囚われの妻は考える 1
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シャルリーヌは戸惑っていた。
今日だけではない。
この一週間、戸惑いっぱなしだった。
離縁しようとしたのに、それを認めないと言った夫セルジュは、帰宅するなりシャルリーヌを部屋に閉じ込めてしまったのだ。
閉じ込められた部屋は、これまでシャルリーヌが使っていたところではない。
シャルリーヌが使用していた部屋の惨状に眉をひそめた彼が、なんと、自分の部屋にシャルリーヌを軟禁してしまったのだ。
普段は城で生活していたとはいえ、セルジュの部屋は定期的に掃除がされており、とても広くて豪華だった。
ベッドルームは内扉で繋がっている隣の部屋で、バスルームもとても広い。
広い室内には大きな本棚にソファセット、テーブルにライディングデスク、棚には高級なお酒のボトルが並んでおり、シャルリーヌが生活するからとティーセットや茶葉も運び込まれた。
ふかふかの絨毯はモスグリーンで、カーテンは藍色。
大きなバルコニーからは、広大な庭が見下ろせるし、バルコニーにもテーブルセットが置かれている。
シャルリーヌはスプリングのきいたソファの端っこにちょこんと座り、この一週間を回想した。
シャルリーヌをこの部屋に閉じ込めたセルジュは、何やら慌ただしく動き回りはじめた。
扉には外から鍵がかけられているので、シャルリーヌが部屋の外に出ることは叶わない。
なので、部屋の外で彼が何をやっているのかはわからなかったのだが――シャルリーヌの食事を運んでくるのはセルジュで、バスルームに湯を張るのもセルジュがすることに、違和感を覚えないはずがない。
使用人はどうしたのだろう。
しかもセルジュは、毎夜シャルリーヌと一緒にこの部屋で寝泊まりするのだ。
シャルリーヌにベッドルームを使わせて自分はソファで寝ているのだが、彼がブラン伯爵邸で生活したのを見たのははじめてで、これもまた彼女を大きく戸惑わせた。
しかも、セルジュはシャルリーヌがそこにいることを確認するように頻繁に部屋にやって来るし、何なら夜中も、こっそりシャルリーヌの様子を見にベッドルームに来ていることを知っている。最初の数日はとてもではないが、寝付けなかったからだ。物音がすればすぐにわかる。
そして今日、その戸惑いは最高潮に達した。
何故なら――
「シャルリーヌ、紹介しよう。ユベールだ。今後、ジョフロアの代わりにこの邸の管理を任せることになる」
セルジュがそう言って、二十代後半と思われる男性を連れてきたのだ。
ジョフロアは王都のブラン伯爵邸の執事だったはずだが、後任が来たということは彼は暇を出されたということだろうか。
この一週間のセルジュの変貌が恐ろしくて、シャルリーヌは質問していいのかどうかもわからなかった。
「ユベールには邸の管理を任せるが、君のことは基本的に俺が担当する。とはいえ、俺も仕事があるから、そのときはユベールを頼ってくれ。近いうちに、君付きのメイドも雇わないとな」
(わたし付きのメイドは、いたはずだけど……)
シャルリーヌ付きのメイドは一応、三人いたのだ。世話をしてもらうどころか、彼女たちの顔と名前も思い出せないくらいに放置されていたけれど。彼女たちはどうなったのだろう。
疑問がたくさん浮かんで、でも質問していいのかもわからずに戸惑っていると、ユベールがにこりと微笑んだ。
「奥様。使用人たちの管理が不十分で大変失礼いたしました。この邸にいた使用人は執事を含めてすべて解雇いたしましたので、奥様のお心を煩わせるものはどこにもおりません。どうぞご安心ください。人数が揃うまで何かと不便をおかけするかもしれませんが、使用人一同、心を込めてお世話をさせていただきます」
「シャルリーヌの世話は基本的の俺がすると言っただろう」
「旦那様お一人ですべてはできないでしょう? 初日に料理をしようとして火傷したと聞きましたよ。アロイス殿下が城のキッチンメイドを一人貸し出してくださってよかったですね」
「…………」
セルジュがバツの悪い顔でそっぽを向いたが、シャルリーヌはそれどこではなかった。
(セルジュ様が料理をしようとした⁉)
火傷したというのも驚きだが、それ以前に彼がキッチンに立ったというのが信じられない。
大混乱だ。本当に、大混乱である。
頭の中がぐるぐると渦を巻くくらいに混乱した。
混乱しすぎて恐慌状態に陥りそうである。
それなのに、唯一情報をくれそうなユベールは、「では、何かございましたらいつでもお申しつけください」と言って部屋から去ってしまう。
ユベールがいなくなると、室内には奇妙な沈黙が落ちた。
シャルリーヌが一言も発しないことにセルジュは何を思ったのか、どこか怖い顔で、ソファに座ったまま動けない彼女にこう宣言する。
「何かあれば使用人を呼んでも構わない。だが、この部屋から出ることだけは許さない。使用人たちにも君をここから出さないように言っておくから、懐柔しようとしても無駄だぞ」
――この人は、一体何がしたいのか。
茫然とするシャルリーヌの顔を覗き込んで、瞳に暗い影を宿した彼は薄く笑った。
「君が逃げるのならば、君の足を鎖でつながなければならなくなる。俺に、そんな残酷なことはさせないでくれ」
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