山下澪2
妹との違いを感じたのは私が高校生の時、初めて出来た恋人に言われた一言「お前の妹って可愛いな」だった。
薄々、気が付いてはいた。
両親も妹を玉のように可愛がり、その接し方は自分の時とは雲泥の差であったが同じ境遇の友人に話すと似たような問題を抱えており、どこでも同じようなものだと思っていた。
だが自分の恋人に言われたショックは大きく、彼とはそれが原因で別れる事になった。
これは妹に当たってもしょうがない事、私はそのモヤモヤを心の隅にしまいこんだ。
その後、裕福でなかった私は大学に行く事を諦めて就職し、少しでも家の助けになればと給与の殆どを実家に入れていた。
就職した不動産業界では古い考えがあり、学歴の無い私が仕事を得る為には自らを献上して女として取り入るという方法が当たり前だと教え込まれた。
そんな風に稼いだお金もあり、妹は大学へ行き、卒業、そして…。
「私、YouTuberになる」
そんな事を言い出し両親と喧嘩別れしたと私は思っていた。だけど実際は違ったのだ。
YouTuberとして上手くいかない妹は両親に甘えて仕送りを貰いながら自分の夢を追っていた。
その事実を知った時…私の中で…何かが…壊れた。
その頃、取引先の早川が私に子供を堕ろすよう大金をちらつかせて迫っていた。
彼にとって私は自らの性欲を満たす為だけの安い女、我が身可愛さに身勝手を押し付けてくる。
出来高制である早川の会社、彼は優秀なセールスマンでも無く評価は低い。
なのに彼の金回りが良いのは別の理由があった。
それは同じ業態で働く中西から違法なお金を受け取っているからである。
中西は既に亡くなっている人を生きてるという事にしてそのお金を横領し私腹を肥やす、早川は手伝いをしていたから。
私は彼に了承した。
「ただこの子のお墓が欲しいから埋葬出来る場所を探して」と言って。
そして選ばれた場所がいとま荘の1階、気弱な早川は中西と共に待つ。
庭に簡単な土饅頭を作り、弔ってやれば良い。
そんな呑気な気持ちで待っていた彼らは、この後の大層な問題に巻き込まれる等、露程も思っていなかっただろう。
私はそんな彼らに赤ん坊を見せてあげた。
血にまみれ人とは呼べない物体。
だがそこにある物は無視など出来ない現実である。
二人は岡部久美の借りてる102号室へ向かい、和室の畳を剥がして床板を取り、地面を掘った。
彼女が願ったお墓は二人によって形を帯びていく。
埋葬が終わり私は「ねぇ、あともう一つお願いがあるんだけど…」と静かな声で言った。
「私の妹、痛い目にあわせてくれない?」
突然言い放つ私の顔は既に狂喜を帯びていて誰も断る事など出来ずに計画は進んでいく。
妹の動画編集担当者が青木になったのは偶然ではない。
早川の友人で動画編集をしている人物、青木を利用したのだ。
彼が仕事を貰っている会社に妹をYouTuberとして所属するように進め、その時に担当編集者は青木が良いと会社へ伝えるように誘導した。
妹に首を縦に振らせるのは私にとっては簡単な事であった。良いこと悪いこと、なんでも私に報告してくる馬鹿な妹。
だから私は「あんたが実家を出て何してるかお母さん達に言うよ」と脅す。
遊んでいる事がバレて仕送りを止められる事が怖い妹は渋々私の指示に従うのだ。
そして徐々に、徐々に、青木の想いを増幅させていき、あの事故物件企画へと行き着く。
心霊現象により行方不明という名目で実際は計画的誘拐、片想いの男にその意中の相手を献上したのだ。
そして警察が二人を見つけ無事に事件は解決の筈だった筈なのに…。
妹は私が埋めた赤ん坊を掘り起こしてあやし、
またしても私から奪った、私の赤ちゃんという大切な存在を。
その後妹が死んだと聞き、私から奪ってきたのだから当然の報いだと思った。
二人が見つかり中西が逃げ出した。
そんな事は私が許さず、中西は私が殺して早川をいとま荘に呼んだ。
「こいつは私達を裏切ったわ、ここに埋めましょ」
その時、早川がした怯え縋るような情けない顔は今でも忘れられない。
(そうだ、今度はこいつを殺そう、私を弄んだ報いを受けさせるんだ)
そんな想像を膨らまし顔がにやけてくる、そうこれは私の復讐、私を苦しめた人達への復讐なんだ。
…思考がその様に支配された時、ふと疑問を感じた。
(私…今…なにしてるんだっけ?)
【カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン】
その音ではっと思い出す。
あの時、最初にこのいとま荘に着いた時。
私は早川の提案を断ろうと思ってきたんだった。
だけどここへ着いた途端にお腹が痛くなって子供が産まれた。
おぎゃあと泣いて産まれた私の小さな、とても小さな子供。
その命は数分いや、もしかしたら数秒であったかも知れない。
その命が消えた瞬間、彼女に出会った。
青白い手足に長く綺麗な黒髪、全身を黒く包んで赤いハイヒールを履いた彼女、月夜が照らした美しい人。
そして彼女は囁く。
『あなたを苦しめた奴らはみーんな殺せばいいのよ』
「そうよ、殺せばいい」
突然一人で発言した彼女の後ろにはお揃いの黒いワンピースで赤いハイヒールを履いた。
一目でこの世ならざる者だと分かる者が立っており、二人共同じ視線で早川を見下ろすのだった。




