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セフィードのいとこ(1)


 シャーリーと話している間にほとんどの生徒は下校したようで、廊下も教室も人はまばらになっていた。

 視線を浴びないことに安心しながら、改めてセフィードの待つ教室へ向かう。


 セフィードは教室の入り口で私を待っていた。


「遅かったな」


 教室の扉に寄りかかっていたセフィードは、私を見つけるとその身を起こした。

 私はセフィードに駆け寄り、高い位置にある彼の顔を見上げる。


「ごめんね、中で待っててよかったのに」

「何かあったのかと思って」


 つまり、心配していたということだろうか。

 私が嬉しくなって思わず笑うと、セフィードは怪訝そうな顔をした。


「なに?」

「意外と心配性だよね」

「……そんなんじゃない」


 私の言葉が心外だったのか、セフィードは不機嫌そうにすたすたと歩き出す。

 それでも私を置いて行かずにすれ違いざまに私の手を取ってくれるあたり、やっぱり彼は優しかった。


******


 制服のまま外をうろうろするのは外聞が良くないので、まず私の家に寄って着替えてから改めて出かけさせてもらうことになった。

 セフィードを応接間に待たせて自分の部屋に向かう。


 私は少しだけ考えて、カツラと眼鏡はつけたまま着替えることにした。


「今日のデートはお洒落されないんですか?」


 残念そうに言うセタルに私は苦笑する。


「前回は学園の授業がある日に出かけたから知ってる人に会う可能性が低かったけど、今日はテスト終わりで誰がどこにいるかわからないから」

「それはわかりますが、セフィード様という恋人ができたのですから、もう変装なさらなくてもいいのに……」

「騒ぎになるのが面倒なの」


 何を言われても、今日はカツラと眼鏡を取るつもりはない。

 セタルは残念そうにため息をつきつつも、私のために服を選んでさっと簡単にお化粧もしてくれた。


 準備を終わらせてセフィードの元へ向かう。

 セフィードは我が家のメイドが出したお茶を飲みながら、何やら難しそうな本を読んで私を待っていた。


「お待たせ、次はセフィードの家に行こう。馬車を用意させてるよ」

「助かる。……それだけでもだいぶかわいいな」


 小さく呟かれた言葉は、はじめ何に対してなのかがわからなかった。

 しかし少しして化粧したことに言及していると気が付くと、私の顔は一気に赤くなる。

 ゆであがった私の顔を見て、セフィードは口端を持ち上げて笑いながら本をカバンに仕舞い、立ち上がった。



 テストの日は学園がお昼前に終わるので、私たちはセフィードの家でランチを食べてから出かけることに決めていた。

 ちなみにセフィードの両親は今日も仕事で家にいないため、食卓につくのは私たち二人だけとのこと。


 私は初めて訪れるオスカー邸を、「うわああ……」と声をあげながら見上げていた。

 このときの私の表情はおそらくかなり間抜けだっただろう。だけどそんなことに気を配っていられないくらい、この家は素晴らしかったのだ。


 オスカー邸は、一言でいえば巨大な黒い箱をいくつか積み上げたような形をしていた。

 敷地の広さは我が家と同じくらいだが、我が家は家は小さめで庭がとても広いのに対し、オスカー邸はほとんど敷地いっぱいに家が建てられているため、建物がとても大きい。かといって庭がないわけではなく、家の周りを様々な種類の草花が彩っていた。

 ともすると威圧感が出てしまいそうな造形だが、アシンメトリーに配置された大きな窓や、モダンなデザインのバルコニーがセンスよく配置されている。建物にお洒落だと思ったのは、これが初めてだった。


「すっごく中を探検してみたくなる家だね……!」


 私の言葉にセフィードは首を傾げた。


「そうか?してもいいけど」

「しないよ!初めて来た彼氏の家を探検する女ってどうなの」

「別に俺は気にしない」


 ときどき思うけど、セフィードって少しずれてると思う。

 私はやれやれと首を振って、家の中へ入ろうとするセフィードを追いかけた。


 セフィードの家は、中もとても先鋭的だった。

 玄関には大きな明り取りの窓があり、明かりをつけなくてもとても明るい。

 その玄関で使用人たちがセフィードの帰りをにこやかに出迎えた。


「セフィード様、お帰りなさい」


 執事頭と思われる男性が使用人たちを代表してセフィードに言葉をかけ、私に向き直る。


「そちらは、マフル様ですね。ようこそいらっしゃいました」


 人の好い笑顔を浮かべてそう言ってくれる彼に、私は少し緊張しながら淑女の礼をとった。


「初めまして、マフル・ハーシェです。今日はお邪魔してすみません」

「いえ。我々一同マフル様とお会いできるのを楽しみにしておりました」


 この国一番の財閥に仕える執事なだけあって、その立ち居振る舞いは嫌味がなく完璧だ。

 後ろに控える人々も、本心はどうあれ感じの良い表情で私に頭を下げてくれる。

 

 私はほっとしながらセフィードの後に続いてオスカー邸の中へ足を踏み入れた。


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