呪う音
佐藤は今回の事件が終わったものなどと考えていなかった。
端から見れば青木が山下彩のファンという枠を超えて山下彩を拉致監禁した計画的な犯罪というストーリーが成り立つ。
だが何か裏で操られている感覚があり、そこには人では無い何かの存在が深く関わっている気がしていた。
その存在に岩田が関わってしまった事も佐藤は既に察している。
「葛城、今日非番なら今回の事件について力を貸して欲しいんだけど」
佐藤は心霊現象に詳しい彼女にこれまでの経緯を話して助太刀をお願いした。
彼女はやっと声が掛かったかと嬉しそうに話を始める。
「今回の事件、そもそも呪いのきっかけは何だと思いますか?」
「事故物件に住んだ事かな?」
彼女は首をブンブンと振り「私の考えは違います」と真剣な表情で言った。
「恐らく【音】ですよ」
「音?」
呆れた様子で話そうとする佐藤を制して葛城は続ける。
「音が原因だったら、近隣の住人は皆、呪われてるって言いたんいんですよね?」
「まぁな」
その返事に葛城は待ってましたと言わんばかりに気合いを入れて説明を始める。
「今回亡くなった、山下彩と青木省吾、二人は同じタイミングで呪いに掛かったと思われます。
これは二人が同時期に亡くなった事からも間違いがありません」
「となると青木は呪いに掛かった瞬間2階にいた訳では無いのに呪われた事になります」
ここで佐藤の指摘が入る。
「それは実際に見たんじゃないか? それなら近隣の住人が呪われていない事に納得がいくと思うけど」
そこまで聞いて葛城は「では質問です」とまるで先生のように人差し指を立てた。
「なぜ青木さんはクライアントである森田さんに音が増えた何て相談したんですか?」
「…」
「そう、彼は当日、女の霊なんて見ていないんですよ、見ていたなら音の原因について把握し女が迫ってくるって伝えると思います」
佐藤は「う~ん」と唸り。
「でも、そうだと仮定して話を戻すと何になるんだよ、近隣の住人が呪われない理由と関係あるのか?」
「もちろん大有りです」と彼女は得意気に鼻を鳴らす。
「彼らが大丈夫な理由それは呪われない方法を知っているか若しくは呪いを解く方法を知っているかになるんですから」
「呪いを解く方法…」
佐藤の中で次にやることが決まる。
「私も行きますよ!」
「えっ?」
「近隣の方達に話を聞きに行くんですよね?」
満面の笑みで話す彼女は心強く二人は、いとま荘へ足を運ぶのだった。
ーーー
いとま荘では再び警察官が大勢集まっている。
「何かあったんですか?」と佐藤は警察手帳を見せながら近くにいた警官へ聞いた。
警察手帳を見て「お疲れ様です。あれ? うちの管轄じゃないですよね?」と疑問を口にされた。
佐藤は直ぐ様ここで行方不明になった人達の調査をしていた者だと説明すると上司に話を通してくれて現場の状況を詳しく聞く事が出来た。
「身体が見つかったんですよ」
「身体ですか?」
現場にいた上司は岩田と同じくらいの年齢であり、彼の不思議な言い方に対して佐藤は改めて丁寧に質問をする。
「君達が調査して見つかった女性、彼女が持っていたものが人間の赤ちゃんだったらしくね。
改めて調査したら次々と身体の一部が見つかっているんだよ」
佐藤が事態を飲み込めず黙っていると「一体何人くらいの身体が見つかったんですか?」と葛城がフォローを入れる。
「一人や二人じゃないよ…」
「…ありがとうございます」
葛城は佐藤の様子を伺い、嫌な予感がした為この場を去ろうと視線で合図を送った。
佐藤は葛城と視線が合い二人でその場を離れようとした時だ。
「しかし大変な事件だったね、お姉さんを殺して子供を取り出すなんて…世の中何があるか分からないねぇ」
やれやれと言った感じで上司は呟いていた。
「…お姉さんを殺した? 何の話ですか?」
その呟きに佐藤が反応した。
「何の話って君達が担当した行方不明者の事件の話だよ」
佐藤達の仕事は行方不明者を見つけた時点で終了した為、その後の事に関して共有されてはいない。
だからこそ彼の話に驚きを隠せなかった。
岩田が見つけた岡部久美は検視の結果、山下彩の姉、山下澪であるという事。
そしてその死因は刃物による出血死、殺害したのは恐らく妹の山下彩だという。
彼女は姉の腹部を刃物で切り裂き、赤ん坊を取り出した。
その証拠に発見時、彼女が待っていた赤黒い丸まった物体はDNA 鑑定の結果、山下澪の子供で間違いないそうだ。
「いやいや、ありえないですよ、岡部久美はどこへ消えたんですか!?」
「岡部久美? あぁ確かそんな偽名を使って住んでいたんだっけか」
「偽名じゃありません! 岡部久美はいたんです!」
狂ったように迫っている佐藤を葛城がわざと大きな咳払いをして制する。
「すみません、何だか彼混乱しているみたいで、失礼しまーす」
そそくさと佐藤を連れてその場を離れる。
「ありえない、岡部久美はいたんだ」
「?????」
「そうだ、岡部久美について改めて調査しないといけない」
「?と?さ?」
「いとま荘だ、あそこを見張って日付が変われば彼女の存在を証明出来るかも知れない」
「佐藤優也!!」
【バチン】と大きな音が響く。
「あんたがしっかりしないでどうするんだ! 呪いを解く方法を調べに来たんでしょうが!」
痛みと怒鳴り声で正気を取り戻してきた。
「でも、まだ事件は終わってないんじゃ…」
いまだにごちゃごちゃと言ってくる佐藤に再び葛城は怒鳴る。
「あなたの目的は何!? 何の目的でここへ来たの!」
「俺は…呪いを解く為に…」
彼女は一息つき「じゃあ私達のやるべき事をやりましょう」と佐藤の肩を掴み目を見て話す。
「…分かった、もう大丈夫だ」
そう立ち直った彼に「世の中には関わらない方が良い事もあるんです」とまるで自分に言い聞かせるように葛城はボソッと呟いた。
そこから彼らの調査が始まる。
【いとま荘について】
【近隣の心霊現象について】
【この町の歴史について】
次々に聞いて回った。
彼らは昔から住んでいる人ばかりで歴史には詳しかったが呪いに関しての成果は無い。
「やっぱり近隣の住人が呪いを解く方法を知ってるなんて考えすぎじゃないのか?」
佐藤は最早、別の方法を考えようと提案してくる。
(何かあるはず…何か見落としてるの?)
葛城は黙って考え込む。
町内に音楽が流れ帰りを促してきた。
友達に別れを告げて帰る子供の声が聞こえる。
「ほら、もう帰る時間だぞ、明日また出直そう」
「…」
「葛城もう…」
「それだ!!」
突然の大声に佐藤は驚き、また怒られるのかと鼓動が速くなった。
閃いた彼女の言葉は信じられないほど単純であったが、それが事実であればあまり時間もかけられない。
あとは岩田の判断に任せようと二人は病院へ急ぐのだった。
ーーー
【カンッ、カンッ、カンッ、カンッ】
今夜もあの音が聞こえる。
【カンッ、カンッ、カンッ、カンッ】
息を切らした二人の話を信じてここまで来た。
今日が命日になっても二人には自責の念にかられないで欲しい。
【カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、カンッ】
これで13回病室の前にいる筈だがカーテンで遮られ外の様子は分からない。
(もしかしていなくなったのか?)
二人が教えてくれた呪いを解く方法それは逃げない事かつての住人達は13日より前に引っ越して死亡した。
唯一分かっている生存者の河田康貴は引っ越し資金がなかったという理由もあるが興味もあり逃げなかった。
そして近隣の住人達が呪われない理由も同様で、いとま荘の周辺には昔から住んでいる人ばかりであり、もし最初に音を聞いたのが赤ん坊の時であったなら逃げるという判断は出来ない。
この推理は賭けであったが、実際に今何の進展もない。
この状況に感謝しホッと一息ついた。
(あれ? 何か…)
まるでデジャブのような感覚。
(そういえば以前にも…)
そう思い出し、恐る恐る自分の布団の中を見ると、まるでそこから生えてきたかのようにあの女が懐におり、その大きく見開いた目で視界が埋まったのだった。
(了)




