未来の君が伝えたかったこと(SIDEセルジュ) 2
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(俺があのとき、あの手紙をすぐにディアーヌ王太子妃に届けていたら……)
セルジュは、遠い昔のようでつい昨日のことのようにも感じるあの日の記憶を手繰り寄せる。
震える手で記憶を頼りにシャルリーヌの手紙を書き記した。
最初の一文は『ビオラの花が咲きました』。
次が『ノースポールの白い花も見頃です。白』。
「ごめん、シャルリーヌ……」
今ならわかる。
どうしてシャルリーヌが、オールポート伯爵と再婚したのか。
ディアーヌの優秀な駒であることに誇りを持っていた彼女は、敬愛する主のために命を張ったのだ。
涙が止まらない。
三文目は『いポットがお気に入りで、お茶』。
あの日のシャルリーヌは、どんな気持ちでこの手紙をセルジュに託したのだろう。
セルジュにディアーヌ宛ての手紙を託したのは、シャルリーヌがセルジュを信頼してくれていたからに違いない。
自分は、ひどい夫だった。
シャルリーヌを苦しめて、そして離縁を決断させた。
セルジュと離縁していなければ、シャルリーヌはこんな無茶はしなかったはずだ。
セルジュが夫としてシャルリーヌを立てて、社交に付き合い、彼女が望むディアーヌの駒としての動きをさせてあげていれば、彼女は命を落とさなかった。
一度目の人生の記憶が戻ったセルジュはシャルリーヌを閉じ込めて守った気になった。
シャルリーヌと離縁しなければ。
オールポート伯爵と再婚させなければ。
彼女を死の運命から守ることができると思った。
だけど間違ったいたのだろう。
セルジュがシャルリーヌを閉じ込め、ディアーヌの役に立ちたいという彼女の思いから遠ざければ、彼女は違った形でまた無茶をするかもしれない。
――ディアーヌに言わせれば、シャルリーヌは『居場所』を求めているのだそうだ。
アロイスは言った。
シャルリーヌは無償の愛なんて信じられない。
役に立たなければ自分の居場所がないと思っている。
セルジュは自分ならばシャルリーヌに無償の愛を信じさせることができるなんて、傲慢な考えは持っていない。
一度深く傷つけたのだ。セルジュが何を言おうと、シャルリーヌが信じるとは思えなかった。
シャルリーヌは自分の居場所を作るために無茶をする。
だからシャルリーヌがセルジュを信頼してもいいと思えるまで、セルジュは彼女に寄り添い、彼女を守りながら、思うように行動させて上げなければならなかった。
ぽたり、と涙が落ちてインクをにじませる。
記憶に残っていた、あの日のシャルリーヌの最後の手紙が完成した。
涙でぼやける視界に、シャルリーヌを失う二時間前に読んだ手紙と同じものがある。
ビオラの花が咲きました
ノースポールの白い花も見頃です。白
いポットがお気に入りで、お茶
をとてもよく飲むからなのか最近
ははだの調子がとてもいいです。そうそう、
はく鳥が飛来する季節ですね。
ロシエール湖には今年
もやまほどの
はく鳥の群れが訪れていることかと思います。
はく鳥の刺繍を
くろいハンカチに刺したので、今度送りますね。
そえてあるのは季節外れですけ
どミモザの花を入れました。
リリアンがミモザが好きだったとので見せてあげてくださいね。
そういえばディアーヌ様のお好みに合いそうな
むらさき色の布が手に入りました。
エギルリア地方の染め物だそうです。ハンカチと一緒にお届け
するので、ドレスにでも仕立ててくださいませ。
(ああ……)
完成した暗号は、こう。
『オールポとはくシやくくろえミりうらギる』
すなわち、こうなる。
――オールポート伯爵、黒。エミリー裏切る。
セルジュは両手で顔を覆う。
涙が止まらない。
すぐにディアーヌに手紙を出していたら、シャルリーヌは死なずにすんだかもしれない。
セルジュの判断が、シャルリーヌを殺したのだ。
喉が震える。
止まらない嗚咽が小さく部屋の空気を振動させた。
大声で叫びたい衝動にかられながら、必死に耐えていると、コンコンと控えめに扉が叩かれる。
「セルジュ様、シャルリーヌです。……ごめんなさい。部屋から出てしまいました」
シャルリーヌの柔らかく、けれどもどこか後ろめたそうな声。
セルジュはふらふらと立ち上がり、吸い寄せられるように扉へ向かう。
鍵を開けて、扉を開けて。
泣いているセルジュを見て目を見開いたシャルリーヌの細く柔らかい体を、力いっぱい抱きしめた。
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