豹変した夫の奇妙な行動 3
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回想を終えたシャルリーヌは、昨日の決意を思い出し、キッとセルジュを睨んだ。
「そこをどいてくださいませ。昨日、手紙にしたためた通りでございます。妻と遇するつもりのない女がどこへ行こうと、セルジュ様には関係のないことでしょう?」
「駄目だ、認めない」
悩むそぶりもなく言われて、シャルリーヌは眉を寄せた。
シャルリーヌは亡き母に似た、そこそこの美人である。
この一年で艶はだいぶなくなってしまったが、綺麗な金色の髪にサファイア色のぱっちりと大きな瞳。
化粧品がなくなったので肌は多少乾燥して荒れているけれど、もとは陶器のようにつるりとした肌をしていた。
結婚前よりも痩せたけれど、それでもメリハリのある体つきで、身長も高すぎず低すぎず。
ディアーヌからは、「せっかく可愛い顔をしているんだから、眉を寄せる癖は直しなさいね」と言われていたけれど、これが眉を顰めずにはいられようか。
「認めていただかなくて結構です。白い結婚ですもの、ディアーヌ様にお伝えすれば離縁に動いてくださいます。無関係になるのですから、わたしの行動を制限する権利はセルジュ様にはありません」
「まだ離縁していないのだから俺は君の夫だ。夫が認めないと言っているのだから、認められないに決まっている」
(夫! 夫ですって?)
夫の務めを一度も果たしたことがないくせに、よくもまあ堂々と「夫」と名乗れたものだ。
シャルリーヌはあきれたが、夫の顔を見ているとなんだか怪訝に思えてきて首をひねる。
結婚式の日の夜。
シャルリーヌに向けられたセルジュの表情は、蝋人形のように平坦だった。
それが今、とても感情的だ。
彼も感情的になれたのかと変に感心する一方、妻とも思っていないシャルリーヌが出て行くと言っただけでどうしてこうも感情的になるのだろうと疑問だった。
表情を険しくするシャルリーヌを、怒りとも少し違う、けれども苛烈な色を宿した目で見つめて来る。
(この方は、一体誰かしら?)
ふと、シャルリーヌはそんな不思議な感想を夫に抱いた。
結婚したとはいえ生活を共にしていないシャルリーヌがセルジュのことで知っている事柄は少ない。
セルジュはどんな人物かと聞かれても、語れることと言ったら肩書や立場、あと結婚式の日の夜に交わした会話による印象のみで、具体的に彼という人物がどのような性格でどのような思想を抱いているのか、シャルリーヌにはわからない。
だけど、目の前のセルジュは、まるでセルジュという皮をかぶった別人のように感じてならなかった。
雰囲気からして、全然違うのだ。
混乱と動揺と、よくわからない怒り。
いろんな感情がないまぜになって、余計にわけがわからなくなる。
シャルリーヌはふと、セルジュが手元を見た。
その手にあるのはぐしゃぐしゃになった手紙。
間違いなく、シャルリーヌが書いた手紙と離縁状だ。
あんなに握り締めるほどに、あの手紙が気に入らなかったのだろうか。
離縁を切り出せば案外喜ぶかしら、なんて思ったりもしていたのに、どうしてだろう。
シャルリーヌの視線が手紙に向いたのがわかったのか、セルジュはまるで自分が傷つけたような顔をして、言った。
「俺は君を愛している。だからもう二度と、君をこの邸から出さないし、出て行くことも許さない。君には一生、俺の側ですごしてもらう。何故なら君は、俺の妻なのだから」
ああ――
唖然と言う言葉は、今日のためにあったんだわ。
シャルリーヌの頭の中は、あきれすぎて真っ白になった。
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