パーティー(1)
「マフル、用意できた?」
ネクタイの締め具合を調整しながら入って来た二番目の兄にそう聞かれ、鏡と向き合っていた私は兄の方を振り向いた。
二番目の兄は着飾った私を見て、頬を緩ませる。
「ドレス姿のマフルは久々に見たけど、とっても綺麗だよ」
「ありがとう」
今日の私は、長いピンクの髪を片側でゆるく巻いてまとめて垂らし、その髪に生花を編み込んでもらった。
身にまとったドレスは、髪と同じ色をしたエンパイアラインのスカートの上をふわっと広がるレースが覆うシンプルなデザインだ。レースにもハートカットになっている胸元にも宝石が散りばめられており、向きをかえるたびにドレスがきらきらと輝く。
このドレスを着た私を見て、セタルはほうっとため息をつき、「ますます妖精のようですね」と呟いていた。
こんなに着飾るのは数年ぶりだが、自分でも自分の成長を実感している。
背が伸びて大人っぽいシンプルなデザインのドレスが着られるようになったし、ヒールを履いても自然に歩ける。何より、胸元が貧相ではなくなった。これは地味に嬉しい。
「それじゃあ、出発しようか」
ひじまでの長さの手袋をはめた手を二番目の兄に取られ、私たちはギブリーゼ家主催のパーティーに向けて出発した。
ギブリーゼ家は、うちと同じ通りの一番端に位置している。
馬車で一直線の道は週末だけあってそこそこ混んでいたが、少し余裕をもって家を出た私たちは時間に遅れることなくパーティー会場にたどり着くことができた。
「やあ、よく来たね、ティールくん。マフルちゃんもお久しぶり」
「まあ、今日はマフルちゃんも来てくれたのね。久しぶりに会えて嬉しいわ」
顔に満面の笑みを浮かべて出迎えてくれたのは、ギブリーゼ家の当主とその奥様だ。
ギブリーゼ家当主はたっぷりとした顎鬚の持ち主のずんぐりむっくりした男の人で、対する奥様はひょろっと背が高い。ご当主と奥様の身長差は私とセフィードのそれと同じくらいある。
世間一般では、背が高い女の人を嫌がる男性も多いらしいが、このご当主は奥様を溺愛していることで有名だ。もちろん奥様もご当主大好きなおしどり夫婦である。
私と二番目の兄は、それぞれ膝を折って彼らに挨拶した。
「今日はお招きいただきありがとうございます」
「ご無沙汰しております」
彼らはじーっと私を見つめて、感慨深そうに言った。
「マフルちゃんはなんだかますます綺麗になったなあ。少しびっくりしたよ」
「ほんと。学園でも引く手あまたなんじゃない?」
私がラース学園に通っていることを知っている奥様が、半ばからかうように笑顔を浮かべる。私はそれに対し、首を横に振って答えた。
「いえ、卒業間近の今になってやっと恋人ができたところです」
「まあ!お相手はどんな人?」
目をきらきらさせて聞いてくる奥様に、なぜか二番目の兄がにこにこと返事をした。
「セフィード・オスカーですよ。オスカー財閥の」
「まあ、まあ!!」
「それは本当か?」
なんだか二人の目の色があからさまに変わった。
根掘り葉掘り詳しく聞きたい!という感情が駄々洩れている。そういえばこの二人はミーハーなところがあったことを、今更ながら思い出した。
私が二人の様子にこっそり一歩引いたところで、タイミングよくギブリーゼ家の執事さんが二人に話しかけてきた。
「ご歓談中すみません。ユジン様がいらっしゃいました」
「わかった。……二人とも、ゆっくり楽しんで。マフルちゃん、あとでじっくり話を聞かせてもらうからね」
このノリ、クラスメイトを思い出す。みんな、私がセフィードと少し話すだけで何があったか詳しく聞きたがるのだ。
私はそんな暇ないほど二人が忙しいといいな~なんて考えながら、二人に笑顔で手を振った。
私と二番目の兄は、交流が必要な人達に順次挨拶してまわっていった。
ある程度終わったところで、一息つくためにボーイからドリンクを受け取り、口に含む。
ここに来て初めて飲むドリンクは、緊張で乾いた喉を丁度良く潤してくれた。
「マフル、まだ疲れてない?」
「大丈夫」
「あと少し挨拶したら、自由だからね。がんばろう」
そう言いながら二番目の兄が私の手を取る。
しかし、私たちが再び歩き出そうとしたところで、後ろから突然声がかけられた。
「ティール・ハーシェ様ですよね?」
かけられた言葉に私は振り向いて、驚きに目を見張った。
兄に声をかけてきた人物に覚えがあったからではない。
そうではなく、その人物のうしろに、最近知った顔が――――セフィードのいとこ、ザルドが立っていたからである。




