第3話 調査と三毛猫
永井夫婦から相談を受けた二日後、恭介たちは永井夫婦の家の前に立っていた。
陽射しによって芝生の庭がキラキラと輝いていた。
「おい、顔色が悪いぞ」
ヴァレリーが恭介の顔を覗いていた。
「大丈夫だ。なんでもない」
「そうか…中に入るぞ」
ヴァレリーが家の中へ歩いて行った。
だが、恭介は永井夫婦の家の前で立ち竦んでいた。
猫は苦手だ。
幽霊やお化けの類も苦手だ。
そう正直に話してしまおうかと恭介は思案中だった。
言えば、絶対に馬鹿にされることは明白だ。
それでなくとも、ヴァレリーには頭が上がらないのにこれ以上情けないところは見せたくない。
だが……
にゃぁ。
「ひっ!」
恭介は飛び上がった。
いつの間にか足元に三毛猫がいた。
「何を騒いでいる」
ヴァレリーが廊下の奥から顔を覗かせていた。
「ね、猫が…」
「猫?どこにいる?」
「足元に入るだろう」
「よく見ろ、恭介」
恭介は恐る恐る足元に視線を落とした。
いない。
ヴァレリーが呆れたようにため息をついた。
「早く、入ってこい」
「ああ」
いたはずなんだが…首を傾げながら家の中に入っていった。
気味が悪いといい、現在、永井夫妻は妻の実家にサキチを連れて身を寄せている。
家の中には恭介とヴァレリーのみ。
問題の居間に入る。
(大丈夫だ。今は昼だ。昼から出る幽霊はいない)
恭介は自分を励ました。
部屋を見回す。
応接セット、三段のキャットゲージ、飾り棚、テレビ。
窓にも茶色の梁や柱、塗り直された漆喰の壁にも異常は見られなかった。
ヴァレリーがゲージに飛び乗った。
サキチがよくいるという一番上の棚に座った。
じっと一点を見る。
ゲージから飛び降り、ヴァレリーは壁に鼻先を近づけた。
ふん、と小さく鼻を鳴らす。
「ふむ……」
「おい、何かわかったのか?」
「漆喰だな」
「壁か?ああそうだな」
ヴァレリーは恭介の言葉に返事もせず、尻尾を揺らしてすたすたとキッチンへと歩き出した。
「おい、それだけかよ」
ヴァレリーは顔だけを恭介に向けた。
そして、一言、
「考えろ。恭介、頭は使うためにあるぞ」
恭介は苦虫を噛んだような表情になった。
「まあ、下手な考え休むに似たりともいうがな」
「俺、お前嫌い」
「いい年した大人が、拗ねても可愛くはないぞ」
ヴァレリーの声がキッチンからする。
ぶつぶつ言いながら、恭介は壁に近寄った。
「一体、何があるんだよ」
にゃぁ。
びくっと恭介の体が動いた。
さっき見た三毛猫だった。
さり気なく距離を取る。
「お前、どっから入って来たんだ?それともここのうちの猫か?」
にゃぁ。
三毛猫が立ち上がり、壁に爪を立てた。
カリ。
カリカリ。
そこを掘ろうとするように爪研ぎを始める。
「おい、こら、止めろ」
「何を言っている」
キッチンからヴァレリーの声がした。
三毛猫は壁での爪研ぎを止めようとはしなかった。
(この場合は、どうしたらいいんだ?)
止めさせる方法が分からない恭介はキッチンに向かって、
「おい、爪研ぎはどうしたら止めさせることができるんだ、ヴァレリー?」
「叱れ」
少し呆れを含んだヴァレリーの声がする。
「だが、爪研ぎは本能だ。無闇に叱るものではない」
そう言われたら、叱ったら駄目なのかと恭介は考える。
三毛猫は必死に壁で爪研ぎをしていた。
悩んでいると、ヴァレリーの声が段々と近づいてくる。
「さっきから、何を言っている。それで、答えはでたのか?」
「いや、この猫が壁で爪研ぎを···あれ?どこに行ったんだ···」
三毛猫はいなくなっていた。
くんっとヴァレリーの鼻が動いた。
ヴァレリーは壁を見つめたまま、小さく言う。
「帰ったのではない。」
「え?」
「待っているだけだ。」




