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黒猫ヴァレリーの事件簿  作者: 高橋 なぎ
第4章 雪明り
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エピローグ 雪明り

ロビーの窓の向こうは、深夜の雪だった。

白い光が静かに反射し、夜なのにどこか明るい。

暖炉の火が揺れた。

薪が崩れ、パチ、パチ、と乾いた音が重なる。

その音だけが、やけに大きく響いていた。

佐伯は、暖炉の火を見つめたまま言った。


「私、どうすればいい?」


恭介は少しだけ考える。

視線を受け止めるが、その“重さ”を正確には読まない。

その言葉の意味を、完全には理解できていない。

慰めも、正論も、簡単だ。

でも――選ぶのは自分じゃない。


「待つことも、待たないことも、君の自由だ」


佐伯は一瞬だけ目を細めた。

ほんの少しだけ、寂しそうに。

それでも微笑む。


「……そうだよね」


彼女は立ち上がり、静かに廊下へ消えていった。

一度だけ、振り返りかけて――やめる。

恭介はその背中を見送。

廊下の向こうで、襖が静かに閉まる音がした。

その音はやけに小さく、それでいて妙に耳に残った。

何かを言うべきだったのかもしれない。

だが、その“何か”が分からない。

暖炉の火が揺れた。

足元で黒い影が動く。

ヴァレリーが、恭介だけに聞こえる声で言った。


「鈍感というのは、罪ではない」


ヴァレリーはひとつ吐息をつく。


「だが、時に残酷だ」


恭介は眉をひそめる。


「……何の話だよ」


「独り言だ」


パチッ、と炎が弾ける音がした。

恭介は窓の外を見た。


「雪って……明るいな」


「雪明りだ」


ヴァレリーは外を見つめる。

その金色の瞳は、雪の光を映していた。


「犯人は人間だ。だが、殺したのは雪だ」


恭介は返事をしなかった。

ただ、静かにその言葉を胸に落とした。




よく晴れた朝。

きらきらと光る白い世界。

足元の雪を踏むたびに、

キュッ、と乾いた音がした。

夜の静けさとは違う。

朝の音だった。

宿の前の雪は、夜のうちにさらに積もっていた。


恭介が車のドアを開けた瞬間――


ドサリ。


木の枝から落ちた雪が、頭から降りかかった。


「うわっ!」


頭から雪まみれの恭介にヴァレリーはボンネットの上で尻尾を揺らした。


「やれやれ。いろいろと運のない奴だ」


恭介は雪を払いながら睨む。


「笑うな、お前だってなるんだからな……」


「猫だからそんな間抜けはしない」


――その瞬間。


ボサッ。


別の枝から雪が落ちた。

黒い背中が、一瞬で真っ白になる。


沈黙。


恭介の肩が震える。


「……ぷっ」


ヴァレリーはゆっくり顔をしかめ、前足で雪を払った。

沈黙。

そして、小さく息をつく。


「……ふっ」


恭介はとうとう声を上げて笑った。

ヴァレリーは視線をそらす。


「猫でも問題はあったな」


空は晴れていた。

一面の雪が光を返している。

恭介は笑いながら車に乗り込む。

その意味までは、考えていない。

ヴァレリーは小さく呟いた。


「やれやれ……実に人間らしい」


白い雪が、まぶしく光っていた。

ヴァレリーは目を細める。

そして、ぽつりと言う。


「雪明りは、誤解を生む」


水滴が着いた窓ガラスの向こうには雪景色。

光がにじんでいる。

ヴァレリーは目を細めた。


「……雪明りだ」


第4章も無事に完結することができました。毎話お読みいただき、ありがとうございました。評価を頂ける嬉しいです。

明日、いつもの時間に第5章を投稿する予定です。


雪の季節から春、桜の時期へ・・・


「お前は平和そうでいいよな……」


「猫だから当然だな。――余計なものは見ない」


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