もこの音について聞きたいんじゃないんですか?」


「まぁ、そうだな行方不明になった二人とどう関係するのか気になる部分ではあります」


探ってくるかのような目で質問してきた河田に岩田が素直に応えた。

刑事が超常現象に対して真剣に調べているとは思ってもいなかった河田は、その素直な解答に面食らいながらも話を続ける。


「意外です、警察の方はこうゆう超常現象に対して無関心だと思ってました」


それに対して今度は佐藤が応えた。


「どんな些細な事でも捜索のヒントになる可能性がありますのでお話を聞きにきたんです、決して超常現象を認めている訳ではありません」


その佐藤の言葉に「本当は捜査の途中であの女を見ちゃったんじゃないですか?」と厭らしく探ってきた。


「そんな事はありません、我々の捜査でその心霊現象は確認出来ませんでした」


佐藤ははっきりと応える。

それもその筈で岩田はあの自分が体験した事に関して佐藤には伝えてないからである。

そのはっきりとした対応に河田は当てが外れたかのように「そうですか…」と引き下がり話を戻した。


「毎日、一段一段と迫ってくるあの女に僕は恐ろしくなり、再度引っ越しも考えましたがお金なんてありません」


「自分の部屋がある13段目まで来たらどうなるんだろう? そんな不安な日々と戦いながら当日を迎えた僕は、玄関先に塩を盛り御札を貼って女を待ちます」


【カンッ、カンッ、カンッ、カンッ】


「いつもどおり、ゆっくりと女は上ってきました」


【カンッ、カンッ、カンッ、カンッ】


「半分くらいまで上ってきた所で部屋の電気が消えました」


【カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、カンッ】


「その音で女が部屋の前にいる事が分かります」


「すると【ガチャガチャガチャガチャ】と無理やり扉を開けるようにドアノブを何度も何度も回し始めました」


「僕は震えながら布団にくるまり目を閉じて、ひたすら念仏を唱えてました」


「そんな事をしているといつの間にか音は止んでいて。

もう大丈夫かと目を開けた瞬間の光景は今でも忘れません。

貼ってあった御札はビリビリに破かれて部屋に散らばり、盛ってあった塩は墨でも入れたかのように黒く染まっていたのですから」


「その後、僕はふと後ろに気配を感じて振り向きました。

するとベランダから恨めしそうに覗く女の姿があり、僕は気を失います」


「それからというもの女の姿もあの階段を上がってくる音も無くなりました」


「以上が僕の体験した全てです」


「…」


話を聞き終えた二人は黙って河田を見つめる。

すっとぼけたようなその顔へ向かって岩田は「それネタだろ」と鋭い目付きで睨んだ。


ばつが悪そうに河田は「いやぁ~、知ってるなら先に言って下さいよ」とふざけた態度をとる。


「知ってるって事は何でいとま荘について調べていたのかも察しがついていながら質問してたんですか? 刑事さんも意地悪だなぁ」


恐らくだが河田は自分の話の信憑性を得るために調べていたのだ。

そして調べ終わりいらなくなった資料を押しつけてきたに過ぎない。

更にこれまで彼の話してくれた事はYouTubeにある河田好奇のネタであり、それが真実だと二人は思っていない。


だがそれから話してくれた真実とはあまりにあっけないものであった。

実際に彼が変更したのは女が階段を上りきってからの出来事である。

ドアノブをガチャガチャ回す事は無く、御札が破かれた事実も塩が黒く染まった事実も無い。

13段目まで上った女は結局何もしなかったのだ。


(心霊現象とは無関係だと思いますが)


不動産の中西に言われた言葉を思い出す。

実際にあの女の霊を見て、河田好奇YouTube【13階段】という話で行方不明の原因である可能性が高いと思い込んでいたに過ぎなかった。


今起きている行方不明の捜索は心霊現象を逆手に取った事件。

人によって操作された事件であると岩田は考えを改めて捜索へ当たることにした。

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