夜会と警告 3
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パーティーの招待状を見せられた二日後、シャルリーヌは一人のメイドを紹介された。
タチアナという名前の二十四歳のメイドだ。今日から彼女がシャルリーヌ専属メイドになるらしい。
タチアナはもともとブラン伯爵領でメイドをしていたのをこちらに移動してもらったそうだ。家族もいるので、移動に少し時間がかかってしまったというが、シャルリーヌに言わせれば家族一緒に引っ越すのならばかなり急いでくれた方だと思う。引っ越しは大変なのだ。
「本日よりよろしくお願いいたします、奥様」
奥様。
その呼び方は違和感しかないが、シャルリーヌはまだブラン伯爵夫人であるので、奥様と呼ばれる立場には相違ない。執事のユベールもそう呼ぶ。
タチアナにはなんて説明しているのか、シャルリーヌが閉じ込められているこの状況なのに、彼女はにこりと微笑んでいた。
ユベールも平然とこの状況を受け入れているし、セルジュが彼等を納得させるために何らかの説明を行っているのだろう。何と言っているのか気になるところだ。
タチアナは専属メイドだが、日中の大半をシャルリーヌの側で過ごすわけではないようで、用があったらベルを鳴らして知らせるように言われた。これは、セルジュの指示だそうだ。
(つまり、わたしがタチアナを懐柔して逃げ出さないようにするための措置かしら)
王太子の側近だ。セルジュが優秀なのは間違いない。その優秀さを発揮し、あの手この手でシャルリーヌの退路を塞ごうとしている。
やはり、城で開催される夜会が、シャルリーヌがここから逃げる最大のチャンスだろう。あれを逃せば次の機会はいつやって来るかわからない。
「奥様、先ほど本が届きました。旦那様より、届いたらすぐに奥様にお届けするように申し付かっておりますが、どちらに納めましょう?」
グレミヨン商会のボーモンに取り寄せを頼んでいたソブール国の本が届いたようだ。
「じゃあ、これから一冊読むから、あとは寝室に運んでおいてもらってもいいかしら?」
「かしこまりました。読書をされるのであればお茶もお入れしますね。旦那様が奥様にと購入されたチョコレートケーキがございますので、ご一緒にお出しいたします」
「ありがとう」
「奥様はチョコレートがお好きだと聞きましたわ。これから冬にかけてチョコレートが数多く出回るようになりますので、楽しみですね」
「そう……ね」
だからどうして――セルジュはシャルリーヌがチョコレートが好きだと、知っているのか。その言葉をつぶやくかわりに、シャルリーヌはそっと息を吐く。
いい香りの紅茶が目の前に出されて、レーヌ・ド・サバという種類のチョコレートケーキが目の前に置かれた。
レーヌ・ド・サバはナッツの風味豊かなチョコレートケーキである。
シャルリーヌははじめて食べたが、まるでずっと昔に食べたことがあるかのように、妙に口にあった。今まで食べたチョコレートケーキの中で一番好きかもしれない。
そのことがまた、シャルリーヌを愕然とさせる。セルジュがあまりにも自分の好みを熟知しすぎているような気がして。
シャルリーヌは得体のしれない恐怖から逃れるように、タチアナが持って来てくれた本を開き、ゆっくりと文字の世界に没頭した。
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