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耳染  作者: 木介


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10/14

いとま荘

河田のいらなくなった資料を引き取り二人は警察署へと戻っていった。


佐藤は引き続き行方不明者達の情報収集、特に青木の情報を深掘りするように指示をだす。

岩田は早川の名前を語ったであろう人物が誰なのか探るため、再び不動産へと向かっていった。


「防犯カメラの映像ですか?」


着いて早々に岩田は用件を伝える。

本当は当日に偽早川を案内した鈴木に対応してもらいたかったが本人はおらず、対応は中西がやってくれた。

一応従業員でも確認出来るように事務室からカメラの録画を見る事は出来コピーを取らせてもらう。


偽早川がいつ来たか内見の予約日時である10日前から当たりをつけてカメラを巻き戻していく、すると眼鏡にマスクといった怪しい人物が姿を現した。


「その人ですよ」


横から中西が声をかけてくる。


「この人が? それにしてもよく分かりましたね」


「まぁ、最初に対応したのは私なんで」


意外な答えが返ってきた。


「対応したのは鈴木さんでは?」


「鈴木がやったのは案内です、最初の対応は私がしました」


この中西という人物、前もそうであったが自分は動かず若手社員に現場へ向かわせるというスタンスらしい。

その考えに至った時、別の可能性も頭に浮かんだ。


「中西さんはいとま荘に行った事はありますか?」


岩田が思った可能性、中西はいとま荘を避けている(・・・・・・・・・・)という可能性である。


「…もちろん、行った事はありますよ」


「では、この防犯カメラの映像をコピーしている間に案内してくれませんか?」


「案内でしたら別の者にさせますので」


そう言って取りつく島も無い。


「何故、中西さんが案内してくれないんですか?」


岩田も食い下がる。


「私は責任ある立場ですので基本的にこの場にいないといけないんです」


中西の言ってる事は至極真っ当ではあるが岩田の聞きたい事ではない。

意を決して中西に核心をつく質問をぶつけた。


「あのアパートに出てくる霊が怖いから行くのを避けてるんじゃないですか?」


「何を馬鹿な事を」と中西は呆れたように返事を返す。


「それを知ってるから貴方はいとま荘に近付かず他の人達に案内させてるのでは?」


岩田は捲し立てるように話を続ける。


「何を言ってるのかさっぱり分かりませんね? あの女の霊(・・・)が怖いって何を根拠にそんな事を言ってるんですか?」


岩田の捲し立てるような言葉へ返すように中西も早口で返す。

だがそれは岩田が待っていた言葉であった。


「…何で、女の霊(・・・)だと知ってるんですか?」


「えっ?」


「前回も今回も女の霊なんて一言も言ってませんよ、何故分かったんですか?」


「それは…、そうあの二人が言ってたんだ、女の霊が出るって」


上手くかわしたように話す中西であったがそれも岩田の想定内である。


「質問を変えます、では何故その事を隠してたんです?」


「別に隠してたわけじゃ…」


「あなたは以前【心霊現象とは無関係だと】言い張ってましたよね? 根拠も無しに事故物件だと言われてそう返したのなら分かります。

ですが女の霊について言われたのなら話は変わると思いますが?」


「…」


「中西さん、人が二人も行方不明になっているんです、知っている事を話してくれませんか?」


そして中西は諦めたようにかつての【いつま荘】についてゆっくりと語り始めるのであった。


そもそも【いとま荘】とは営む間と書いて営間(いとま)と呼んでいたらしい。

その場所の目的はただ一つ、男女の営みである。ここはかつて売春宿だったのだ。

地元の有力者達、政治家や警察などが行きつけの店でその違法性が世に知れ渡る事はなかった。

そしてここへ集められた少女達は皆若く、その年齢は平均で14歳であったという。

彼女達は一様にこの世を怨みながら死んでいったのだろう。

その怨念が集まり形を得たのがあの女の霊ではないかと中西は語ってくれた。


「中西さん、話して頂きありがとうございます。

只なぜ今までその事を話してくれなかったんですか?」


「なぜってうちも商売だからね、変な噂が立つと困るんですよ、それに…」


言い淀んでいる中西に最後まで伝えてくれと言わんばかりの勢いで「それに?」と岩田は言葉を繰り返した。


「お調べになった河田さんより前の住人は2週間経たずに出ていってしまっていたので」


河田よりも前の住人もあの女の事を見ている筈、それなのに誰も事故物件としてSNS等に上げていないのは何とも奇妙な話であった。


「中西さん過去いとま荘に住んでいた方達のリストを頂けますか?」


「えっ? まぁ良いですけど」と中西はめんどくさそうに返事をする。


「あともう一つ良いですか?」


「…なんですか?」


「このアパートの101と102あと202号室の中を見せて頂く事は可能でしょうか?」


「202号室であれば可能ですよ、ただ下の101と102は住人の許可が無ければ入れません」


「住人? 空き部屋じゃないんですか?」


岩田がいとま荘へ向かった時に人の気配など一切しなかった為、疑問をぶつけた。


「住んでは無いですが家賃を払い続けて借りてる人がいますので」


「ちなみにその人の連絡先って…」


「持ってきますよ」


このめんどくさいやり取りに解放されたかったのか中西は早々に部屋を後にした。


(やはりポイントはこのアパートと青木についてだ)


そう考えをまとめてながら、岩田はこの事件の真相に近付いている。

そんな気がしてならなかった。


「お待たせしました」


そう言ってすぐに中西は資料を持ち戻ってきた。

その様子から彼は既に用意していた事が伺え「ずいぶん早いですね」と皮肉めいた言葉を返す。

その岩田の言葉には応えず中西は「どうぞ」と資料を渡してくる。


過去に住んでいた住人のリストといとま荘1階の住人である【岡部久美(おかべくみ)】の住所と連絡先をもらい岩田はその場から立ち去るのだった。

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