衝撃と動揺と焦燥(SIDEセルジュ) 4
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それから月日は流れる――
最初はぎこちなかったシャルリーヌとの関係も、半年が経つ頃には世間話ができるくらいに改善していた。
シャルリーヌと関われば関わるほど、セルジュは結婚式の夜の自分の言動を後悔した。
彼女は控えめだが聡明で、人当たりがよく、時折見せる笑顔が飛び切り可愛い女の子だった。
気づいたときにはセルジュはすっかり彼女に恋をしてしまっていた。離婚した後でその相手に惚れるなんだ、本当に自分は間抜けだ。
今更彼女に惚れたところで、セルジュにはどうすることもできない。
だたこの想いだけが、日に日に大きくなって、自分でも手に余るようになってくることに戸惑うばかりだった。
そんな、ある日のことだった。
城の花壇にブルーベルの青紫色の花が咲き誇る、麗らかな春の午後。
まるでシャルリーヌの瞳のような色をしたその花が見渡せる庭の四阿で、セルジュは彼女と向き合っていた。
珍しく、シャルリーヌが少し話がしたいと言って来たのだ。
この半年、セルジュから誘ったことは何度もあった。
休みが重なればカフェや観劇に。
休憩時間が重なれば、彼女が好きそうな本で誘い、庭のベンチに並んで読書をしたり。
自分の感情を自覚してからは、シャルリーヌと再び夫婦になることはないと理解しながらも誘わずにはいられなかった。
シャルリーヌは最初は困った顔をしていたが、次第にセルジュを友人の一人として扱ってくれるようになり、予定が合えば誘いに応じてくれていた。
けれども、誘うのはいつもセルジュで、シャルリーヌから連絡をもらったのは、この半年、「借りた本を返したい」と言われた一度きりのことだ。
セルジュは思春期の子供のように落ち着かない気持ちになり、約束の三十分も前に約束していた四阿へ向かってしまったほどだ。
「それで、どんな話だろうか?」
もうすぐまとまった休みがあるはずだ。
その休みに、どこかへ行かないかという誘いだろか。
シャルリーヌがセルジュを遊びに誘う可能性は限りなくゼロに近いだろうとわかっていつつも、期待せずにはいられない。
シャルリーヌは、最近見せてくれるようになった薄い微笑を浮かべてセルジュを見上げる。
その表情に、セルジュは違和感を覚えた。
笑顔なのだが元気がないような気がしたのだ。
「……何か、悩み事でも?」
「悩み事、ではないのですけど……」
シャルリーヌは歯切れ悪く言って、一度ぎゅっと目を閉じると、その大きな瞳をゆっくりと開く。
「結婚が、決まりました」
「……。……すまない。もう一度言ってくれ」
一瞬、耳がおかしくなったのかと思った。
結婚?
誰の?
誰の結婚が、決まったと?
シャルリーヌは、少しだけ震える唇で、今度ははっきりと繰り返す。
「結婚が……わたしの再婚が、決まりました」
セルジュは思わず立ち上がった。
四阿の円卓にバンッと手をついて、しかし何も言うことができずにそのまま硬直する。
わかっていた。
シャルリーヌはいずれ、再婚するだろう。
王太子妃ディアーナが、シャルリーヌをこのまま放置するとは思えなかった。
シャルリーヌはディアーナの役に立つことを望んでおり、そのために、彼女の地盤固めのための駒として有力貴族へ嫁ぐのだ。
セルジュとの縁談だって、そうして組まれたものだった。
(だけど……まだ、半年だぞ?)
猶予はまだあると思っていた。
あまりにも、早すぎる。
シャルリーヌはどこか悲しげな表情で、けれども背後に咲くブルーベルのように可憐でいながらも凛と美しく笑う。
「相手はオールポート伯爵です。……ディアーヌ様によると、王太子殿下の支持者でありながら、ディアーヌ様との結婚に反対をしていた方だそうで」
つまり、敵地に送り込むということだろうか。
ディアーヌを認めない相手を、シャルリーヌを嫁がせることで懐柔しようと?
(……ふざけるな! オールポート伯爵は三十六歳だぞ! シャルリーヌより十六歳も年上じゃないか!)
そして、昨年妻を亡くして寡夫となっていた男である。
彼の妻の椅子が空いたから、埋まる前にシャルリーヌを座らせておこうということだろう。だから結婚を急ぐのだ。
「オールポート伯爵は……なんと?」
「わかりません。まだ、お会いしたことがないので。……ただ、侍女仲間によると、穏やかで人当たりのいい方だそうです」
オールポート伯爵は確かに人当たりがいい男だが、あれで敏腕政治家である。表と裏の顔くらい使い分けるだろう。
まだ会ったことがないというが、結婚が決まったという言い方をしたのだから、あちらからは返答があったはずだ。王太子アロイスが間に入ってまとめたのだろうか。
「君は……それで、いいのか?」
シャルリーヌは表情を隠すように目を伏せて、小さく答えた。
「ディアーヌ様の、お役に立てるのであれば」
そして、セルジュはのちに、この日のことを慟哭と共に大きく後悔することになる。
血だまりの中で微笑みながら逝った彼女を腕に抱きながら。
徐々に体温が失われていく彼女の額に口づけて、セルジュは自らの首をかき切った。
そうして、後悔ばかりの人生に、終止符を打った、はずだった。
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