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黒猫ヴァレリーの事件簿  作者: 高橋 なぎ
第8章 夏の三毛猫
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第5話 謎だらけ

「謎だ······謎だらけだ」


謎だけが積み上がっていくことに、恭介は頭を抱えた。

事務所の最新のエアコンだけが絶好調で働いている。

我が物顔で来客用ソファーを占領しているヴァレリーを恨めしげに見る。

いつものことだが。


「シンプルに考えろ」


目を開けずにヴァレリーが言った。


「······オカルト?」


「本気でそう考えたのなら、正気を疑うぞ、恭介」


ヴァレリーに半眼状態で言われた恭介は


「あははは···冗談だ」


七割位は本気でそう考えたとは言えず、笑ってごまかした。

恭介は分かっていることを整理する。

購入した家で起きる現象。

朝、出していないのに出ているコーヒーパック。

夜中にカリカリと音がする居間。

この家にいるのは、永井夫婦、飼い猫のサキチ。

あと···いつの間にか足元にいる三毛猫。

······両手で頭を掻くと、恭介は(おもむ)ろに立ち上がった。


(分からないんなら現場に行け、恭介)


恭介に続いてヴァレリーが起き上がった。

ドアの方へと歩き出す。


「行くのだろう」


「ああ」


お見通しかと恭介の顔に苦笑いが浮かんだ。




永井夫婦の家に着くと、家には永井夫婦が帰っていた。


「ああ、ちょうど良かった。今、連絡しようと思っていたんですよ」


敏夫が恭介の顔を見て言った。

永井夫婦の顔は明るい。

相談に来たときと雲泥の差だった。


「何かありましたか?」


「コーヒーパックの謎が、解けたんですよ」


「ええっ、本当に?」


「まぁ、こちらに来てください」


敏夫に案内されて、恭介とヴァレリーは居間に入った。

サキチはゲージから出て窓の桟にいた。

綾子はキッチンにいた。

敏夫が、シーッと口元で人差し指を立て、その指でキッチンを指した。

恭介たちが指示された方向に目を向けると、三毛猫が器用に前足を使い、棚を開けていた。

棚からコーヒーの箱を探し出し、鼻先と前足を使って箱を開ける。

中からコーヒーパックを咥えるとテーブルに置いたのだった。

恭介は目を見張り、


「犯人は猫だったのか」


「そうなんですよ」


敏夫が笑って言った。


「いや〜っ、驚いたのなんのってなかったですよ」


「本当に、私もびっくりして、主人と呆然とした後、笑ってしまいましたわ」


綾子がコーヒーを出しながら話に入って来た。

敏夫の横に座る。


「では、ひとつの問題は、解決ということでいいですね」


「ええ、それで構わないです」


「いまとなっては、大騒ぎしたのが恥ずかしいわ」


「そうだよな」


「案外、あの変な音も笑い話になるんじゃないの?」


「言えるな」


「それが一番いいですよ」


恭介も笑いを口元に浮かべた。

オカルトじゃなくて良かったと思ったことは秘密にしておこうと恭介は決めた。

恭介がコーヒーに手を伸ばした時、三毛猫が恭介の目の端を横切った。


カリ。

カリカリ。


三毛猫は一生懸命、壁を引っ掻いていた。


「あら、本当にそうみたい···ふふふ」


「お前が犯人だったのか」


敏夫の声に三毛猫が反応した。

一度敏夫の顔を見たあと、また壁を引っ掻き出した。


「こら、そこは爪を砥ぐ場所じゃないぞ」


敏夫は厳しい表情をつくり、怒ったような声を出しているが、本気ではないことが目元が、下がっていることで分かった。


(幽霊の仕業じゃなくて良かった)


と恭介はほっと息を吐いた。

ちらっとヴァレリーを見る。

ヴァレリーは真剣な目で壁を引っ掻いている三毛猫を見ていた。


にゃぁ。


恭介の隣に座っていたヴァレリーがソファーの背に乗った。

永井夫婦に聞こえないように恭介の耳元で囁いた。


「恭介、あの猫が引っ掻いている壁を叩け」


恭介はヴァレリーに訝しげな目を向ける。

ヴァレリーは、やれと壁の方に顎を杓った。

恭介は壁に近づくと、拳の背で壁を叩きながら、動かしていく。


コツコツ。


コツコツ。


コンコン。


ボコン。


恭介の手が止まった。


「···?」


恭介がヴァレリーを見る。

ヴァレリーは無言だったが、金色の目を細めていた。


「真実は常に静かだ」


とでも言うように。







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