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パーティー(4)


 パーティー会場を見回すと、兄は思いのほか近くにいた。

 急いで駆け寄り、兄のスーツの裾を引っ張りながら私は訴える。


「ティールお兄様、まずいことになったの。先に帰っていい?」


 兄はそんな私を見て首を傾げながら尋ねた。


「どうしたの?」

「説明はあとで。お願い」


 私の必死な様子が伝わったのか、兄は鷹揚に頷いてくれた。


「わかった。気を付けて帰るんだよ」

「ありがとう」


 応えるやいなや、私はドレスの裾を翻して出口へと向かった。

 ギブリーゼ家の奥様には申し訳ないけれど、また今度ゆっくり話をさせてもらうことにする。


 出口近くにいたギブリーゼ家の執事さんに頼むと、彼は手早く馬車を手配してくれた。

 執事さんのエスコートで馬車に乗り込み、座席の背もたれに背中を預ける。

 なんだかどっと疲れてしまった。

 ただにこにこ笑って兄の横にいるだけでよい簡単なお仕事だと思っていたのに、まさかこんなどたばたな事態になるなんて。

 そもそも初対面の人に喧嘩を売ってしまった私が悪いんだけど。


 私が一人反省会をしているうちに、馬車は我が家へとたどり着いた。


 ふと窓の外をみると、我が家の門前に人影がみえる。

 暗くて顔はよく見えないがシルエットだけで私にはそれが誰かわかってしまった。


「セフィード!」


 私は馬車から転がり出るようにセフィードへ駆け寄った。


「思ってたより早かったな」


 小さく笑って迎えてくれるセフィードの顔を見たら安堵感が全身に広がって、私はぎゅうっとセフィードに抱き着いた。

 突然抱き着いてきた私を、セフィードは危なげなく受け止める。

 馬車は空気を読むように、向きを変えて来た道を戻って行った。


 黙ったまま抱き着き続ける私の背を、セフィードはゆっくり撫でながら静かな声音で言った。


「何かあったのか?」

「……何で?」


 なんとなく甘えすぎな気がしてごまかしてみるも、頭上から小さな笑い声が聞こえて思わず私は顔を上げる。

 セフィードは目を細めて微笑みながら私を見つめていた。


「いいから話してみろよ」


 ああ、この人には本当にかなわない。

 私は少し悔しい気持ちで頭をぐりぐりとセフィードに押し付けながら口を開いた。


「初対面の人に失礼なこと言っちゃったの」

「へえ。どんな?」

「あんた性格悪いって意味のこと言った」


 私の言葉にセフィードはぷっと吹き出した。


「やるなあ」

「笑いごとじゃないよ。相手はセフィードも知ってる人だよ」

「だれ?……もしかして、ラディおじさんか?」

「なんでわかるの!?」


 セフィードのあまりの勘の良さに、私は思わず驚いて大きな声を出した。

 セフィードはそれに対し、何でもないことのように肩をすくめながら言う。


「今日ギブリーゼ家のパーティーに出席しただろう人物で、俺の知ってる性格悪い人物がそれくらいしか思いつかなかった」

「…………」


 その言い草に、私はじっとセフィードを見つめ、笑ってしまった。


「ふ、ふふ」

「なんだよ」

「だって、セフィードのおじさんなのに」

「おじさんだからだろ。というか、おじさんに会ったならザルドにも会ったのか?」


 セフィードの言葉で私はもうひとつのやっかいごとを思い出す。


「うん、会った。私がラディさんに喧嘩売ったから、なんか興味持たれちゃったかも。名前も知られちゃったし……。でも、不登校なんだもんね?」


 そうだと肯定してほしくて、これからの学園生活に支障はないと思いたくて、私はセフィードを上目遣いでうかがいながら尋ねる。

 しかしセフィードはあごに手を当てて眉をしかめながら言葉を濁した。


「……どうだろうな。まあ、それは今考えても意味ないし」

「……そうだね」


 言葉ではセフィードに同意しつつ、不安な気持ちは変わらなくて私は視線を落として口をへの字に曲げる。


セフィードはそんな私を見て口を開いた。


「そんなことより、すごいな」

「え?何が?」


 突拍子もないセフィードの言葉に、私は目を丸くする。

 セフィードは上から下まで私をじっくり眺めながら答えた。


「ドレスアップしたお前だよ。さすが、見せたがるだけある」

「ばかにしてる……?」


 思わず胡乱気な顔で聞くと、セフィードは首を傾げた。


「なんでだよ。褒めてるだろ。最初に見せてもらったときがかわいさの上限だと思ってたけど、いくらでも美人になれるんだな」


 恥ずかしげもなくそう言ってのけるセフィードに、私の顔は真っ赤になった。


「あ、ありがとう……」


 火照る顔を抑えながら、私はお礼を言う。

 そういえば、そもそもセフィードが今ここにいる理由は私のこの姿を見てもらうためなんだった。

 いろいろあってすっかり忘れていた。


「ほんとはもう一回抱きしめたいけど、お前の家族がこっちをうかがってるからやめとく」


 ちら、と私の背後を見ながら言うセフィードに、私は思わず振り返る。

 すると、屋敷の少なくない数の窓のカーテンが一斉に揺れた。


 これは、両親と兄たちだけでなく、使用人たちにも見られてたな……。


 恥ずかしさと申し訳なさで言葉もでない私の頭をぽんぽんと撫でながらセフィードは言った。


「じゃあ、そろそろ俺は帰るから、マフルももう家に入れよ」

「あ、うん、わざわざ来てくれて本当にありがとう」


 私の言葉に、セフィードは口端を持ち上げて笑ってみせたあと私に背を向けて帰って行った。

 

 セフィードが終始飄々としているから、私もなんだかなんとなかなる気がしてきて、馬車に乗っていたときより明るい気持ちで玄関へと向かった。


しばらく投稿に間が空いてしまってすみません。

勝手に夏休みに突入していました。そしてまたしばらくお休みをいただきます。

再来週くらいからまた更新再開できるかと思いますので、よろしくお願いします……!


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