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パーティー(3)


******


「よし、これで今日のお仕事終了。俺はちょっとあっちの集まりに声をかけにいくけど、マフルはどうする?」

「私は疲れたからバルコニーで休もうかな」

「わかった。じゃあ帰りたくなったら声をかけて」


 やっと挨拶まわりが終わり、私と兄はいったん別行動をとることになった。

 正直もう帰りたいけれど、兄の付き合いも大事だから少し時間をつぶすことにする。


 ギブリーゼ邸の中庭に面したバルコニーに出ると、春の夜風が私の頬をなでた。

 最近暖かくなってきたとはいえ、夜はやっぱりまだ肌寒い。だけど、今の私にはこれくらいの気温が丁度よく感じる。


 幸い、バルコニーには今誰もいない。私は設置されたベンチに腰掛けて空を見上げた。

 今日は良く晴れていて、空にはたくさんの星が瞬いていた。


 そのまましばらくぼーっとしていると、私の横顔に細い明かりが差す。

 誰かが扉を開けてバルコニーに出てきたらしい。

 見るとはなしにそちらに目をやって、私は仰天した。


 そこにいたのは、ザルドだった。


 ザルドは左右に視線を動かして私を見つけると、つかつかと近寄ってきて私の前に立った。

 彼の表情や様子を見るに、どうやらたまたま来たのではなく私を捜していたようだ。

 そのことにさらにびっくりする。


 ザルドは驚きで固まる私を見て、少し困ったような顔をしながら口を開いた。


「……あんたを捜してた。驚かせてごめん。さっき会ったザルド・フィルーズだけど、覚えてるか?」


 この間町で私に声をかけてきたときとは、ずいぶん様子が違う。

 私がこくこくと頷くと、ザルドはほっとしたように笑みを浮かべた。


「さっきはうちの親がすまなかった。ありがとう。お礼が言いたかったんだ」


 初めて見るザルドの柔和な表情に、私は若干戸惑いつつも言葉を返した。


「ううん、こっちこそ勝手なこと言ってごめん。あなたのお父さんを怒らせちゃったよね」

「まあ、怒ってた。だけど、そんなことどうでもいい。サブズが……嬉しそうだったんだ。親父が近くにいるときにあんな表情をするのは初めて見た」


 この言葉からすると、どうやらザルドはサブズくんを大切に思っているようだ。

 思い返せば、ラディさんがサブズくんを貶めていたときも怖い顔でラディさんを睨んでいた。

 身内にサブズくんの味方がいることに、私はほっとする。


「さっきの私の暴走が何か少しでも役に立ったならよかった」


 そう言って、にっこり笑ってみせる。

 お礼も言ってもらったし、これで会話は終わりかと思いきや、なぜかザルドはすっと私の横に腰を下ろした。


「なあ、あんた、初めて会うよな?俺は親父に無理やり連れてこられてよくパーティーに出席するけど、あんたに会ったのは初めてだ」


 薄々そうじゃないかと思っていたが、ザルドの言葉に私は確信を得た。

 どうやら、ザルドはこの間町で会った“セフィードの彼女”と今の私が同一人物だとは思っていないらしい。

 

 ザルドは不登校とはいえ同じ学園だから、もし私が学園では変装していることに気付かれていたら面倒なことになると思っていたけれど、これはラッキーかもしれない。


 私は下手な発言をしないよう、慎重に口を開いた。


「そうだね。パーティーに出るのは3年ぶりくらいだから」

「マフル・ハーシェっていったよな?普段は何をしてるんだ?」

「いろいろ」


 学生であることがばれたらどこの学園に通っているのか聞き出されそうで、私はあいまいな言葉でごまかした。

 しかしザルドはさらに掘り下げてくる。


「いろいろって?家の仕事を手伝ってるのか?」

「それは、ええと……」


 もしかしたらザルドのこの強引さは父親譲りかもしれない。

 私がどうこの場を乗り切ろうかぐるぐる考えていると、突然バルコニーの扉が再び開かれた。


「いた、マフルちゃん!ティールくんにここにいるって聞いたのよ!」


 現れたのは、ギブリーゼ家の奥様だった。

 さらにまずいことになったことを感じ取り、私の額に冷や汗が浮かぶ。


 奥様は私に近寄りながら爆弾を落とした。


「さっきの話、ラース学園でのこと詳しく教えてちょうだいな」

「ラース学園?」


 私の横でザルドが呟くのと、奥様がザルドの存在に気付くのは同時だった。


「あら、お話し中だったのね。そちらはザルドくんよね?今日はこのパーティーに不参加のはずだったのに、来てくれて嬉しいわ。ああ、二人は同じ学園だものね、面識があるのかしら?ごめんなさい、お邪魔しちゃって。また後にするわね」


 奥様は言いながら、うふふ、と笑って室内に戻って行く。

 お願いだから待ってほしい。このまま置いて行かないでほしい。


 私はバルコニーの扉の方を向いたまま、ザルドの方を振り向けなかった。

 私の背中にザルドの視線がちくちく刺さる。


「あんた、ラース学園に通ってるんだな。俺があそこに在籍してること、知ってたのか?」

「う、ううん、知らなかった。同じ学園だったんだね、すごい偶然」


 無理やり顔に笑顔を張り付けて振り向き、ザルドに答えたその瞬間、突然夜風がびゅうっと吹き付けて、私の髪をなびかせた。

 髪が乱れてしまったのがわかり、慌てて手櫛で直そうと頭に手を伸ばす。

 しかし、私が自分の頭に手をやるより先にザルドの手が横から伸びてきて、私の髪を丁寧に払った。


「……ありがとう」

「いーえ」


 なんだか含みのあるその声音に、私は思わずザルドの方を見る。

 ザルドは、いつの間にやら私の髪から花を一本抜き取って、妖艶に笑っていた。


「…………っ」


 怪しい雰囲気に、私は息をのむ。

 これ以上ここにいたら、本当にまずいことになる気がする。どんなに不自然になったっていい、私は意を決して立ち上がった。


「ごめん、私そろそろ帰らなくちゃ。じゃあね」


そしてそのままザルドの方は振り返らず、足早にバルコニーをあとにした。


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