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愛さないと言った夫が豹変しました~囚われたわたしが夫の真実を知るまで~  作者: 狭山ひびき


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囚われの妻は考える 4

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「――っ」


 朝起きて着替えをすませたシャルリーヌは、寝室からメインルームへ足を踏み入れるなり硬直した。

 ソファの上で、セルジュが眠っていたからだ。

 彼がソファで眠っていることは知っていたが、いつもシャルリーヌが起きるより前に起きているので、こうして寝ている彼に遭遇したのははじめてのことだった。


 今日は仕事が休みだから、いつもよりゆっくりしているのだろう。

 気持ちよさそうに寝ているから起こすのも忍びなく、シャルリーヌは足音を立てないようにそーっと窓際の椅子へ向かおうとした。椅子の上に読みかけの本を置いてあるのだ。彼が起きるまで、あの本を持って寝室に籠っていようと思ったのである。

 けれど、その途中でふと、彼が上掛けに使っているブランケットがずり落ちそうになっていることに気が付いて足を止める。


(朝は少し涼しいし、風邪を引くかもしれないわね)


 シャルリーヌはブランケットの位置を直してあげようと、慎重にソファへ向かった。

 そっとブランケットをセルジュに掛け直す。

 静かな寝息を立てている彼は、ぴくりとも反応しない。


(熟睡してるわ。……それにしても、本当に綺麗な顔ね)


 いつだったか。

 シャルリーヌがセルジュに嫁ぐ前、侍女仲間であるエミリーがセルジュの容姿を褒めているのを聞いた。

 エミリーはシャルリーヌと同じくソブール国からディアーヌについてきた侍女である。シャルリーヌが結婚した半年後に、アロイスの側近の一人と結婚したと聞いたが、彼女の方は、上手くディアーヌの駒としての働きができているだろうか。


 シャルリーヌがセルジュの相手に決まったと聞き、エミリーから「どうしてわたくしではなくシャルリーヌなの⁉」と食ってかかられたこともあった。思えば、エミリーはセルジュのことが好きだったのかもしれない。


(わたしではなくエミリーだったら、セルジュ様とうまくやれていたのかしら?)


 エミリーならば結婚式の夜に、妻として遇するつもりはない、と拒絶されなかっただろうか。

 シャルリーヌの何がセルジュの勘に触ったのかはわからない。話したことがなかったから、容姿が気に入らなかったのだろうか。


 その点エミリーは愛らしい顔立ちをしているから、案外セルジュと仲良くできていたかもしれない。

 誰が誰に嫁ぐのかの采配は、ディアーヌが行う。ディアーヌがアロイスに相談し、そして決めるのだ。だからシャルリーヌにもエミリーにも決定権はない。

 もちろん、よほど無理だと思えば他の相手を探してもらうこともできる。ディアーヌだって鬼ではないので、嫌だと思う相手に無理矢理嫁がせようとはしないからだ。


 エミリーが結婚したことを思うと、彼女も納得できる相手が紹介されたのだろう。

 だけどもし、シャルリーヌがセルジュとの縁談を拒否していたら、エミリーが彼と結婚していただろうか。


(そう考えると、セルジュ様にも申し訳ないことをしてしまったかもしれないわね)


 シャルリーヌが拒否してさえいたら、セルジュはもっと別の、妻として遇してもいいと思えるような相手と結婚できたかもしれないのだ。


 そんなとりとめのないことをつらつらと考えていたからだろう。

 シャルリーヌは、ぼーっとセルジュの寝顔を見つめていた。

 シャルリーヌの視線がうるさかったのかどうなのか、セルジュの長い睫毛が微かに震える。


 そして――


「いかないでくれ……。シャルリーヌ……」


 切ない色を宿した寝言と共に、つぅっと、セルジュの目じりから一筋の涙が零れ落ちて……。


 シャルリーヌは、あまりの衝撃に、しばらく目を見開いたまま固まってしまった。




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