夜会と警告 5
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城に到着すると、シャルリーヌはセルジュにエスコートされてパーティー会場である広間へ向かった。
一年ぶりに城の中に入るからか、懐かしい気持ちになる。
広間に入ると、セルジュの元に何名かの貴族が挨拶に来た。
セルジュが妻だと紹介すると、みんなシャルリーヌを見て驚いたような顔をする。一年まったく社交場に顔を出していなかったシャルリーヌが表に出てきたのが不思議なのだろう。
こうした場での対応はディアーヌに徹底的に叩きこまれているので、シャルリーヌが一人一人に丁寧に、そつなく対応していると、挨拶が途絶えたところでセルジュに手を引かれて壁際に連れていかれた。
「シャルリーヌ、もう少し肩の力を抜いていいよ。その調子だとすぐに疲れてしまう。君はここに接待をしに来ているわけではないんだ」
でも、シャルリーヌの評価はそのままディアーヌの評価にもつながる。ミスをするわけにはいかないし、相手に失礼な女だと思われるわけにもいかないのだ。
「君の隣には俺がいる。もっと俺を頼ってくれていいよ。君は昔から……いや、その、無理をしすぎる」
(昔から?)
昔なんて言葉を使うほど、セルジュとすごした記憶はない。
シャルリーヌが離縁状を送り、それを握り締めて彼が血相を変えてブラン伯爵邸にやって来たのがおよそ一か月前。彼とすごしたのは、この一か月だけの話だ。
(まるで、もっと前からわたしを知っているみたいな口ぶりだわ)
王太子の側近と王太子妃の侍女。
互いの存在は認識していても、結婚前も、そして結婚後一年も、お互いのことを詳しく知る時間なんてまるでなかった。彼の言う「昔」とはいつのことを指しているのだろう。
「あの……」
もうだめだ。
違和感だらけ。
訊くのは怖いけれど――怖くてどうしようもないけれど、何もわからない方がもっと怖い。
シャルリーヌが勇気を出して、今の言葉の意味を探ろうとした、そのときだった。
「あら、シャルリーヌ。久しぶりね」
聞き覚えのある声が割って入って来て、シャルリーヌはタイミングを逸してしまった。
振り向くと、侍女仲間のエミリーが夫らしき男性と腕を組んで立っている。
「エミリー、お久しぶり。……セルジュ様、ご存じかもしれませんが、ディアーヌ様の侍女のエミリーです。ソブール国から一緒に来たわたしの同僚です」
「顔は知っているが、きちんと話すのははじめてですね。バレ子爵夫人。セルジュ・ブランです。夫人の夫の同僚の」
エミリーの夫はバレ子爵らしい。あまり特徴のない顔立ちだが優しそうだ。シャルリーヌの記憶に残っていなかったので、侍女として過ごしていた時に関わることはなかったのだろう。
お互いに自己紹介をし終えると、エミリーがすっと寄って来てシャルリーヌの耳元でささやく。
「セルジュ様とうまく言っているみたいじゃない。夫婦関係は険悪だとかいろいろ噂が立っていたから心配していたけど、意外だったわ。それとも、表面上取り繕っているだけなのかしら?」
「……そんなに噂になってる?」
「ええ。かなりね。セルジュ様は嫌がったのに無理やり結婚させられたとか、シャルリーヌが悪妻だとか。あとは、シャルリーヌが愛人を囲っているからセルジュ様が邸に帰りたがらないのだ、とか」
「そんなものまで⁉」
思わず悲鳴を上げてしまって、シャルリーヌは慌てて口を押えた。
「シャルリーヌ、どうかした?」
「い、いえ。なんでも」
内緒話の内容までは聞こえていなかったようだ。
ホッとしつつも、とんでもない噂が立っているのだと知りシャルリーヌは青ざめる。
シャルリーヌが悪妻だとか愛人を囲っているだなどという悪評が広まっていたら、ディアーヌのために再婚するのも難しくなる。
(どうしよう……)
そんなことになっているとは思わなかった。
セルジュがシャルリーヌを邸に閉じ込めたのは、もしかして、この妙な噂を知っていたからだろうか。だから世間から隠すために閉じ込めた? ……いや、考えすぎか。
ディアーヌの元に逃げてセルジュと離縁しても、噂が落ち着かなければ次の縁談が持ち上がらないかもしれない。
(早くディアーヌ様の役に立ちたいのに)
きゅっと唇を噛むと、セルジュがそっとシャルリーヌの頬に手を伸ばして来た。
驚いて顔を上げると、眉をひそめた彼が顔を覗き込んでくる。
「本当に大丈夫か? 顔色が悪い。……あっちに椅子があるから少し座ろう。バレ子爵夫人、妻の気分が悪いようなので失礼しますよ」
セルジュがまるで見えない何かから守るようにシャルリーヌの肩に手を回した。
その力強くて大きな手に、どうしてだろう、少しだけ安堵してしまう自分がいる。
この手が自分を守ってくれるなんて、変に期待しているわけではない。
だけど、彼にどんな思惑があるにせよ、気遣ってくれたのは確かで、今はその気遣いがありがたかった。
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