新しい未来を掴む 1
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たくさん話しをした。
たくさんたくさん。
これまで胸のうちに秘めていたことも全部。
さらけだすだけさらけ出して、二人、抱きしめあって眠る。
お互いがお互いに、この時間がどれだけかけがえのないものかをわかっているからこそ、一分の隙もなく溶け合ってしまえればいいのにと願いながら、抱きしめる腕に力を込めた。
☆
「つまり、オールポート伯爵はこの時にはすでに動き出しているということか?」
ただただお互いのことだけを考えて過ごして、三日目の朝。
シャルリーヌとセルジュは、ベッドでぴたりと寄り添いながら、ようやく未来のことに意識を向けた。
「そうです。わたしがセルジュ様と離縁していないので、少し状況は変わっていますけど。パーティーの日にエミリーがオールポート伯爵を連れてきたとき、彼はディアーヌ様の妊娠を知っていて、そして自領のお茶をすすめていました。あのお茶には堕胎作用があるはずです。一度目の時にもプレゼントされて、ディアーヌ様が成分分析をかけたので間違いないと思います」
「シャルリーヌ。一つ訊きたいんだが、エミリーの夫であるバレ子爵は敵か?」
バレ子爵はアロイスの側近でもある。つまりはセルジュの同僚だ。同僚がアロイスを裏切っているとは思いたくないのだろう。
「大丈夫です、バレ子爵は敵ではありません。エミリーの行動を彼は知りませんし、もし知っていたら、前の未来でわたしの手紙がセルジュ様に届けられた時点で何らかの反応を示すでしょう?」
「確かに、俺の手紙に王太子妃殿下への手紙が入っていたと聞いてもおかしそうに笑うだけだった。そう言えばアロイス殿下は暗号を知っているのか?」
「ディアーヌ様はいくつかの暗号をお使いになります。わたしとのやり取りに使う暗号は以前お伝えした通りですが、アロイス殿下はすべて把握しているわけではないと思います。たぶん、わたしが使っている暗号がどのようなものかは知らないはずです」
「ディアーヌ妃殿下は、夫であるアロイス殿下も警戒しているということか?」
「警戒というか、ディアーヌ様は手の内は全部さらさない方なんです。何が起きてもいいように、必ず隠し玉を持っています。アロイス殿下を信頼なさっているのは間違いないですが、かといって、無条件にすべてを晒し出せるわけでもないのでしょう。……ディアーヌ様にとって、ヴェルリール国に嫁ぐということは、それだけの覚悟が必要だったのです」
戦争が終わっているとはいえ、かつて関係が悪かった隣国に嫁ぐのだ。しかも、王太子の妃として。
貴族や国民から反発があるのは想定済みだったし、暗殺という最悪の事態も念頭に置いていた。
だからこそ早急に地盤固めが必要で、嫁いですぐに連れてきた侍女たちの嫁ぎ先を探したのだ。
ディアーヌが嫁いでから二年余り。
警戒心を解くには早すぎる時期だし、実際、まだディアーヌの敵はいる。
「一度目の未来でも、本当はもう少しゆっくりと地盤固めをするつもりだったんですよ。ただ、お子様が生まれて状況が変わりました」
「子供を守るために、多少の無茶もしなければならなくなった、ということか」
「そうです。だからこそ、ディアーヌ様の侍女の中で一番身動きがとりやすかったわたしが、オールポート伯爵を探ることにしました」
あの頃、ディアーヌの侍女は全員誰かに嫁いでいたのだ。
動けたのは、セルジュと離縁したシャルリーヌだけ。
ディアーヌは危険だからと最後まで渋っていたけれど、シャルリーヌが説得した。
あの時、シャルリーヌにとって最も大切だったのが、ディアーヌと彼女の産んだ王子だったから。
セルジュがぎゅっと眉を寄せて、シャルリーヌを引き寄せる。
「俺は君のそんな自己犠牲的なところが、嫌だ」
「……ごめんなさい」
「謝罪はいらない。ただ約束してくれ。……自分の命を軽はずみに危険にさらさないでくれ。君を失うのは、一度でたくさんだ」
「はい。……約束します」
あの時はあれが最善だと思っていた。
だけど今は、同じ選択はしないだろう。
セルジュを傷つけるのも、苦しめるのも、泣かせるのも――シャルリーヌは、嫌だから。
目じりに落ちたキスがくすぐったくて笑うと、額に、鼻先にと場所を変えて口付けが落とされる。
一度目の人生で、ディアーヌのために命を懸けてもいいと思ったのは本心からだったけれど、別に死にたかったわけじゃない。
(全部終わったら、あなたの元に戻りたかったって言ったら、きっとまた泣かせてしまうわね)
だから言わない。
方法は違えど、こうしてセルジュの元に戻って来られたから、いいのだ。
「今すぐにでもオールポート伯爵を捕らえられたらいいんだが」
「計画はしていてもまだ実行に移しているわけではないですし、今動けばエミリーや彼の他の協力者を取り逃がします。……できればギリギリまで引っ張って、一網打尽にしたいですね」
「シャルリーヌは案外過激だな。まあそうでなければ、敵陣に自ら飛び込むようなことはしないだろし、もっと言えば離縁状を叩きつけて出て行こうともしないな」
「……その件は、忘れてくれてもいいんですよ?」
「どの件?」
「り、離縁状の件……」
自分でも、かなり衝動的なことをした自覚はある。
あの一件があったからセルジュと向き合うことができたのは事実なので、別に後悔しているわけではないが、その話をされるのはちょっと恥ずかしい。
セルジュがくすくすと笑って、シャルリーヌの頭に頬を寄せた。
「忘れるのは無理だな。だって、あのおかげで俺は君とこうしていられるんだから」
離縁状を送りつけなければ、シャルリーヌはまだこの邸で、一人で唇をかみしめながら生きていたかもしれない。
一度目の人生においても、二度目においても、セルジュとの関係が変わったのは離縁状を送りつけた日からだ。
それを考えると、あの日が自分の人生の重要な分岐点だったのだろう。
人生は、ひとつひとつの選択で成り立っている。
シャルリーヌにとっての分岐点は、ディアーヌの侍女になったこと、ソブール国を出たこと、セルジュと結婚したこと、セルジュに離縁状を送りつけたこと。
セルジュとこうしていられるのも、自分の選択と、分岐点を進んだ末のことだ。
ならば、セルジュとともにいるという道を進んだ時、今度は違う未来があると思う。
「オールポート伯爵やエミリーを放置するという選択はできません。……一度目とは違う形で、危険な目にあうかもしれないですけど、それでも……」
「シャルリーヌを危険には晒さないよ。俺に少し考えがある。任せてもらっても?」
「わたしは、のけ者ですか?」
ここで、この部屋で、大人しく待っていろと言うことだろうか。
ちょっと悔しくて口をとがらせると、セルジュの指先が少しだけ膨らんだシャルリーヌの頬をつついた。
「いや? シャルリーヌにも、協力してもらうよ? もちろん、安全を確保した上での話だけどね」
「本当ですか?」
「ああ」
セルジュは頷き、どことなく瞳に不穏な色をたたえて笑った。
「一度目の人生で俺から君を奪った愚か者どもに、裁きの鉄槌をくれてやろう」
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