表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫ヴァレリーの事件簿  作者: 高橋 なぎ
第4章 雪明り
PR
46/86

第7話 犯人は人、殺したのは

ロビー。

暖炉の火が静かに揺れている。

外ではまだ雪が降っていた。

宿の人間も、客も、全員が集まっている。

重い沈黙。

恭介が言う。


「事故……なんですよね」


警察官は腕を組んだ。


「可能性は高い。石油ヒーターと加湿器。換気が悪ければ、こういうことは起きる」


恭介は窓の外を見る。

白い雪。

そのときだった。

暖炉の前で丸くなっていた黒猫が、ゆっくりと顔を上げた。

ヴァレリー。

金色の目が静かに光る。

恭介の足元に、低い声が落ちた。


「事故ではない」


恭介はわずかに肩を震わせた。

周囲は気づかない。


「……事故じゃないと思う」


恭介が代わりに口にする。

警察官が眉をひそめる。


「どういうことですか?」


ヴァレリーは立ち上がり、暖炉の火を背にした。

その姿は、恭介にだけ“語りかけている”ように見える。


「真実は静かだ。まず確認しろ」


恭介は息を整え、皆に向き直った。


「まず確認したいんです。真島の部屋――ヒーターは強。加湿器は最大でした」


警察官がうなずく。


「そうだ」


ヴァレリーは頷く。


「窓は閉まっていた。換気口は?」


恭介が問う。


「換気口は……雪で塞がってました」


ざわ、と空気が揺れた。

ヴァレリーは恭介だけに聞こえるように声を潜めていう。


「空気が逃げない」


恭介はその言葉を飲み込み、代わりに説明する。


「空気が……逃げなかったんです。だから部屋の空気が重かった」


沈黙。

ヴァレリーの声。


「ヒーター。加湿器。密閉された部屋。酸素は減る。人間は眠る」


恭介はゆっくり言葉を紡ぐ。


「ヒーターと加湿器を最大で使って、換気口が塞がれていたら……酸素が減って、眠るように……」


ロビーが静まり返る。


「でも……それなら事故だろう」


梶原が言う。

恭介は首を振った。


「違う。問題は――換気口です」


ヴァレリーの声が重なる。


「普通は塞がらない。だが、吹雪の夜は積もる。誰かが、それを知っていた」


恭介はそのまま口にする。


「誰かが……それを知っていたんです」


空気が凍る。

久我の肩が震えた。

ヴァレリーの声が、恭介の足元で静かに続く。


「だが、計算していなかった。雪の量を。塞ぐつもりではなかった。ただ寒くなると思っただけ。小さな仕返し。嫉妬。誤解」


恭介は苦しそうに言葉を吐き出す。


「塞ぐつもりじゃなかったんだと思う。ただ……寒くなると思っただけ。ちょっとした嫌がらせ。誤解からの……小さな仕返し」


久我が顔を上げる。

目が揺れている。


「……違う。違うはずだ」


しかし声は弱い。

ヴァレリーは静かに言った。


「雪は静かだ。音もなく、世界を変える」


恭介はその言葉を胸に受け止め、ゆっくりと口にする。


「雪は……静かに世界を変える」


外の雪を見る。

ヴァレリーの声が最後に落ちた。


「犯人は人間だ。だが、殺したのは雪だ」


恭介は息を呑み、

その言葉をそのまま口にした。


「……犯人は人間だ。でも、殺したのは雪だ」


ロビーが凍りついた。


17:50にエピローグを投稿して、第4章は完了と成ります。第5章もまたお読みいただければありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ