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耳染  作者: 木介


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8/14

遭遇

現在、午後11時50分。


岩田は今日の出来事を思い返していた。

あれから近隣の住人へ聞き込みをしても有力な情報は無く、不動産の鈴木へお願いしていた【青木達の前に内見へ来ていた人物】の情報を受け取りに戻った。


それに佐藤からの報告によれば森田は元の動画を消してしまい持っていないとの事であり回収が出来なかった。

だがもう一つの指示である河田康貴との連絡がつき、明日話を聞く事が出来るとの事だ。


そして現在、不服ではあるが岩田はあの男に言われたとおり、日付けが変わる0時までアパートの外で待つという行動に出た。

一見意味の無さそうな事に身を委ねたのはこの事件の可能性、超常現象と現実の区別をはっきりさせる為である。


23時59分00秒


残り1分で何が起こるのか、嫌な汗が額に滲む。


23時59分30秒


今ならまだ間に合うと体中からドクドクとした警告音が鳴り響く。


残り10、9、8…。


季節外れの寒気と震えが止まらない。


5、4、3…。


嫌な予感を振り払い決意を固めてアパートの階段を見つめた。


2、1…。


……。


…。


何も起こらない。

その事にホッと息を撫で下ろし気を抜いた瞬間。


【カンッ】


先程まではいなかった黒いワンピースに赤いハイヒールを履いた髪の長い女が階段の1段目に俯いて立っている。


「おい、あんた一体どこから来たんだ」


そこで声をかけれたのは勇気か無謀かどれでもない。

敢えて表現するなら彼が警察官だからである。


その女の不気味さを感じながらも近づいていく、服から出た青白い腕はこの世の者でない事を表しており、これ以上近付いてはいけないと本能で感じた。


気付けば先程まで後ろを向いていた筈の女が何の音も立てずに岩田と向き合っている。

そこで岩田は1歩下がってしまったのだ、その1歩が彼の心を表しており、隙を与えた。

先程まで階段にいた女はまるで下から生えてきたかのように岩田の懐に入り、その大きく見開いた目で視界が埋まった。


「うわぁー!」


岩田は若い頃から武術を学んで人より強くあった。

学ぶ事を追求して人より賢くあった。

多くの人の死を目の当たりにした経験があった。


そんな彼が声を上げて腰を抜かす程の恐怖であり、自らを守る為目を閉じ、手で距離を置こうとしたのは必然である。


そして再び目を開けた時、女の姿はなく自らのカウントダウンが始まった事を岩田は悟った。


「あれに声をかける何て流石刑事さんだ」


人を不快にさせる声、あの男である。


「そんな恐い顔しないで下さいよ、お陰様で良いものが撮れましたから」


そう言って男は持っているビデオカメラを掲げてみせ手を差し伸べる。

岩田は未だに震える足を強引に動かして、一人で立ち上がった。


「くだらない動画だったら1発殴らせろ」


「おぉ、怖い」


そんな強がりを吐き自らを奮い立たせ、その動画を確認する。


まず映っているのは岩田の後ろ姿とアパートである。

画面が暗くなったと思えば【カンッ】という音と共に女が階段の1段上に立ち俯いている。

すると突然女は消え「うわぁー!」という叫び声を上げて、一人で腰を抜かしている岩田の姿へと変わった。


「あの女は動画に映らないのか?」


岩田は男へ疑問をぶつける。


「映らないも何も直接見ていた私にも何が起こったのかは分からなかったですよ」


つまりはあの瞬間、何が起きたのかは岩田本人しか分からないという事である。


すると男は唐突に質問をしてきた。


「ちなみに刑事さん、音は何回聞こえましたか?」


質問の意図が理解出来ず「1回だが?」と至極当然のように答えた。


「私は2回(・・)です。女も階段の2段上(・・・)にいるんです」


「いやいや、そんな訳ないだろ? 同じ映像を見てるんだぞ」


「そうは言っても刑事さん、なんとなく察しがついてるんじゃないですか?」


「…」


その言葉に岩田は黙り考える。


(それぞれで持っている情報が違う、そういえば山下彩も彼女だけが何か知っているようだった)


その様子を見て男は名刺を差し出してくる。


【北川修也(きたがわしゅうや)】


これがこの男の名前で職業は探偵、行方不明者である山下彩を捜索しているらしい。


「刑事さん、同じ呪いを受けた者同士、協力しませんか?」


この男のやり方には納得出来ず、相変わらず岩田を不快にさせたが、命をかけて仕事に取り組む姿勢を買って岩田も名刺を差し出す。


「何か進展があればお互いに共有するのでどうだ?」


「分かりましたよ、お互いに命が掛かってますからね」


こうして北川は岩田の名刺を受け取り夜道を一人歩いて行くのであった。

取り残された岩田はアパートを見つめ、この行方不明捜査は一筋縄ではいかない事を確信していた。


ーーー


夜も更け既に帰る手段を無くした岩田はネットカフェで一夜を過ごす。

とはいえあの経験から眠れる筈もなく【栄市栄町】や【いとま荘】について調べていったが、それといって有力な情報は得られない。


そもそも階段の女とは一体何なのか?

思考を変えて今度は心霊現象について調べていった。

すると辿り着いたのが【河田好奇】という怪談師のYouTuber、彼が語る【13階段】は今まさに岩田が体験している状況と酷似している。


それに彼の名前は漢字こそ違うが前の住人と同じであった。

2年間住んでいたという河田康貴は何かあの部屋の事について知っている。

明日は彼からどれ程情報を引き出せるかが肝心である。

それともう一人鈴木からもらった情報。

青木達の前に内見へ来ていた人物【早川拓人(・・・・)】彼もまたこの事件の鍵を握る人物に違いない。


岩田は色々と考えをまとめ少しの眠りについたのだった。

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