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ドゥアピーズ帝国史

【注意】本稿の後半部分には、物語の核心に触れる重大な内容が含まれております。これは、1人の人間の想像力が作品として結実していく過程そのものを楽しむという創作方針に基づき、あえて核心的な記述を隠さず公開しているためです。このため、『sogno di vorlare』などの作品を通常の物語として楽しまれている方は、閲覧をお控えください。

首星変遷:二重惑星エジュテバ → クドゥクシュ(785年~)


1. 揺籃の地:二重惑星エジュテバ

ソーミティアユニバースにおいて、天体は宇宙の絶対座標上に固定され、空間そのものが青く自発光する。また、その重力特性は我々の宇宙とは異なり、理論上、球形以外の天体形成をも許容する。

二重惑星エジュテバは、この特異な物理法則を象徴する存在であった。

ロシュ限界を嘲笑うかのように近接した 2つの巨星は、何億年もの間、互いの引力圏を侵すことなく、奇跡的な均衡を保ち続けていたのである。


2. 天蓋の脅威と「ドゥアピーズ」の誕生

この双子星は、人口と国家の分布において著しい非対称性を有していた。

片割れである「エジュテバ1」が多数の国家と莫大な人口を抱え、混沌とした繁栄の中にあったのに対し、「エジュテバ2」は人口希薄な辺境であり、早期に『ドゥアピーズ』という単一の小国家へと統一されていた。


エジュテバ2(ドゥアピーズ)の人々にとって、空とは「青い虚空」であると同時に、「頭上に広がるもう一つの大地」でもあった。晴天の日も、雨天の日も、彼らは見上げればそこに、圧倒的な質量で迫る隣星の都市群と、そこに蠢く無数の他者を見せつけられていたのである。

この環境が、彼らに特異な強迫観念を植え付けた。

「もし、あちら側(1)が先に宇宙へ進出すれば、我々(2)は成すすべなく蹂躙される」

この「杞憂」とも呼べる生存本能こそが、ドゥアピーズ人を突き動かす原動力となった。彼らにとって宇宙開発とは、ロマンあふれる夢などではなく、種として生き残るために課された、焦眉の急務だったのである。


結果として、2星間の初の直接交流が「2(ドゥアピーズ)→ 1」の順序で達成されたことは、歴史上の最大の幸運であった。もし逆であれば、それは交流ではなく、一方的な侵略として記録されていたであろう。


3. 赤く染まる天井

ドゥアピーズ人が、限定的ながら宇宙船の往復航行を実現しつつあった頃、エジュテバ1の均衡は限界を迎えた。

世界規模の大戦が勃発したのである。

エジュテバ2から見上げる「世界の天井」は、連日、大量破壊兵器の炸裂によって赤々とした禍々しい光に包まれた。平穏なる青い夜空は、隣人の流す血の色で不気味に染め上げられ、ドゥアピーズの人々は、頭上で繰り広げられるその地獄絵図を、戦慄と共に見守るほかなかった。


4. 救世主の降臨、あるいは帝国の夜明け

大戦の果て、エジュテバ1は文明崩壊の瀬戸際へと追い込まれた。

かつて繁栄を誇った都市群は瓦礫の山と化し、生存者たちは汚染された大地で、飢えと寒さに震えながら絶望の淵に立たされていた。家族を失い、故郷を焼かれた彼らの眼差しには、もはや自力での再興を信じる光は残されていなかった。


彼らは空を見上げ、声を枯らして叫んだ。秩序を、食料を、そして明日を生きるための導き手を。

その祈りに応えるかのように、青い空から鋼鉄の船団が舞い降りた。

それは、かつて彼らが「辺境の小国」と侮っていたエジュテバ2の民――ドゥアピーズであった。


彼らは、時代が待ち望んだ「救世主」として廃墟に降り立った。

それは同時に、ドゥアピーズという名の小国家が、星系を統べる「帝国」へと変貌を遂げた瞬間でもあった。慈悲と支配、救済と征服。この二面性こそが、後の銀河を席巻するドゥアピーズ帝国の、逃れがたい精神的基盤となったのである。


慈悲と鉄血:帝国の確立

青き血の統一

ドゥアピーズは、隣星の惨劇をただ傍観することしかできなかった過去を悔恨し、その技術力を贖罪と復興の剣に変えた。

エジュテバ2で培われた宇宙航行技術を総動員し、彼らは大規模な救援船団を組織する。青く輝く宇宙空間を切り裂き、廃墟となったエジュテバ1へと舞い降りた銀色の船団は、食料と医療品、そして秩序をもたらした。瓦礫の中で手を差し伸べるドゥアピーズの指導者たちは、絶望に沈む生存者たちの目に、古の神話が語る救世主の再来として映ったのである。


政治的混乱の収拾において、明確な「象徴」を戴く君主制は強固な求心力を発揮する。復興が進むにつれ、民族間に蟠っていた敵対心は薄れ、二重惑星の民すべてが、救済の主導者であるブナチェラ家――その「青い血」の威光の下に結集した。

互いを等しく「ドゥアピーズ人」として認め合うこの統合は、単なる政治的合併に留まらず、両星の文化と技術が融合し、新たな時代を切り拓く礎となったのである。


焚書と拡張

二重惑星エジュテバの統一を成し遂げたドゥアピーズは、その成功体験と自信を背景に、近隣惑星への急速な版図拡大へと舵を切る。次々と星々を帝国の藩屏に加え、植民地化した各惑星においては、現地の史書を大量に焼却処分とする苛烈な政策を展開した。

炎に投じられた古文書と共に、星の歴史そのものを灰燼に帰すこの「記憶の抹殺」に、植民地の住民たちは恐怖した。しかし、この過酷な支配には、単なる権力誇示や同化政策の枠に収まらない、深刻な裏事情が存在していた。


ストランキャの戦慄

時の皇帝ストランキャは、自らの領土となった星々の古代史を調査する過程で、ある驚愕すべき共通項に突き当たっていた。

これらの星々には、神話と判別がつかないほど遥かな過去において、いずれも「超兵器の暴走」によって滅亡した古代文明の痕跡が刻まれていたのである。

さらに恐るべきことに、多くの記録は、その元凶となった兵器群がいまだ機能停止しておらず、休眠状態にある可能性を示唆していた。


この記録が単なる伝説ではなく事実であるならば、新たな支配者として同じ土地に座したドゥアピーズもまた、先住文明と同じ滅亡の道を辿る危険性がある。

焚書とは、愚民から歴史を奪うための圧政であると同時に、地中に眠る「滅びの引き金」に、無知な者が触れることを防ぐための封印措置でもあったのだ。


帝国の影:秘密調査機関『キツォン』

版図の拡大に伴い、帝国はその心臓部に一つの闇を抱え込むこととなった。秘密調査機関『キツォン』の設立である。

その構成員は、皇族たるブナチェラ家の一族と、エジュテバ時代からの旧貴族の子弟によって厳格に占められていた。彼らに課された使命は二つ。一つは、古代文明を滅ぼした「超兵器」に関する情報の徹底的な隠蔽。そしてもう一つは、その封印された真実を解明し、帝国の滅亡リスクを未然に排除することである。


「血の純潔こそが、口の堅さを保証する」

このドグマに基づき、選定には能力以上に血統と忠誠心が重視された。外部への情報漏洩を物理的・精神的に遮断するこの閉鎖的な体制は、帝国の意思決定の中枢に影を落とし、後のドゥアピーズ史において、表の政府をも凌駕する強大な影響力を行使することとなる。


停滞の時代:大国との衝突

初期の破竹の進撃を経て、ドゥアピーズの領土拡大は困難な局面を迎えていた。

かつては容易に飲み込めた単一惑星国家群も、技術的な成熟を果たして対等な武力を保持するようになり、安易な攻略を許さなくなったからである。

さらに決定打となったのは、ネトヴィツやタポルランといった、各宙域を制覇した他の海洋帝国との接触であった。

広大な艦隊と高度な航法技術を擁するこれら列強との国境接触は、すなわち「拡大の限界」を意味した。かつてのような一方的な併呑は不可能となり、帝国は進むも退くもならぬ膠着状態――冷戦の時代へと突入したのである。この閉塞感は帝国の未来に暗い影を落とし、指導者層にドラスティックな戦略転換を迫ることとなった。


785年:狂気の遷都

時代は下り 785年。女帝リーデ・デ・サバは、世界を震撼させる勅令を発する。

前年に征服したばかりの惑星クドゥクシュへの、帝都移転の強行である。

この決定は、軍事的・戦略的観点から見れば、首都の防衛能力を自ら放棄するに等しい愚策であった。二重惑星エジュテバの鉄壁の守りを捨て、敵勢力の面前

に開かれた平野のごときクドゥクシュに玉座を移すなど、正気の沙汰ではない。


文武百官の 7割以上が猛反対し、家臣団は連日にわたり決死の諫言と直訴を繰り返した。だが、鉄の女帝はこれら一切の声を黙殺した。

遷都の日は彼女自身の生誕日に重ねられ、臣民の間では「独身女帝の、自分への誕生日プレゼントにしては高すぎる」と揶揄する声がささやかれた。


しかし、この異例の遷都には、誰にも語られぬ深謀があった。

古代史の真実、すなわち「超兵器」の脅威を『キツォン』を通じて知悉していたリーデ・デ・サバにとって、古き母星エジュテバはもはや安住の地ではなかったのである。

彼女は知っていたのだ。そこが、いつ目覚めるともしれぬ破滅の遺産の真上に位置していることを。

この遷都は、狂気の沙汰などではなく、滅亡の運命から逃れるための、孤独で必死な逃避行だったのである。

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