夜会と警告 2
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ある日のことだった。
「パーティー、ですか?」
相変わらず部屋に閉じ込められたままのシャルリーヌは、仏頂面のセルジュに目をしばたたいた。
心の底から不本意そうな顔でセルジュが仕事場から持ち帰ったのは、二週間後に城で開かれる夜会の招待状だった。
「ああ。アロイス殿下から受け取った。ディアーヌ王太子妃殿下がシャルリーヌを伴って必ず参加するようにと言っているらしい。……風邪で寝込んでいると伝えたが二週間後も風邪なのかと言われれば逃げられなかった」
勝手に風邪を引いたことにしないでほしい。
(でも、もしかしたらディアーヌ様は、わたしがセルジュ様に嫁いでまったく社交をしていないことにやきもきしているのかもしれないわ。だから招待状をアロイス殿下経由で直接渡してくださったのかも)
ディアーヌの望み通り動いていないシャルリーヌに腹を立てているとも考えられるが、ディアーヌは聡い王女だ。シャルリーヌがまったく社交場に出ていないことに違和感を覚えているはずである。
これまでは新婚だからと多少目をつむってくれていたのかもしれないけれど、結婚して一年経ったため、確認を入れようと思ったのだろう。
何にせよ、これはまたとないチャンスだ。
軟禁状態の現状から打破するために、このチャンスは逃せられない。
二週間後であれば、先日、セルジュが注文してくれたドレスも仕上がって来るだろう。装いが流行遅れで恥をかくこともない。
「わかりました」
「いいのか? 君はその……、夜会はあまり好きではなかったはずだが」
まただ。
だから何故、セルジュは話してもいないシャルリーヌの好みを知っているのだろう。
しかも夜会が好きではないなんて、ディアーヌや侍女仲間にすら伝えたことがない。
ディアーヌの役に立つために、シャルリーヌは夜会も茶会も、社交と名につくものに関しては一生懸命勉強した。周りから見ればそつなくこなしているように見えるはずだ。ディアーヌからも注意を受けたことはない。
だけど、好きか嫌いかと訊かれたら好きではないのだ。
高いヒールを履いて、ウエストをコルセットでぎゅっと締め、常に微笑を浮かべて人の好みに合わせて話をし、時に踊る。あの時間は何度経験しても疲れてしまって、できることなら避けて通りたい道だった。
ディアーヌの優秀な駒であるためには、避けて通れないとわかってはいても。
セルジュがシャルリーヌの好みを語るたび、シャルリーヌの背にぞくりとしたものが這う。
自分の好みをどこで知ったのか。そう問いかけることができれば違うだろうか。けれども怖くて――その質問をすることすらできなかった。
(セルジュ様は心が読めるのかしら。……そんなはず、ないわね)
心が読めていたら、シャルリーヌがセルジュに対して怯えを感じていると気づくだろう。
ここから逃げたいと思っていることもわかるはずだ。
逃げようとすれば鎖で繋ぐと言っていたのだから、セルジュが心を読めるのならば、シャルリーヌの足首はとっくに繋がれている。
「大丈夫です。セルジュ様に恥はかかせませんから」
「そういうことを言っているのでは……」
シャルリーヌの対面のソファに座っていたセルジュは、何を思ったのか立ち上がると、彼女の隣に移動してくる。
シャルリーヌは肩が強張るのを感じながらも、不自然な表情にならないように口端に力を入れてきゅっと持ち上げた。
「シャルリーヌ、俺は君が心配なんだ」
心配なら、どうして閉じ込めたりするのだろう。
心配してくれるくらいなら、離縁に応じてここから出してくれたらいいのに。
(本当に、セルジュ様がわからない……)
以前の、シャルリーヌに興味がない様子の方がよかったかもしれない。だって、あのときはわかりやすかった。シャルリーヌが気に入らないのだな、という程度の者だったけれど、今の彼よりましだ。
シャルリーヌを閉じ込めて、鎖で繋ぐと言ったその口で心配だという。
甲斐甲斐しく面倒を見ながら、逃げることは許さないという。
優しいのか、残酷なのか。
彼の心はまるで理解できなくて、彼の言動の謎もあって、恐怖しか感じない。
少し体温の高い手が、シャルリーヌの手を掴む。
怖くて、思わず手を引きそうになったけれど、強い力で握られればどうしようもなかった。
「俺は君を守りたいんだ」
嘘つき。
喉元まで出かかったその言葉を、シャルリーヌはぎゅっと目を閉じることで飲み込む。
(だってあなたは、一年も、わたしを一人放置したじゃない)
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