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黒猫ヴァレリーの事件簿  作者: 高橋 なぎ
第4章 雪明り
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第6話 写真と笑い声

ロビーの暖炉は、静かに火を揺らしていた。

薪がはぜる音だけが響く。

だがその温かさとは裏腹に、空気は重かった。

真島の死。

警察は


「事故の可能性が高い」


と言った。

だが、誰もその言葉を完全には信じていなかった。

恭介はソファに座り、腕を組んだ。

梶原は俯き、佐伯は落ち着かない様子で指先をいじっている。

久我は窓際に立ち、外の雪を見ていた。

その背中は、どこか硬い。

警察官がメモ帳を閉じた。


「皆さん、協力ありがとうございました。現時点では事件性は低いと判断しています」


梶原が言う。


「……本当に事故なんですか?」


警察官は曖昧に頷いた。


「ヒーターと加湿器の併用、換気不足。条件が揃えば、こういうことは起きます」


佐伯が小さく息を吐いた。


「そんな……昨日まで元気だったのに」


警察官が去ると、ロビーには四人だけが残った。

暖炉の火が揺れる。

雪が屋根から落ちる音がする。

恭介は久我を見る。


「……お前、昨日、真島と話してたよな」


久我はゆっくり振り向く。


「少しな」


梶原が顔を上げる。


「何の話?」


久我は肩をすくめた。


「昔のことだよ。大学の頃の話」


佐伯が言う。


「真島君、懐かしがってましたよね」


久我は答えず、再び窓の外を見た。

その横顔は、どこか沈んでいた。

恭介はスマートフォンを取り出した。

昨日の写真が頭に浮かんだのだ。

SNSを開く。

雪景色の中で、真島と佐伯が並んで写っている写真。

肩が触れ合うほど近い。

佐伯の表情は、少し困っているようにも見えた。

そのとき。

足元で黒い影が動いた。

ヴァレリーだった。

黒猫はソファの背に飛び乗り、恭介を見た。


「人間は、写真に騙される」


恭介は小声で言う。


「どういう意味だ」


ヴァレリーは答えず、尻尾だけを揺らした。

恭介はSNSのコメント欄を見る。


『お似合いじゃん(笑)』


胸の奥がざわつく。

梶原が言う。


「昨日の宴会でも写真の話してたよな」


恭介は思い出す。


『それ言うな』


『秘密だよ』


笑い声。

――久我だけが黙っていた。

その沈黙が、今になって重く響く。

佐伯が小さく言う。


「……私、そんなつもりじゃなかったんです」


梶原が言う。


「分かってるよ。でもさ、もし彼女いたら怒るよな」


久我の肩がわずかに動いた。

グラスを持つ手が、ほんの少し震えた。

恭介はその揺れを見逃さなかった。

ヴァレリーが言う。


「笑い声は、真実を隠す」


恭介は眉をひそめる。


「何が言いたいんだ」


ヴァレリーは暖炉の火を見つめた。


「昨夜、誰かが嘘をついた」


ロビーが静まり返る。

恭介は息を呑んだ。


(……誰が?)


雪が静かに降り続けていた。


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