新しい未来を掴む 3
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シャルリーヌは食事の載ったワゴンを押しながら、廊下を歩いていた。
ワゴンに載っているのはディアーヌとアロイスの食事である。
二人は今日は一日中部屋で過ごすので、昼食もディアーヌの部屋で取るのだ。
本来食事を部屋まで運ぶのはメイドの仕事なのだが、妊娠中で警戒を強めているディアーヌは、自分の口に入るものはすべて侍女に運ばせるようにしていた。今日はシャルリーヌが頼まれたので、キッチンまで食事を取りに行ったのである。
「おや、ブラン伯爵夫人?」
重たいワゴンを押しながら廊下を進んでいると、オールポート伯爵に声をかけられた。
偶然を装った風にしているが待ち構えていたのだろう。
何故ならこのあたりに執務室や会議室はないので、仕事で登城していても、彼が出歩くような場所ではないのだ。
「まあ、オールポート伯爵。ごきげんよう。どうなさったのですか?」
「夫人に会いたかったんですよ。ほら、先日ボタンをつけてくださったでしょう? 今日はそのお礼に」
「お礼なら、三週間ほど前にとてもたくさんの刺繍糸を届けていただきましたわ」
セルジュがオールポート伯爵からのプレゼントをものすごく嫌がったので、あの刺繍糸は使うことなく焼却処分されたけれど。
(本当にもう、焼きもち焼きなんだから)
拗ねたセルジュの顔を思い出す。思い出し笑いをするわけにはいかないので、表情筋に力を込めて、顔に外行の笑みを貼り付けた。
「あんなもの、お礼のうちに入りませんよ。今日はこちらを。輸入品の香水なんです。とてもいい香りがするので、ぜひ」
クリスタルの香水瓶をオールポート伯爵がにこやかに差し出す。
「でも……」
シャルリーヌが悩むそぶりを見せると、オールポート伯爵は強引にワゴンをシャルリーヌから奪い取って、さっと香水を持たせた。
「気持ちだけなので。あと、このワゴンも途中まで運びましょう」
「そういうわけにはまいりませんわ」
「気になさらず。このワゴンは少し重たいですからね。……おや、夫人。靴が少し汚れていらっしゃいますよ」
「え?」
「踵のところが。よかったらこのハンカチをお使いください。汚れても構わないものなので」
「ありがとうございます」
シャルリーヌはオールポート伯爵からハンカチを受け取ると、その場にしゃがみ込んで靴の踵を拭う。
「取れました?」
「ええ。綺麗になりましたよ」
「ありがとうございました。ハンカチは洗ってお返ししますので。あと、やはりワゴンは自分で押すので大丈夫です」
「そうですか?」
「ええ」
シャルリーヌが頷けば、オールポート伯爵がにこやかに微笑んだ。
「では、私は仕事があるので。ハンカチは差し上げますよ」
軽く手を振って去っていくオールポート伯爵の背中に向かって、シャルリーヌは軽く会釈をする。
彼から受け取った香水瓶を握り締めて、シャルリーヌはサファイア色の瞳を暗く光らせた。
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