表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫ヴァレリーの事件簿  作者: 高橋 なぎ
第8章 夏の三毛猫
PR
80/86

第2話 不思議な現象

真夏日のある日。

電話をした永井夫婦が恭介の事務所を訪ねてきた。

最新のエアコンは室内を心地よい温度にしており、炎天下の中を歩いてきた二人はほっと息がつけた。

夫の敏夫は背が高く、ひょろりとしていた。

妻の綾子は目尻の下がった愛嬌のある女性だった。

二人とも顔色が悪い。

恭介は二人を来客用のソファーに案内し、冷たいお茶を出した。


「お電話では、家を調べて欲しいということでしたが、詳しく教えてもらえますか」


「···実は···」


敏夫がぽつぽつと話し出した。




窓の外に猫がいた。

三毛猫だった。

両目の周りだけ黒い毛並みで、まるで仮面をつけているように見える。

じっと家の中を見ていた。

敏夫と目が合っても逃げない。

ただ、待つようにそこにいた。

敏夫に気がついても逃げる素振りをみせないため、近所の飼い猫かと思った。

その夜、階下から音がした。


カリカリカリ


「何の音?」


寝ていた綾子が目を覚ました。

横のベッドに寝ている敏夫を起こす。


「ねぇ、あなた」


「···なんだ?」


「変な音がするのよ」


敏夫は半分寝たまま、耳を澄ませた。


カリカリカリ


「サキチが爪でも研いでいる音なんじゃないか?」


「そうかしら····」


「心配症だな。寝る前に戸締まりは確認したんだ。何もないさ」


「そうね」


その夜はそのまま眠った。

翌日、綾子はサキチを抱き上げて、


「壁や柱で爪を研いじゃ駄目よ」


うにゃん


返事をするように鳴くサキチに顔を綻ばせた。

次の夜。


カリカリカリ


何かを掻いているような音がした。

サキチか?とも思ったが爪研ぎをしている音と違う気がした。

綾子が気味悪そうな表情をしていた。


「見てくるよ」


一階に降りる。

サキチはゲージで香箱座りをして壁を見ていた。

だが、目は閉じていない。

緑色の瞳が壁を見ていた。

じっと。


「お前じゃないのか···?」


カリカリ······

カリ···


音のする方に顔を向けた。

奇しくもそれはサキチがじっと見ている方向だった。

壁の中で鼠が悪さをしているのか?

見たところ何の変哲もない。

駆除業者を呼ぶか···いや、購入手続き時にその辺も済ませたはずだ。

ならなんだ?


カリカリカリ


敏夫の背筋に冷たいものが走った。

仲介業者は何も言っていなかった。

ビビりのサキチが怯えていない。

何かあれば、この子が怯えて鳴くはずだ。

今夜一晩、様子を見よう。

明日、また同じようなことが起きるようなら···

敏夫は微かに震える足で寝室へと戻った。


カリカリカリ


敏夫は翌朝、仲介業者に電話をした。

仲介業者によれば、この家で事件になったようなことはないという。

前の持ち主も、通勤の利便性を理由に手放しただけだと説明された。

また、ハウスクリーニングをした時には、何も異常はなかったと説明された。

それでも夜な夜な音が聞こえるというと、仲介業者からは、反対に返金を求めてのクレームかと疑われた。

自分たちでどうにかするしかないと考えていたところ、商店街でここのことを知り、訪ねてきたらしい。


「それで、原因を調べて欲しいんです。折角、購入した理想の家なんです」


敏夫が恭介に依頼する。

恭介が珍しく黙ったままだ。


にゃぉん


ヴァレリーの声。

空気が一掃された。

綾子がヴァレリーに気づいた。


「あら、ここの子」


目を細める。


「あ、そうです」


気を取り直したのか、恭介が答えた。


「頬にお月さまの白い毛並みがあるのね」


「可愛いな」


敏夫もヴァレリーに相好を崩した。

ヴァレリーが恭介の足元に座り、恭介を見上げる。

緑の目で恭介をじっと見る。

緑の瞳が細くなる。

恭介は嫌な予感がした。


(断るぞ)


ヴァレリーは瞬きもしない。


(絶対断る)


ヴァレリーからの無言の圧が強まる。

数秒後。

恭介は諦めた。


(ここの主は俺だんだが···)


恭介が力なく席を立った。

心なしかがっくりとしている、

恭介は依頼書を取り出し、ペンと共に永井夫婦に差し出した。

永井夫婦が立ち上がり、恭介が送り出すために付いていく。


パタン


事務所のドアが閉まり、恭介がヴァレリーの元に戻ってくる。

ヴァレリーは依頼書に顔を近づけていた。

依頼書をじっと見ているように見える。

が、恭介には書かれていないものを探っているかのように見えた。


「何かあるのか?」


「匂うな」


「だから、何がだよ!?」


「さぁな」


ヴァレリーは身を翻し、お気に入りのブランケットに丸まった。

ヴァレリーは前足に顎を載せる。


「恭介」


「なんだよ」


この言い方は厄介ごとの前触れだとこれまでの経験で知っている。

恭介が眉をひそめる。

ヴァレリーは目を閉じた。


「人は嘘を吐く…だが、猫は嘘をつかん」


「は?」


「独り言だ」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ