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名門校の首席侍女は場末のメイドカフェで虚無を見つめる

ドゥアピーズ帝国の首都星エジュテバにある、非常に由緒正しい侍女養成学校を、ケスウは無事に卒業しました。

彼女は生徒を束ねる首席総代であり、卒業の献灯式においても栄えある最後手を立派に務め上げたのです。


献灯式とは、暗転した大講堂で卒業生たちが次々と純銀の燭台に火を灯していく神聖な儀式です。

主人の行く先を常に明るく照らし出し、館の温もりを生涯絶やさないという誓いが込められています。

生徒たちが手にした灯りが連なるにつれて、講堂は少しずつ温かな光に包まれていきました。

首席であるケスウは、厳かな儀式の最後手として、祭壇の中央にある最も大きな燭台へ炎を捧げる栄誉に浴しました。


ですが、式典の幕が下りると、彼女を待っていたのは厳しい現実でした。

長引く不況が世を覆い、民主化の波は貴族社会をも侵食していたのです。上院の議席は厳しく制限され、古豪の名門ですら往年の特権を手放しつつあります。

さらに、家事用のオートマタとの競合という問題も、かねてより彼女たちの業界に暗い影を落とし続けていました。

こうした時代の趨勢が重なり合った結果、人間の侍女を雇い入れる余裕のある家は、往時に比べ大きく数を減らしてしまったのです。


そのような時代にあって、ケスウの輝かしい経歴はついに活かされることがありませんでした。

生来の愛想のなさが災いしたのか、それほどの経歴を持ちながら、彼女を迎え入れようとする家は1軒として現れなかったのです。


挿絵(By みてみん)

(まだ自分の運命を何も知らない頃の彼女)


成績で次席や三席に甘んじていた同級生たちが、ドゥアピーズの王宮や門閥貴族の邸宅へ次々と迎え入れられていく中、栄えある首席総代であった彼女だけが、まさかの就職浪人となってしまったのです。

その屈辱的な事実に耐えきれず、彼女は次第にやさぐれていきました。


とはいえ、日々の糧を得なければ生きてはいけません。彼女は一大決心のもと、故郷を捨て、タポルラン諸星同盟へと居を移しました。


民主的な連合体制を敷くこの国家において、本物の執事や侍女を雇うという文化はすっかり形骸化しており、そうした意匠はあくまで、サブカルチャーとして大衆に消費されるに留まっています。


そう、彼女が生き残りをかけて赴いた先は、あろうことか街角のメイドカフェだったのです。

それはトップリーグのスター選手が、場末のローカルリーグに突然降り立ったような出来事でした。

エジュテバの由緒正しい養成学校で培われた、完璧な所作と格式高い礼法は、

安っぽいフリルのついた制服を着せられたこの大衆向けの店舗において、あまりにも場違いで、それゆえに綺羅星のごとき圧倒的な輝きを放っていたのです。


*


「えっと……えっとぉ……」

安っぽい木のテーブルを挟み、店のオーナーは目の前の女の顔と手元の履歴書の間で忙しなく視線を行ったり来たりさせた。

上質な羊皮紙に綴られた履歴書には、有人星系の共通字であるチコル・カラコシマが流麗な筆記体で並んでいる。

そのインクの止め跳ねの端から端まで、名門校で培われてきた深い教養が色濃く滴っていた。

そこに記された「ダキマー・ハゴロク侍女養成学校」首席卒業という経歴は、首都星サパシュセンの片隅にあるこの大衆向け店舗にはひどく不釣り合いな代物である。


「……ふざけているわけではない?」

すこぶる困った顔で汗を飛ばし飛ばし、ようやく絞り出されたオーナーの問いかけに対し、ケスウはぴくりとも表情を動かさなかった。


「……あい」

彼女の濁った瞳は、面接官の顔など微塵も見ていなかった。ただ遠く、ドゥアピーズの栄華や永遠に失われた自身の輝かしい未来でも幻視しているかのような、

ひどく間の抜けた元気のない返事だけが薄い唇からこぼれ落ちた。


オーナーは震える手で2枚目の紙へ視線を移した。そこには当店のメイド長立ち合いのもとですでに

実施された実地試験の評価レポートが綴られている。

普段は新人への指導に厳しいメイド長が書いたとは到底思えない、狂乱すら窺える文面がそこにはあった。


ティーポットからカップへ紅茶を注ぐ手首の角度がいかに完璧であったか、歩様からターンに至る動作が、いかに流れるようでいて、いかに洗練されていたかが、限界を超えた異常に強い語彙で書き殴られている。くわえて、紙面のそこかしこには、インクの滲んだ無数の顔文字や、

原形をとどめていない花のイラストが余白を完全に埋め尽くすように躍動していた。


オーナーはあらためて目の前に座る女を見た。

エジュテバの由緒ある学舎で頂点を極めたであろう背筋の伸びた姿勢は、ニスが黒ずんだ角材の椅子に腰掛けている事実すら周囲の景色から浮き上がらせてしまう。


しかし彼女の濁った瞳には微小な光すら宿っておらず、ただ深海のごとき虚無だけが横たわっていた。

額に浮かんだ脂汗を手の甲で拭いながら、オーナーはついに観念したように口を開く。


「今日からすぐシフト入れる?1人抜けちゃって」

この場末の店舗には余りにも不釣り合いな本物だと直感しながらも、

目前のホールスタッフの欠員をどうしても埋めなければならないという切実な事情が、彼にその言葉を吐かせた。


「……あい」


返ってきたのは、面接官の顔など一切見ていない、魂の抜け落ちた短い肯定だった。ドゥアピーズの暗転した大講堂で、栄えある最後手として純銀の燭台に神聖な炎を捧げたかつての首席総代は、タポルラン諸星同盟の片隅にある2階建て店舗の中で、こうして記念すべき最初の労働契約を結んだのである。



世界観の細部について、「ここをもっと詳しく」「あれはどうなってるの?」というリクエストがあれば、いつでも気兼ねなくコメント欄へどうぞ。


皆様の疑問が、この宇宙を広げる燃料になります。

ご要望があれば、すぐさま設定をでっちあ……ああ失礼、脳内アーカイブの奥底から該当データを引っ張り出し、優先的に解説を行います。

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