パーティー(2)
私がザルドを見つめたことでザルドと目が合い、私は慌てて視線を逸らした。
気付かれたかもしれない。
相手の反応を見るために、再度こっそりザルドの様子をうかがう。
ザルドは目が合ったときはいぶかしげな顔をしていたが、今はつまらなそうにどこか遠くを見ていた。
兄の話では、ラース学園の生徒は来ないはずだったのに。不登校だからカウントされなかったのだろうか。
私がザルドの存在に驚いている間にも、二番目の兄に声をかけた人物はこちらに構わずよくまわる舌でぺらぺらと口を動かした。
「突然お声がけしてすみません。わたくし、ラディ・フィルーズと申しまして、この都でちょっとした商売をさせていただいてます。こっちは長男のザルドで、妻のラースィはなんとあのオスカー財閥当主の実妹なんですよ!」
言いながら、ラディと名乗った男は順番にザルドと奥さんの背中を押して挨拶を促す。
奥さんはおどおどしつつ自身でも名前を名乗ってくれたが、ザルドはぞんざいに頭を下げただけだった。
この人たちが、あの日オスカー邸に押し掛けていたのか。
たしかに奥さんはラディさんに意見できなそうなくらい気弱に見えるし、ラディさんは髪はオールバック、太い眉をいからせて、ごりごりに押しが強そうな顔をしている。
ザルドの美貌は間違いなく奥さんの方からの遺伝だろう。
しかし、私はここまでこの一家を観察して、誰でも感じるであろう違和感に首を傾げた。
兄も同様だったようで、表情は笑顔のままやんわりとラディさんに尋ねる。
「初めまして、フィルーズさん。お会いできて光栄です。失礼ですが、もうおひと方いらっしゃるようですが……?」
そう、私と兄の目の前に立つ一家は、4人いた。
もう一人、背の低い男の子がザルドの影に隠れている。
ラディさんは言われて初めて思い出したかのように、ああ、と頷いて私の兄に答えた。
「これは、次男のサブズです。根暗で何の取り柄もないどうしようもないやつなんですよ。長男のザルドとは比べ物になりません。なので覚えて頂かなくて結構です」
ラディさんの言葉に、サブズくんがびくっと肩をすくませて青ざめる。
ザルドはラディさんの後ろから射殺さんばかりの視線でラディさんを睨みつけた。
私はというと、親とは思えない彼の発言に少なからずショックを受けていた。
まさか自分の子供のことを、こんな風に貶める人がいるだなんて。しかも、初対面の人物相手に。
私の動揺を感じ取ったのか、さりげなく二番目の兄がかばうように私の前に移動した。
「いえいえ、サブズくんも十分しっかりしているように見えますよ。申し訳ありませんが、私たちはそろそろ――」
「そちらの女性は、どなたですか?」
無理やり切り上げようとした兄の言葉を、ラディさんが図太く遮る。
兄は困ったような表情で体を少しずらし、私をラディさんに紹介した。
「妹のマフルです。今日は私の婚約者の代理で来てもらいました」
「おや、妹さんでしたか!なんと美しい!」
ラディさんはずいっと進み出てきて、私に握手を求める。
私が彼の手を握ると、私の手を掴んだままラディさんは満面の笑みで続けた。
「いやあ、やはり見目がいいというのは目の保養になりますな。今日はハーシェ家の方々と面識を持ちたくてお声をかけさせていただきましたが、マフルさんに会えるとはなんとも運がいい!うちのザルドも、陰気さが顔に出ている次男と違ってなかなかの美男子でしょう?」
「失礼ですけど」
我慢しようと思っていたけれど、ついに耐え切れなくなって私は口を開いた。
「顔の美醜がその人の性格に関係ありますか?顔がいいからって必ずしも性格がいいわけではないですよね?逆もそうです。そんな風に自分の子を貶めるあなたの方が、よっぽど陰気ではないですか?」
私の言葉に、ラディさんはすっと私から手を離した。
顔は笑っているけれど、口の端がぴくぴく動いているし目が笑っていない。
やってしまった。だけど、どうしても我慢できなかった。
サブズくんはたしかに強そうな見た目のラディさんにも、はかなげな美貌の奥さんにも似ておらず、印象に残りづらい容姿をしている。だれど、父親にどんなにひどく言われても泣き出しそうな顔をするだけで怒らないあたり、優しい子に見えた。
そもそも身内だからって何を言ってもいいわけがないのだ。
私の横で二番目の兄が身じろぎする。態度には全く出さないけれど、おそらく相当焦っているのだろう。
ラディさんは何かを堪えるように一歩下がって、口を開いた。
「……これはこれは、すみません。あなたのような若い女性にはわからないこともたくさんあるのでしょうね。それではわたくしどもはこの辺りで失礼致します」
そして、私の発言からずっと驚いた顔をしているサブズくんとザルド、奥さんを急き立てるようにどこかへ行ってしまった。
「……ごめんなさい」
彼らが見えなくなってから、私は兄を見上げて小さな声で謝った。
兄は眉尻を下げて微笑み、私に返す。
「いや、マフルは正しいよ。別にあの家とのつながりは必要ないし、はっきり言ってくれてよかった。俺は立場もあって言えないけど、最悪マフルはまだ学生だから大目にみてもらえるしね」
兄の優しいフォローを受けてもなお、私は肩を落とす。
「なんだか悲しくなっちゃった。きっと私が言い返したって、サブズくんの待遇は変わらないだろうし……」
「それはそうだけど、そこから先はサブズくん自身が立ち向かわなくちゃならない問題だから。マフルの言葉はきっとサブズくんにも少なからず響いていたと思うよ」
「…………」
視線を上げない私の頭を、兄がくしゃくしゃと撫でる。
「良い子良い子」
「子供扱いしないで」
口をとがらせてそう反論すると、兄は楽し気に笑って言った。
「ふふ、そうだね。それじゃ、気を取り直して挨拶を終わらせよう」
兄に手を取られ歩き出す。
歩いているうちに少しずつ気持ちが切り替わって、私は再び笑顔になることができた。




