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愛さないと言った夫が豹変しました~囚われたわたしが夫の真実を知るまで~  作者: 狭山ひびき


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6/8

衝撃と動揺と焦燥(SIDEセルジュ) 2

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 意識を取り戻したとき、セルジュは妙に頭の中がすっきりとしたような不思議な感覚を覚えた。

 実際にはまだ頭の奥が痛かったが、なんと言えばいいのか――足りなかったパズルのピースが、ぴたりとはまったような、そんな感じだった。


 医務室に寝かされていたセルジュは、ベッドの上に上体を起こしつつ、自分が固く握りしめていたものに視線を向ける。

 それは、妻シャルリーヌからの手紙と、そして、離縁状だった。

 これを見た瞬間、セルジュの脳内に膨大な情報が叩きつけるように降って来たのだ。


 それは、不思議な情報だった。

 セルジュの脳内に降って来たのは、今よりも先の未来――これから起こるであろう事柄の情報だったのだ。

 その情報がすべて脳内に収まった今、セルジュは理解した。


 ――ああ、自分は、過去に戻って来たのだ、と。


 人間が過去に戻れるはずがない。

 けれども、きっと間違いないのだ。

 何故なら今でもこの手にあの感触が残っている気がする。

 あの……、自分の腕の中で、どんどん冷たくなっていく妻の体温と、どろりとした血の感触が。


 その時の記憶を頭の中から引っ張り出したセルジュの指先が小さく震えた。

 セルジュは、一度、ここよりも少し先の未来まで生きたことがある。

 そして、自ら死を選んだ。

 死ぬことで責任を取ろうとした。


 だが、何の因果か、戻って来たのだろう。

 妻がまだ生きている、この時間軸に。



     ☆



 一度目の人生――やり直し前の人生での自分を評価するのならば、愚者である。

 それまでは、自分のことは特別優れた人間ではなくとも、そこそこ優秀な人間だと思っていた。

 だからこその傲慢な思い込みで、自分の選択が間違っているとは、思わなかったのだ。



 やり直し前の人生でも、セルジュはシャルリーヌと結婚した。

 やり直し後の人生と同じく、王太子妃ディアーヌと王太子アロイスによって組まれた縁談だった。

 ソブール国が嫌いなセルジュは、内心では納得していなかったが、やり直し後の人生と同じく結婚することを選択した。

 そして、これまた同じように、シャルリーヌを放置したのだ。


 一年、ほとんどブラン伯爵家に帰らなかったセルジュの元に、シャルリーヌからの離縁状が届いたことも同じだった。

 やり直し前の人生での自分は、セルジュはシャルリーヌが送って来た手紙に腹を立てて、急いで邸に帰るようなことはしなかった。

 そして夜に問いただそうと邸を訪れた時はすでに、シャルリーヌが荷物をまとめて城のディアーヌの元へ逃げたあとだったのだ。


 自分が愚かだったと認識したのはここからである。

 セルジュは、シャルリーヌがいないと聞き、帰宅してすぐに使っていた部屋へ向かった。

 セルジュがシャルリーヌの部屋へ向かうことをやけに使用人が止めたが無視して向かって見たら、その部屋は邸の女主人が使っていたとは思えないほどに薄汚れていた。

 クローゼットをあけても空っぽで、バルコニーには、使い終わったガウンやバスローブが干しっぱなしになっているが、まず、女主人の部屋に洗濯ものを干すこと自体がありえない。


(なんだ、これは)


 最初は小さな違和感だった。

 シャルリーヌの部屋の使い方が悪い、という一言では片付けられない、違和感。

 シャルリーヌは名目上はブラン伯爵夫人である。この邸の女主人だ。

 セルジュは彼女とすごしたくなかったから邸には滅多に帰らなかったが、逆を言えば自分がいない方がシャルリーヌも自由に過ごせるだろうとも思っていた。

 邸には使用人がたくさんいるし、ブラン伯爵家は貧乏でも落ちぶれているわけでもないので、女主人が家事をすることはまずない。


 掃除洗濯炊事に至るまでメイドや料理人の仕事で、その使用人を管理するのが采配者である執事の仕事だ。

 ゆえに、シャルリーヌは、他の貴族女性がそうであるように、暇があれば読書や刺繍をして、ティータイムをすごし、女性たちの集まりがあれば参加する。そのようなゆったりとした時間をすごしていると思っていた。


「ジョフロアを呼べ!」


 青ざめた顔で後ろにたたずんでいたメイドに命じると、彼女は飛び上がらんばかりの様子で慌ただしくこの邸を任せている執事のジョフロアを呼びに行った。


 ジョフロアがやってくる間、セルジュは部屋の中をくまなく歩きまわった。

 ベッドシーツが皺だらけで、アイロンをあてていないことがわかる。糊も効いていない。

 バスルームにはシャボンなど、女性が好みそうなバスグッズは何も置かれていなかった。

 母がそうだったように、貴族女性は気分によってシャボンを変えるので、バスルームにはいつも愛用のシャボンやそのほかのバス用品が山のように置いてあったはずだ。それが、一つもない。

 それどころか、バスタブも少々汚れているようだ。湯垢はないので掃除はしているのだろうが、掃除メイドがした掃除にしては汚い。


 タオルの数も少ないし、やけにゴワゴワしているしくたびれていた。定期的に新品に交換されるはずのタオルが、こんな風にざらついているのをセルジュははじめて見たくらいだ。

 部屋を歩き回れば歩き回るほどに、疑問が降って湧いてくる。

 暖炉に大きな古い鍋が置いてあるのは何故だろう。


 ティーセットがない。

 茶葉もお菓子もなければ、家具も必要最低限だけで、インテリアと呼べるものは何一つおいていなかった。

 いくら妻として遇さないと言ったとはいえ、セルジュは充分すぎるほどの予算をシャルリーヌに割いていた。女主人として、不自由しないだけの額だ。管理はジョフロアに任せていたが、あの金は使っていないのだろうか。


 もしかして、セルジュに腹を立てて意地になって使わなかったのだろうか。

 それだとしても、彼女は王女の侍女として充分な給金が出ていたし、アロイスから聞いた話だと、彼女は倹約家だというから蓄えはあるはずだ。

 いくら倹約家であろうとも、生活の質をぐっと下げるようなことはしないだろう。

 第一、生活する上での消耗品――シャボンやタオル、茶葉やお菓子など、日常的に使うものは予算外で、使用人たちが主人のために定期的に購入していたはずだ。


 ジョフロアからも定期的に収支報告書が届けられており、その中にはシャルリーヌに関する項目もあった。

 化粧品や宝石類、茶葉やお菓子などの項目もあったはずだ。

 何がどうなっているのか、セルジュは混乱を覚えた。自分が把握していた内容と、目の前の現実が一致しない。


(俺は、もしかして――)


 ふと、ぞわりとした嫌な感覚が足元から這い上がって来た。

 自分が、彼女に対してとんでもない罪を侵してしまったのではないか。そんな、漠然とした言いようのない不安がこみあげて来る。


 部屋にやって来たジョフロアは最初は平然としていたが、セルジュが強い口調で問いただせば顔を青ざめさせた。それでも誤魔化そうとする彼からこの一年でのことを聞きだしたセルジュは茫然とした。


 シャルリーヌの世話を、誰もしていなかったらしい。

 部屋の掃除はおろか、食事も出さなかった、と。

 シャルリーヌの予算は、使用人たちで分配して、この邸の中で面白おかしく暮らしていた、と。

 ジョフロアは、最初はでき心だったと言った。

 セルジュに顧みられない女主人なのだから、多少軽んじても構わないだろう、と。


 だが、彼女の予算を使い贅沢に暮らすようになってから、歯止めが効かなくなったという。

 セルジュは眩暈を覚え、一刻も早く彼女に会いに行かなければと思ったが、まずは使用人の処遇だ。

 女主人の予算を勝手に使っていたというのだから、それは着服である。ただ解雇すればいいという問題ではない。


 セルジュは泣きわめく使用人たちを憲兵に捕らえさせ、ひとまず一年ぶりに我が家に泊まることにした。

 使用人たちの捕縛に時間がかかり、気づけばすっかり真夜中になっていたのだ。今からシャルリーヌに会いに城へ向かうわけにもいくまい。


 使用人が誰一人いなくなった、がらんどうの我が家で一夜を明かし、セルジュは城へ向かった。

 アロイスに謝罪し、シャルリーヌに会わせてほしいと伝える。

 アロイスはすでにディアーヌから事情を聞いていたようで、あきれた顔をしつつも、掛け合ってくれると言った。


 そうして、セルジュがシャルリーヌに会えたのは五日後のこと。


 よく晴れた秋晴れの日。

 連れ戻されるのを警戒したのか、場所は、城内にあるサロンの一室だった。







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― 新着の感想 ―
言いたかったことを他の方がまるっと仰られてて、だよねー!としか… 今さら愛してるなんて言われても放置されて蔑ろにされてきた事実は覆らないし、お次は意味不明な強引束縛とか、えー…。 こうまでシャルリーヌ…
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