囚われの妻は考える 2
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回想を終えたシャルリーヌはぐったりとソファに背もたれに沈み込んだ。
セルジュは仕事があるようで、シャルリーヌの前にティーセットを準備すると、そのあとで部屋を出て行った。
食事の世話にお風呂の準備。お茶を入れてお菓子を用意して……クローゼットにも、いつの間にか真新しい服が増えていた。
急いだから既製品だが、そのうちきちんと仕立てようとセルジュはいったが、いくらシャルリーヌの服の数が少なくくたびれたものしかなかったにしても、クローゼットが埋まるだけ用意しなくていいと思う。
シャルリーヌを部屋に閉じ込めるなんて暴挙に出ながらも、甲斐甲斐しく世話をするセルジュがわからないし、正直怖い。
これは親切なのか、はたまた新手の虐待なのか。
自由を奪われるのは虐待だと思うのに、ブラン伯爵家で過ごした一年よりも遥かに快適だから感覚が狂う。
ただ――
時折シャルリーヌに向けられるセルジュの微笑みが暗い色を宿しているように感じて、彼が得体のしれない別人に成り代わったような恐怖を覚えるのだ。
シャルリーヌはぬるくなったお茶に口をつけ、ほぅっと息を吐く。
セルジュは怖いし得体が知れないが、これだけは言える。
彼が豹変後に入れてくれるようになったお茶は、とても美味しい。
(一年間、人としての尊厳を大きく傷つけられて、そして今は……よくわからないわ)
閉じ込められるというのも、やはり人としての尊厳を傷つけられる行為だろう。
だけど、それまでひどすぎて、むしろこうして美味しいお茶がいただけることに喜びを感じてしまう自分もいる。
混乱と恐怖と戸惑いと、そして小さな喜び。感情が大洪水だ。
でも、閉じ込められたままだったら、やはりシャルリーヌはディアーヌの役に立てない。ディアーヌはシャルリーヌがブラン伯爵夫人として社交をし、派閥を広げることを望んでいた。
ディアーヌの役に立つためには、ここから逃げ出して彼女の選ぶ次の相手と再婚する必要がある。
(わたしは一体どうしたらいいのかしら?)
ここは二階だ。バルコニーから逃げるのは難しい。飛び降りれば大怪我をするだろうし、猿のように壁を伝って降りるのは無理だろう。シャルリーヌは自分の運動神経が人並み以下であることをよく理解している。
それに、逃げるのならば足を鎖で繋ぐなんて物騒なことを言っていた。
どういうわけか、セルジュはシャルリーヌをこの部屋の外に出したくないらしい。
「いったい、何故なのかしら」
セルジュの様子があまりにも変わりすぎて混乱中だけど、彼の行動には何かしらの意味があるはずだ。意味もなくシャルリーヌを部屋に軟禁するようなことはしないだろう。
妻として遇するつもりはないと宣言した相手から離縁を切り出されて怒った、というのもおかしな話だ。いなくなればむしろせいせいするのではなかろうか。
(プライドの問題? ううん、もしそうなら、表面上だけでも夫であろうとするはずよね)
城で寝泊まりして新妻のいる我が家に帰っていないのだから、その時点でおかしな噂は立っているだろう。
セルジュが己の矜持を優先するのならば、面白おかしく噂されるような状況には持って行かないはずだ。
ならば、シャルリーヌと離縁しないのは何故なのか。
どうして閉じ込めたのか。
逆を言えば、シャルリーヌを閉じ込めなければならない理由がある、ということだ。
「この一年、あまり考え事をしなかったせいか、頭がパンクしそうよ」
シャルリーヌは、行儀が悪いと知りつつもソファにぱたりと上体を倒した。
その瞬間、ふわりとレモンのような爽やかな香りがする。
そういえば、セルジュは夜、このソファで眠っていた。彼のコロンの香りだろうか。
「…………」
よくわからないがちょっと恥ずかしくなってきて、シャルリーヌは起き上がると、テーブルを挟んで反対側の、一人掛けのソファの方へ移る。
まったく関わることのなかった夫の残り香のある部屋で過ごすのは、妙な感じだ。
こんなところに閉じ込められて――夫婦でありながら夫婦未満だった自分たちは、どこへ向かおうというのだろう。
まずは、彼の考えを知りたい。
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