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愛さないと言った夫が豹変しました~囚われたわたしが夫の真実を知るまで~  作者: 狭山ひびき


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たとえ嫌われたとしても(SIDEセルジュ) 2

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

 ちらちらと、一度目の人生の記憶が脳の奥で点滅する。


 セルジュが経験した一度目の人生。

 シャルリーヌはセルジュと離縁後に、ディアーヌの指示に従い、オールポート伯爵と再婚した。


 結婚式の日は、雨が降っていた。

 元夫が参列するのはどうかと思ったが、セルジュはアロイスの側近だ。アロイスがディアーヌと共に参列すると聞いたので、セルジュも彼と共にシャルリーヌが他人の妻になる日を見守ることになった。


 高い天井のから、雨が叩きつける音が響いている。


 二回目の結婚だからだろう。

 純白ではなく若干クリーム色がかったドレスを身にまとい、美しく着飾ったシャルリーヌが祭壇に向かってゆっくりと歩いていた。

 ベールに覆われた表情がどんなものなのかはわからない。

 ただ、凛と背筋を伸ばし一歩一歩踏みしめるように歩く彼女は、美しいと思った。


 自分との結婚式の日はどうだっただろう。

 美しかったのは覚えているが、結婚に消極的どころか嫌で仕方がなかったセルジュは、彼女がどんな装いをしていたのか、細部まで覚えていなかった。


 それがどうしようもなく悔やまれる。

 セルジュの横を通り過ぎるとき、気のせいかシャルリーヌが少しだけこちらへ顔を向けたような気がした。


 ――今日、愛する人が、他の男に嫁ぐ。


 胸の中が暗く暗く、インクよりも深い黒に塗りつぶされていくようだ。


(俺の妻だったのに)


 自分の、ものだったのに。

 己の愚かさの末に、セルジュはこうして最愛の人を失うのだ。


 オールポート伯爵が穏やかな笑顔でシャルリーヌの到着を待っている。

 噂では、オールポート伯爵は気性の穏やかな紳士だという。

 シャルリーヌは、幸せになれるだろうか。

 オールポート伯爵は、シャルリーヌを幸せにしてくれるだろうか。


(それは、自分の役目のはずだったのに)


 ああ、だめだ。

 どんどんどす黒い感情が溢れて来る。


 奪われたくない。

 手放したくない。

 自分のものだったのに。

 何故――オールポート伯爵のいる場所に、自分がいないのか。


 降り積もる後悔に埋もれそうになりながら、セルジュはあの日、愛する人が他の男の妻になるのを見届けた。




 ――景色は、変わる。




 オールポート伯爵にシャルリーヌが嫁いでから四か月ほど経った日のこと。

 雪のちらつく寒い日だった。

 城に、火急の知らせが届いた。


 オールポート伯爵家に賊が侵入したという報告だった。

 オールポート伯爵は仕事で登城していた。

 駆けつけた使用人は息も絶え絶えに、すぐに騎士団を向かわせてほしいと訴えた。

 主人であるオールポート伯爵は不在だが、邸には大勢の使用人と、奥様が――と使用人がすべてを言い終える前に、セルジュは、アロイスの制止を聞かずに走り出した。


 オールポート伯爵家には、シャルリーヌがいる。

 シャルリーヌが、いるのだ。


 護身用の剣を握り締めて、セルジュは走る。

 オールポート伯爵邸は、城からさほど離れていない。馬を借りに行くより走った方が早かった。


 セルジュが駆けつけると、オールポート伯爵邸は火に包まれていた。

 逃げ惑う使用人の姿が見える。

 使用人の一人を捕まえてシャルリーヌのことを聞けば、まだ彼女は邸の中から出て来ていないという。


 セルジュは迷わず火の海の中に飛び込むと、シャルリーヌを探した。

 外は凍えるように寒いのに、炎に包まれた邸の中は息をすれば喉を焼きそうに熱い。


「シャルリーヌ‼」


 彼女がオールポート伯爵と結婚してからはじめて、彼女の名前を呼んだ。

 他人の妻になった人を、セルジュが気安く名前で呼ぶわけにはいかなかった。

 だから社交場ではオールポート伯爵夫人と呼んでいた。

 そして、社交場以外で、彼女に会うことはなかった。


「シャルリーヌ、どこだ⁉」


 いまだに胸を焦がすほどに想い続けている人の名前を、力いっぱい叫ぶ。

 叫んで火の海の中を走り抜けて。

 炎が頬を焼こうと髪を焼こうと構わず走って走って走って――見つけたのだ。

 部屋の中で、血まみれになって倒れている彼女を。


「シャルリーヌ‼」


 駆け寄って抱き起こせば、どろりとした血の感触が手のひらに伝わった。

 シャルリーヌは瞼を揺らして、小さく目を開ける。


「シャルリーヌ! わかるか? 俺だ‼ 今、外に連れて行ってやるから!」


 シャルリーヌは微笑み、ほんの少しだけ首を横に向けた。きっと、首を振ろうとしたのだろう。


「逃げ……て、くだ、さ……」


 かすれた声で何かを言いかけて、シャルリーヌは瞼を下ろす。


「シャルリーヌ!」


 体重がずしりと腕に伝わり、シャルリーヌの首がかくりと力なく重力に従って傾いた。


「シャルリーヌ‼ シャルリーヌ‼ あ、ああ……ああああああああああッ‼」


 動かなくなった彼女の体を抱きしめて、セルジュは叫ぶ。

 炎は、刻一刻と迫っている。

 このままここにいれば逃げ場を失うだろう。

 だけど、セルジュは動かなかった。


 何故。

 どうして。


 答えのない問いばかり頭の中に浮かぶ。


 すべてセルジュが悪いのだ。

 セルジュと離縁し、オールポート伯爵に嫁いだからシャルリーヌは死んだ。

 セルジュが最初から彼女と向き合っていれば。

 離縁などしなければ。

 彼女はこうして、炎の中で息を引き取ることもなかった。


 雪のように降り積もる後悔がセルジュの体を埋めていく。


「シャルリーヌ……。せめて、一緒に」


 シャルリーヌを一人で逝かせたりしない。

 彼女に何もしてやれなかったが、最後に、共に眠りにつこう。


 セルジュは護身用に持って来ていた剣を首に宛てて、力いっぱい引き抜いた。





面白い!続きが気になる!続きが読みたい!と思ってくださった皆様、

ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


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どうぞよろしくお願いいたします。

挿絵(By みてみん)

出版社 : オーバーラップ

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ISBN-10 : 4824016487

ISBN-13 : 978-4824016485


☆あらすじ☆

悪役令嬢としての断罪の未来を回避するため奔走し、無事に攻略対象・アレクの妹の病を癒やすことに成功したマリア。

一件落着でようやく平穏な学園生活を送れるかと思いきや……

お義兄様は相変わらず意地悪で振り回してくるうえに、冷たかったはずのアレクまで「君を生涯守る騎士になる」なんて言い出して、マリアを巡るバトルが勃発!?

一方、街では連日義賊が出没し混乱を極める事態に。

新たな攻略対象・ヴォルフラムとその兄・ヒルデベルトの秘密に関わる重大なイベントだったはずが、マリアのこれまでの行動の影響か、前世の知識とはかなり内容が変わってしまっているようで……?

ヒロイン不在で着々と進行する物語に困惑しながらも、目立たないように裏でこっそり事態の収束を試みるマリア。

しかし案の定一筋縄ではいかず、みんなを巻き込む大事件に発展してしまい――!?

ちょっぴりポンコツな愛され悪役令嬢による破滅回避ラブファンタジー、波乱の第2幕!



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― 新着の感想 ―
うーん…あまりにも直情的すぎて王太子の側近なんてとても務まると思えない
身勝手にもほどがある。こんなのとは一刻も早く別れてほしい。
白い結婚宣言もそうでしたけど、旦那様、感情的に動いてしまう方ですよねぇ。。。 後を追うなら犯人に復讐してから、と冷静になれば考えると思いますが。 今世ではぜひ、黒幕を恐怖の谷底へ叩き込んでやってくだせ…
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