捜査開始
「行方不明者届が提出されたのは動画編集者の青木省吾さん1名、届け出を提出したのはその編集者に仕事を依頼していた会社の担当者、森田清史郎さん」
「捜査を進めている段階で同会社所属のクリエイター山下彩さんも行方不明になっている事が判明しました」
「二人はある動画で共通の悩みを抱え依頼者である森田氏を通じて行動を共にしていたと考えられます」
ここまで聞いて40代半ばの中年の男性が口を開く。
「悩みとは?」
「心霊現象に悩んでいたらしいです、森田氏いわく女の霊が毎日、日付けが変わると1段ずつ階段を上がってくるとか」
「女の霊ね…」
ありえないと思われる現象だとしても行方不明者にとっては実際に起きている出来事であり無関係では無い。
その考えで長年、行方不明者の捜索に当たっていた岩田文夫は部下である佐藤優也にその動画について深掘りを始めた。
「事故物件に泊まってみたという企画で動画は森田氏から提供された物です」
岩田は佐藤と共に動画を見ていく。
「この場所は?」
「はい、モザイク等を取り払い、解析して頂いた結果。
ここは○○県の栄市栄町にある【いとま荘】というアパートの二階でした」
【カンッ、カンッ、カンッ】
と字幕が入った部分で「ん? 今の所止めて、もう一回頼む」と岩田は指示を出し再生する。
「聞こえたか?」
「いえ、私には何も」
音もしてないのに【カンッ】という字幕を入れている違和感。
『女の霊が1段ずつ階段を上がってくるとか』
佐藤の言葉を思い出す。
(もしかしたら彼らにしか聞こえない音なのか?)
岩田は改めて森田へ心霊現象について詳しく話を聞き、編集前の元動画を貰うように指示を出した。
「分かりました。岩田さんはどうするんですか?」
「俺か? 俺は管理している不動産へ行って現場を見てくるよ」
岩田は長年の勘でこの行方不明捜査に嫌なものを感じながら現場へと足を運ぶのだった。
ーーー
岩田は不動産へ着くなり、身分を明かすと関係者に話を聞く為、奥の応接室へと通される。
「お待たせしました、当日担当させて頂いた中西と申します、でこちらが…」
「当日案内をさせて頂いた鈴木です」
「私、○○署の岩田と申します、本日はお時間頂きありがとうございます」
そう簡単な挨拶をして二人の写真を見せると当日対応したという黒縁メガネでいかにもベテランの男性、中西がまずは話を始めた。
「そのお二人でしたらあの物件を事故物件だと言い張って聞かなかったんです、まるで私達が隠してるかのように」
少し言葉にトゲを感じ、客観的な意見ではないという事を頭の隅に入れる。
「実際、事故物件では無いんですか?」
この質問に中西は嫌そうに応えた。
「そりゃ、古い建物ですから一回も無かったかと聞かれるとそんな事は無いですが、彼らが訪れてくる前に住んでいた方は2年も住んでいたんです、心霊現象とは無関係だと思いますが」
「ほう、その方の名前を伺っても?」
「少々お待ち下さい」と言って中西は席を離れた。その間に残った鈴木へ声をかける。
「案内したのはあなたでしたね、何かお二人に変わった様子はありましたか?」
「変わったなんてどころじゃありませんよ」
そう愚痴をこぼすかのように小さな声で話を始めた。
「あの二人というか女性の方ですが、車内でも「事故物件だ」とか「過去に何があったんだ」とか質問攻めです」
「現場に着いたら着いたで車から出たくない、なんてわがままを言い出すし」
彼の愚痴を遮るのは忍びないが岩田は質問をぶつける。
「車から出たくないなんて何かあったんですか?」
「いえ、車内では何も無いです、一緒にいた男性の方が説得してくれてどうにかなりましたけど」
(山下彩は現場へ行くのを嫌がっていたのか? 何か彼女しか知らない情報があったのかも知れないな…)
岩田はそんな事を考えながら話の続きを聞いていた。
「そういえば一つ奇妙な事がありました」
「奇妙な事?」
「はい、何故かキーボックスの暗証番号を彼女は知っていたんです」
「キーボックスの暗証番号ですか…」
「えぇ、本来外部の人が知り得る情報ではない筈なのにあの時はビビりましたよ」
愚痴をこぼした勢いなのか言葉使いも砕けてきている、彼からはもっと情報を引き出せそうだ等と思っている時。
「お待たせしました」
中西が資料を持って戻ってきた。
「以前お住まいになっていた方はこの河田康貴さんです」
その河田と言われる男性はまだ若く20代前半のフリーターだったらしい。
2年で収入が安定したのか別の物件へと引っ越してしまった。
彼の連絡先を控え、部下に共有し会って話せないか連絡をしてみてくれと指示を出す。
「ところで最後のお願いなのですが…」
「なんでしょうか?」
「その二人が向かった物件、私も連れてってくれませんか?」
「…分かりました、ではこの鈴木が案内します」
この件に関わりたくないのか中西は後輩の鈴木へと仕事を押し付けてその場を立ち去った。
道中、鈴木から改めて愚痴を聞かされ遂には転職の相談までされる始末である。
だがこれも捜査の為だと岩田は彼の話をひたすらに聞いていた。
「着きました、ここです」
案内された場所は動画で見た古びたアパートで特別恐怖は感じない。
鈴木の後に続いて階段を上がるとその際の【カンッ】という音が彼らの聞いた増える足音だという事がすぐに分かった。
「えーと、今開けますから待って下さい」
そう言ってキーボックスを開ける姿は無防備で暗証番号0298がまる見えだ。
この時、岩田はふとある答えに辿り着いた。
「鈴木さん、お聞きしたいんですけど、彼らが内見に来る前に誰か別の人が内見に来ませんでしたか?」
「別の人? あぁ、来ましたよ、案内しました」
「鈴木さんが?」
「はい、私が案内しました」
「なるほど、その方の情報も後で頂けますか? 何か参考になるかも知れないので」
「はぁ」
鈴木は気の抜けた返事を返すがこの答えでキーボックスの謎は解けた気がする。
無防備な鈴木の手元を盗み見てその人物は暗証番号を知り、山下彩へと伝えたのだ。
【ガチャ】という音と共に扉が開いた。
中も変わらず不気味な気配は感じられない。
廊下を真っ直ぐ進んだ先にある和室、右手に押入れがあるだけで特段変わった所は無い。
岩田は押入れを開き中を確かめる。
その様子を見て鈴木が「あの~、やっぱり何かあるんですか?」
突然の質問に岩田は「何でそう思うんです?」と返した。
「いや、以前一緒に来た男性も押入れの中とかくまなく見ていたので」
(青木も部屋をくまなく見ていたのか、何かを探していたとか?)
少し考え込んだ後、「ありがとうございました」と告げて鈴木とは現場で別れる事になった。
近隣の住人へ聞き込みをし彼らの行方を探る為である。
そんな岩田の様子を遠くから見ていた、40代半ばの男性が話しかけてきた。
「あんた刑事さんだろ?」
男性はにやけ面で近づいてくる。
「あなたは?」
この手の人の扱いに慣れている岩田は毅然とした態度で質問を返す。
「俺? 俺の事はどうでも良いんだよ、刑事さんに面白い情報を教えてあげようと思ってね」
何やら不快な態度ではあったが無下には出来ず話を聞く。
「日付けが変わる瞬間、このアパートにいると良い、面白いものが見れるから」
そう言って男は去っていった。
(日付けが変わる瞬間? 確か森田の話でもその瞬間に音が増えるとの事だったが…)
「まさか本当に出るとでも言いたいのか…」
その言葉は既に暗くなってきている闇へと消えていった。




