新しい未来を掴む 7
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「ほら、きっとこれが毒ですわっ!」
女性騎士たちから身体検査を受けたシャルリーヌのポケットから出てきたのは、オールポート伯爵から先ほど受け取った香水瓶だった。
アロイスの上に提出されたそれを見て、エミリーが叫ぶ。
シャルリーヌはそっと息を吐き、エミリーを見た。彼女は何かに憑りつかれたようなギラギラした目でこちらを見ている。
まるで、シャルリーヌが罪に問われるその瞬間の、一挙手一投足を見逃すまいとでもいうような目だと思った。
「これは?」
「先ほど、廊下でオールポート伯爵からいただきました。先日のパーティーでボタンが取れかけていたのを直して差し上げたことがあるのですが、それのお礼とかで」
「嘘を言わないで! それが香水だというのなら飲んでみなさいよ! そうすればわかるわっ!」
アロイスの質問に答えると、エミリーが噛みついてくる。
「エミリー、今は殿下にお答えしているのだから黙ってくれるかしら?」
「なんですって⁉」
シャルリーヌにたしなめられてエミリーがさらに嚙みつこうとしたが、アロイスにじろりと睨まれて悔しそうに口を引き結んだ。
(というか、香水は飲み物じゃないわよ。何を考えているのかしらね)
シャルリーヌはアロイスの目の前にあるクリスタルの小瓶。
オールポート伯爵から渡されたあの小瓶の中身が何であるのかは、もうすぐわかるだろう。
「シャルリーヌ」
セルジュがシャルリーヌの肩を引き寄せると、エミリーが「騙されないでセルジュ様!」と叫んだ。つくづく、エミリーはシャルリーヌを悪者にしたいらしい。
セルジュはそんなエミリーを無視して、アロイスに向かって言う。
「オールポート伯爵に確かめてくれますか。シャルリーヌに香水の小瓶を渡したのかどうかを。そうすれば、シャルリーヌの潔白が晴れるでしょう?」
すると、エミリーが我が意を得たりとばかりに笑った。
「そうですわ! すぐにオールポート伯爵をこちらに呼びましょう! シャルリーヌの言う通り、その小瓶がまさしくオールポート伯爵からのプレゼントであるのなら、瓶を見たらすぐにわかるでしょう?」
「はあ、わかった。オールポート伯爵を呼べ。ディアーヌが大変な時に、これ以上くだらないやり取りをしたくない!」
アロイスがうんざりしたように騎士の一人にオールポート伯爵を連れてくるように命じた。
ややして部屋に連れてこられたオールポート伯爵は、戸惑った顔で部屋にいるアロイスたちを見る。
「殿下、これはいったい……」
「詳しい話はあとだ。オールポート伯爵。この小瓶に見覚えはあるか? シャルリーヌによると、つい先ほど、廊下で伯爵から受け取ったものだというのだが」
オールポート伯爵はシャルリーヌを見て、それからほんの一瞬口端を持ち上げると、目を伏せて首を横に振った。
「いいえ、覚えがございませんが……」
「本当にか?」
「ええ。申し訳ございませんが、私はその瓶を知りませんし、もっと言えば、ブラン伯爵夫人と会ってもいませんよ」
「そんなはずはありません。この瓶は確かにオールポート伯爵からいただきました。それに、そうそう。そのときに靴が汚れていると言われて、こちらのハンカチをお借りしております」
シャルリーヌがオールポート伯爵のハンカチを取り出すと、彼は肩をすくめた。
「身に覚えがございませんし、そのようなありふれたハンカチを私のものとおっしゃられても。私が普段使っているハンカチには……ほら、ここにイニシャルが刺繍してあるんですよ。それは私のものではありません」
「ほら見なさい! シャルリーヌ、あなたの嘘はこれで判明したわっ!」
エミリーがひときわ高い声で叫ぶ。
「シャルリーヌ……」
セルジュが悲しそうに目を伏せた。
アロイスが厳しい目を向けてくる。
シャルリーヌは香水の瓶を見て、「わかりました」と頷いた。
「そんなにわたしがディアーヌ様に毒を盛ったとお疑いでしたら、証拠をお見せします。殿下、その瓶を貸していただけますか?」
「割って証拠隠滅を図ろうとしても無駄だぞ」
「そのようなことは致しません」
シャルリーヌはアロイスからクリスタルの瓶を受け取ると、蓋を外す。
ふわりと薔薇の香りが鼻孔をくすぐった。
シャルリーヌはじっと瓶を見つめて、そして、それを一気に煽る。
「シャルリーヌ!」
セルジュが焦って手を伸ばして、シャルリーヌの手からクリスタルの瓶を奪い取った。
しかし、シャルリーヌはすでにクリスタルの瓶の中身を口に含んでおり、セルジュに取り押さえられる前にこくりと口の中身を嚥下する。
「ほら、この通り。毒物ではありませんよ」
けろりと笑って見せると、エミリーが愕然と目を見開いて、大声を上げた。
「嘘よ‼ どうして無事なのよ⁉ シャルリーヌ、あんた、中身を飲まなかったわね‼」
シャルリーヌは、すっと顔から表情を消した。
「飲んだわ。全部ね。でも、毒なんて入ってないもの、無事に決まっているわ」
「そんなはずないわ! だってそれは毒……!」
「ねえエミリー。どうしてこの香水瓶の中身が、毒だってわかるの?」
エミリーがさっと顔色を変えた。
我関せずという顔をしていたオールポート伯爵が軽く片手を上げて、困ったように笑う。
「何が何だかわかりませんが、私はもういいでしょうか? 仕事が残っておりまして」
そう言って、オールポート伯爵が立ち去ろうとしたときだった。
「あら駄目よ。だって、あなたを今から、捕縛しないといけないんだもの」
涼やかな声がして、がちゃりと、寝室に繋がる内扉が開かれた。
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