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「と、こんな風に音が増えていくんです!」
一生懸命に説明する青木に電話口の相手である森田は「はぁ」と言った気の抜けた返事を返した。
彼が考えたのは自分と同様に被害に合っている人、つまり動画を見た人物がいるということである。
しかし森田の反応は予想に反したものであった。
「森田さんは何とも無いんですか?」
青木の予想が当たっているのであれば同じ動画を観ている彼にも変化がある筈だと質問をぶつけた。
「私は別に何とも…、ただこの動画以降彼女の調子は悪いらしいです」
「彼女って…」
「山下彩ですよ」
森田によればこの事故物件に泊まる企画をしてから新しい企画の持ち込みや配信をしなくなったらしい。
何百とクリエイターを抱えている会社なだけに夢半ばで辞めていく人も多い。
だからこそ彼女と連絡を取った際に体調が優れないと聞いた森田は彼女もその一人になったのだとそれ以上の言葉を交わさなかった。
「青木さんが仰ってるようにこれが本当に心霊現象であれば彼女も現在同じような境遇かも知れませんね」
「彼女と連絡をとってくれますか?」
「わかりました、一度連絡をしてみます」
そのような約束を取り付け青木は電話を切る。
そして自分に出来る事は無いかと彼女が行っていた事故物件について調べる事にした。
【事故物件】このワードで検索すると多くの情報がヒットしてしまう。
【事故物件】【階段】【音増える】ワードを増やして検索すると【13階段】という怖い話をしている怪談師のYouTuber河田好奇へ辿り着いた。
その話はあるアパートの201号室へ二週間住むことは出来ないというシンプルな話である。
そこの二階へ上がる階段は13段で毎日、1段づつ霊が上がってくるから14段目にある201号室へ辿り着いた時、部屋の住人は亡くなってしまうという話だ。
この話を聞いて青木は山下彩の動画を確認した。
「やっぱりこのアパートも13段だ…」
偶然の一致とは思えず、その河田好奇の名前を検索してDMを送ってみる。
ただ気掛りなのは私はそこに住んでなどおらず、動画ではその霊が付いてくるという話はしていない。
彼が体験した心霊体験より達が悪い何かに憑かれてしまったという事だ。
【プルルル】
そんな事を考えている時に森田から着信が入った。
思わずビクッと体が反応してしまったが気持ちを切り替えて応答する。
「お疲れ様です、青木さん今大丈夫ですか?」
「お疲れ様です、大丈夫です」
「例の件なのですが山下さんに連絡したら青木さんと話したいとの事なんですが、連絡先を教えても良いですか?」
「はい? えっ? 良いんですか? 御社に所属しているクリエイターが私みたいな一般人と交流を持っても」
「所属しているとはいっても、大人ですから本人が望むなら問題ありません」
まさかの展開にこんな状況でありながら胸が躍った。青木の答えは勿論OKである。
森田とのやり取りを終えて暫くすると知らない番号から着信が入った。
恐る恐る電話に出ると聞き覚えのある声で「青木省吾さんですか?」と、これだけで青木のテンションは最高潮へと達する。
「はい! 青木です! その声はもしかして山下彩さんですか?」
「はい、山下彩です。すいません突然ご連絡してしまって」
推しとの電話に緊張で上手く話が出来ているか、声が上擦ってないか冷静を保ちながら会話を続ける。
「いえ、とんでもないです…」
「そうそう、あれですよね、階段の霊についてですよね」
「階段の霊? 私に付き纏っているあれはそう言うんですか!?」
突然でた階段の霊という聞き慣れないワードに疑問を抱きながら、連絡した相手が自分と同様の心霊体験をし、詳細を知っていそうな雰囲気に山下は興奮を隠せない。
その心理状態を感じ取った青木はあまり期待を持たせないように自分が調査した結果を話した。
「だから階段の霊ですか…」
「はい、その動画を投稿している河田好奇さんにDMを送っているのですがまだ返事はありません」
「となると今度はあの場所について私が調査した結果をお話します」
「あの場所についてですか?」
場所に関しては青木は調べようが無く、今度はこちらが期待に胸を膨らませる。
「あの場所は○○県栄市栄町にあるアパートでして、次の企画をどうしようか悩んでいる時にあるフォロワーの方が教えてくれたんです。
「次の企画は事故物件なんてどうですか?」って」
「そこには事故物件の場所も書いてあって、他に良い案も無かったし、何より最近あげた心霊系の再生数が伸びていた事も相まって、私は提案された事故物件に泊まってみようという企画を考えました」
「その後森田さんへ話を通して、私も出来る限りの事をしました。不動産と直接メールでやり取りをして撮影の許可を得たり、その建物に関する怖い話を調べたり、そしてあの動画を撮る事に成功したんです」
「ただ…」
「ただ?」
「動画を撮影してから教えてくれたフォロワーの方のアカウントは消えてるし、不動産の方に連絡してもそんなやり取りをしてないって言われて…」
「そんな馬鹿な…動画を観ましたけど、じゃあ一体誰が部屋の鍵番号を教えてくれたんですか? 霊が導いたとでも?」
自分で言って青木はハッとした昨日自分が体験した事、導かれたのでは無く操られていたのだとしたら、私達はとんでもない事に巻き込まれているのだと直感したのである。
「そうなんです…私…もうどうしたら良いか分からなくて…」
半泣きになりながら言う彼女に青木は話題を変えた。
「大丈夫ですよ、こうゆうのはお祓いとか行ったらすんなり解決するかも知れません」
「…もう行きました」
「えっ?」
「もう行ったけどあの女は私に付いてまわるんです」
「…」
予想外の返答に返す言葉が見つからない青木は彼女の言葉からヒントを得ようと頭を回転させた。
「そういえば事故物件について調べたって言ってましたよね? それの結果はどうだったんですか?」
「何にもありません、ネットでは事故物件ですらありませんでした」
「そうですか…」
「あの、もし良かったら何ですけど、その事故物件に二人で行きませんか?」
「えっ…?」
彼女の嫌だという雰囲気が電話越しに伝わってくる。
「二人で見に行って、不動産で話を聞いたり、周辺の住人に聞き込み調査したりしませんか? ネットに情報が無いならもう自分達で探すしか無いですよ」
「…」
青木の言葉に彼女は暫く黙り込んでいたが「分かりました」と返事をもらえた。
なるべく早い方が良いと明日10時、事故物件に一番近い駅で待ち合わせの約束をして彼女との通話を終えたのだった。




