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黒猫ヴァレリーの事件簿  作者: 高橋 なぎ
第3章 落ち葉の足音
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エピローグ 恭介の秋よりつらい冬

恭介はそっとドアを開けた。

廊下に人の姿がないことを確認する。


(よし、いまだ)


部屋を出ると、後ろ手でドアを閉めた。

抜き足、差し足。

音を立てないように慎重に歩く。

階段を降り、一階の廊下をのぞく。

誰もいない。


(このまま、誰も現れないでくれよ……)


祈るような気持ちで玄関へ向かう。

あと数歩というところで――


「恭介様」


背後から藤堂の声。

恭介は小さく飛び上がった。


「どちらに?」


振り返ると、藤堂がいつもの穏やかな笑みを浮かべて立っていた。


「本日は、これから業務の報告と決裁書類の確認が入っておられますが」


「あ……そ、そうでしたね」


「書斎はあちらでございます」


藤堂は屋敷の奥を静かに示す。

妙な迫力に、恭介は肩を落とした。


(逃げ切れなかった……)


恭介がとぼとぼと書斎へ向かう背中を見送りながら、藤堂は小さくつぶやいた。


「ヴァレリー様といい、恭介様といい……手のかかる」


書斎では、ヴァレリーが黒い鍵尻尾を左右に揺らして机を叩いていた。


「遅い」


「す、すまん」


「どうせ逃げ出そうとして、藤堂に見つかったんだろう」


「…………」


「沈黙は肯定だな」


重厚な机の上には、書類の束が積まれている。

恭介はため息をついた。


「あのさ……」


「なんだ」


「俺、見なくてもよくないか?」


ヴァレリーは椅子に座った恭介を金色の目で睥睨した。


「恭介、ひとつ聞く」


「なんだよ」


「決裁書類のサインはどうする」


「…………」


「猫の肉球はサインではない」


確かに。

しぶしぶ書類を手に取った恭介は、すぐに眉を寄せた。


「意味わかんね……」


「これくらい分からなくてどうする」


恭介は恨みがましく言う。


「お前、わかんのかよ」


「当たり前だ」


「お前、猫だろう」


ヴァレリーはすました顔で言った。


「猫だからだ」


恭介は机に突っ伏した。


「……秋よりつらい冬が来た気がする」


ヴァレリーは尻尾を揺らした。


「安心しろ。お前の冬はーー」


少しの間が空く。


「まだ始まったばかりだ」


窓の外では、夕暮れの風が庭を通り抜けていく。

やがて木の枝が揺れ、落ち葉が地面に落ちた。


カサ。


静かな屋敷の庭に、小さな音が響いた。

それは――

あの夜とは違う、ただの 落ち葉の足音だった。

第3章も無事に完結することができました。ありがとうございました。評価を頂けると励みになりますので、評価していただければ嬉しいです。

明日、いつもの時間に第4章を投稿する予定です。

秋から季節は冬へ・・・

「見るなよ。プライバシーの侵害だろうが」

「猫だから、問題はない」

「その通りでございますね」

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