10話 落ち葉の足音
事件は穏便に片付いた。
時計は戻り、商店街もいつもの静けさを取り戻している。
晩秋の夜。
古道具屋の裏の細道を、恭介とヴァレリーが並んで歩いていた。
足元には落ち葉が厚く積もっている。
カサカサ。
カサカサ。
恭介がぼやいた。
「失恋して」
一歩。
カサ。
「泥棒扱いされて」
もう一歩。
カサ。
「散々な秋だった」
ヴァレリーは前を向いたまま言う。
「いい秋だった」
恭介は顔をしかめた。
「どこがだよ」
黒猫は淡々と答える。
「落ち葉の音が聞けた」
恭介はため息をついた。
「普通の音だろ」
ふたりはまた歩く。
カサカサ。
カサカサ。
ヴァレリーが言った。
「あの夜は違った」
恭介の足が止まる。
静かな細道。
風が吹き、落ち葉がひとつ転がる。
カサ……
少し間があって、
カサ……
恭介は目を細めた。
「あの時さ」
ぽつりと言う。
「正直、全然わからなかった」
ヴァレリーは何も言わない。
「落ち葉の音なんて、全部同じだと思ってた」
恭介は地面を見た。
乾いた葉が重なり、夜露をわずかに含んでいる。
「でも」
恭介は小さく笑う。
「違ったんだな」
「世界はいつも喋っている」
ヴァレリーの尻尾がゆっくり揺れる。
「聞く気があるかどうかだ」
恭介は空を見上げた。
白い月が、静かに夜を照らしている。
そして苦笑した。
「……確かにな」
ふたりはまた歩き出す。
カサカサ。
カサカサ。
落ち葉の音が、晩秋の細道に静かに響いた。
しばらく歩いたあと、恭介がふと振り返る。
細道は暗く、誰の姿もない。
ただ落ち葉だけが、夜風に揺れている。
カサ。
小さな音がした。
恭介は少しだけ笑った。
「もう、何も隠れてないな」
ヴァレリーは答えない。
ただ静かに歩く。
カサカサ。
カサカサ。
落ち葉の音が、ふたりの後ろへ続いていく。
それはもう、ただの足音だった。
晩秋の夜の、静かな落ち葉の足音だった。




