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耳染  作者: 木介


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6/14

山下澪

妹が行方不明になって3日が経つ。

大学を卒業してから「YouTuberになる」と実家を出ていった妹、両親は「何の為に大学まで行かせたと思ってるんだ」と呆れ疎遠になっていた。


事が発覚したのは妹が所属していた会社からの連絡である。

それも担当していた動画編集者が行方不明になってしまい、最後に一緒にいたであろう人物が妹だからという理由で連絡がきたのだ。


いわば他の人を探すついでである。


以前、妹が「登録者が100人超えた」と喜びの連絡をしてきた事があった。

有名なクリエイターの動画ばかり見ていた私は何も考えず「100人って凄いの?」などと無神経な事を言ってしまい妹に怒られた事を憶えている。

だがその100人も妹の行方不明など気になどしない、突然YouTubeの更新が途絶えても誰も気になどしないのだ。


行方不明者届けを提出して警察の捜査も始まった。

疎遠になっていた両親も既に元気が無い。

いてもたってもいられない私は以前連絡があった担当の森田へ会う約束を取りつけた。


それは連絡がきた際に妙な事を言っていたのが気になったからだ。


「何か動画の悩みとか言ってましたか? 例えば霊に付き纏われてるなんて…」


妹のチャンネルを見ると最近心霊系の動画を撮っていたらしい。

警察にも一応伝えるとは思うがそんな観点から捜査するとは思えない。


だから私は自分の目で確認してみたいのだ。

森田が言っていた言葉その真実を。


待ち合わせ場所は森田が勤めている会社近くのカフェ、到着してから森田へ電話をかける。


「森田です」


「山下です、待ち合わせ場所に着いたのですが森田さんももうすぐいらっしゃいますか?」


「あっ、でしたら中にいますので入ってきて下さい」


約束の時間より早くに着いてしまったと思っていたが結果として早くに合流出来る事になった。

中へ入り店員へ待ち合わせの旨を伝える、すると森田が立ち上がって「こっちです」と声をかけてくれた。


「改めてまして、森田清史郎(もりたせいしろう)と申します」


30代半ばで爽やかな見た目の男性が会社員らしく名刺を渡してくる。


「山下澪(やましたみお)です、今日はお時間を作って頂きありがとうございます」


「とんでもないです、何か飲みますか?」


「あぁ、じゃあ烏龍茶で」


澪の注文を聞き、手際よく店員を呼び飲み物を注文する。


飲み物が届いてきたのをきっかけに「では早速ですが…」と森田はテーブルの上に置いてあったノートパソコンを澪にも見えるように動かした。

それはまだネットにも載せていない動画で妹が最後に撮影したものらしい。


この動画をきっかけに妹と動画を編集した青木の二人には女の霊が見え、その女が階段を上がる【カンッ】という幻聴が聞こえ始めた。

共通の悩みを抱えた二人は森田を通じて連絡を取り合い行方不明になってしまったとの事だ。


「ここ、カンッ、カンッ、カンッって字幕が入ってますよね、これは編集してくれた青木さんが入れてくれてるのですが…」


「全くそんな音、聞こえませんね」


森田のセリフを奪うように澪は応えた。


「大層な企画の割に撮れ高が無い動画です。盛り上げる為に強引に編集したのかと思ったのですが、もしかしたら彼らには聞こえていたのかも知れません、その階段を上がる女の音が」


「…」


「でも何で二人には聞こえて私達には聞こえないんでしょうか?」


澪は誰もが思うであろう当然の疑問をぶつける。


「私も考えました、恐らくですが動画の違いかと」


「動画の違い?」


「私達が見ているこの動画は青木さんが編集した動画です、現場にいた山下彩さんはともかく元の動画を見たのは青木さんだけでしょうから」


「森田さんはその元動画を持ってないんですか?」


「…ありません」


森田は歯切れ悪く応える。


「えっ? じゃあ動画って直接彩と青木さんでやり取りするんですか?」


「…違います」


森田のあまりにも歯切れの悪い対応に不信感を抱き「どうゆう事ですか?」と澪は少しムッとした顔になる。


「私は信心深い質なんです、これが本物の呪いの動画であれば見る事なんて出来ません、それに持っている事も…」


そこまで聞いて澪は察した。

簡単な話、森田は階段の女の話を聞いて怖くなったのか、二人が行方不明になったと聞いて怖くなったのか分からないが元の動画を消したのだ。


「じゃあ元の動画って彩か青木さんしか持っていないんですか?」


「はい、すいません…」


これ以上、動画の話をしていても埒があかない為、話題を変える。


「この場所ってどこなんですか?」


「場所は○○県の栄市栄町という所らしいです」


「よくご存知ですね」


「探偵に調べてもらったので」


この言葉に彼は彼なりの責任を感じている事が伝わってくる。


「他には? その他に探偵が調べてくれた事ってありますか?」


澪は森田から情報を共有してもらった。

彼らの行方不明になったであろう日の足取り、分かったのは不動産へ行き例の事故物件へ再び訪れた事、その際に何故かキーボックスの暗証番号を知っていたという事実。

駅で二人は別れ、彩は図書館で栄町の過去の事件について調べていた事。


そして彩は再びあの事故物件に足を運んだであろうという事だ。


探偵の調査能力に驚きつつ、やはりポイントは事故物件だと澪はある決意を固めて立ち上がった。


「森田さん、ありがとうございます」


そう言ってお金を置き出口に向かう。


その表情から彼女が何をするのか分かった森田は「危ないですよ、まだ警察の方も私が雇った探偵も動いてくれています」と言葉をかける。


「心配性してくれてありがとうございます、でも私のたった一人の妹なんです」


彼女は自らのやり方で調査を進めるのであった。

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