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兄からのお願い


「待って、マフル」


あれから数日経ったある日の朝、登園するために玄関へ向かっていた私は、ちょうど自身の部屋から出てきた二番目の兄に呼び止められた。


「あ、おはようお兄様」


 笑顔を浮かべて兄の方へ視線を向ける。

 兄は少し言いづらそうに頬をかきながら私に言った。


「おはよう。突然ごめんね。ラース学園はもうすぐテスト期間だよね?それっていつ終わる?」

「あさってから5日間だから、一週間後には終わるよ」

「そうか、なら大丈夫かな……」


 二番目の兄はひとり言のように呟いて、言葉を続けた。


「実は、再来週行われるギブリーゼ家主催のパーティーにハーシェ家代表として僕が出席しなくちゃいけないんだけど、パートナーとして連れて行こうと思っていた僕の婚約者が急用で行けなくなっちゃったんだ。だから、代わりにマフルが一緒に来てくれないかな?」


 ギブリーゼ家は、わがハーシェ家と同じく政界で活躍する一族のひとつだ。

 付き合いも長く、こういった親交の場にはお互い必ず出席するようにしている。

 とはいえ、私は小さい頃に一度親に連れられてパーティーに行ったことがある程度だけど。

 なんにせよパートナーに都合がつかなくなったからといって欠席するわけにはいかないだろう。


「いいけど……私パーティーに行くの数年ぶりだよ?大丈夫かな?」


 私はラース学園に入ってからは一度もこういったパーティーに顔を出していない。なぜなら、もし万が一学園の他の生徒が出席していたらまずいからだ。大人の付き合いが必要となるパーティーで変装するわけにはいかないだろう。

 数年前までは子供だったし多少の粗相も許されたけれど、さすがにこの歳ではきちんと淑女として振舞えなければ一緒に参加する兄も恥をかくことになる。

 

 私が不安からそう尋ねると、二番目の兄は朗らかに笑って言った。


「たしかに実践はしてないかもしれないけど、マナー講師には定期的にレッスンしてもらってるよね?だったら大丈夫だよ」

「そういうもの?」

「うん。それに、もし粗相をしちゃっても、ギブリーゼ家なら大丈夫でしょ。付き合いも長いし」

「えー、私が粗相をする前提って」


 私の言葉に二番目の兄は笑い声をあげる。


「はは、冗談だよ。マフルなら大丈夫。僕の自慢の妹だからね。あ、ちなみに今回のパーティーは話を聞く限りラース学園の子は来ないみたいだよ」

「そうなの?それはよかった」


 恋人ができた今、ばれても困ることはないけれど、やっぱり面倒なことになるのは極力避けたい。

 私は兄に向って頷いた。


「わかった、お兄様と一緒に行く。エスコートよろしくね」

「ありがとう。助かるよ」


 一番上の兄と三番目の兄はともかく、二番目の兄にはいろいろと感謝をしている。

 少しでも役に立てるなら本望だ。


 だがしかし、まさかここで頷いたことを近い将来後悔することになるなんて、このときの私は思いもしなかった。


******



 終業の鐘が鳴り、生徒たちが一斉にペンを置く。


「はーい、これで試験は全部終わり。答案用紙集めるぞ」


 教室内をまわってきた担任に答案用紙を預けながら、私はほっと安堵の息をついた。

 

 これでようやくテスト勉強から解放される。

 

 ここはお見合いのための学園なだけあって、成績が悪いくらいでは落第しない。

 だから、本当に結婚相手だけを捜しにきている生徒は勉強は一切していなかったりもする。

 だが逆に成績が良いと、この学園を出た後の就職に有利だったりもするため、半分以上の生徒は勉強にも必死で取り組んでいた。


 私は正直就職にはあまり困っていないが、ハーシェ家の面子のために半分より上にはいられるよういつもは頑張っている。

 そこに加えて今回は、セフィードと釣り合うようになりたくてさらに必死に勉強した。

 手ごたえはいつもよりある、と思う。


 私が出していたペンを片付けていると、近くの席の友人がにこにこと話しかけてきた。


「ねえマフル、この後みんなでカフェに寄って帰ろうって話になってるんだけど、マフルも一緒にどう?」


 私は眉尻を下げて頭を横に振る。


「ごめん、行けないや。先約があって」

「もしかして、それってセフィード様と?」

「うん……」


 なんだか照れくさくて小さな声でうなずくと、彼女はにまにましながら「やだー!」と叫んで私の背中をばんと叩いた。

 痛い。


「いいなー!今流行りの放課後デートってやつ?!」

「えーと、うん、そうなのかな」


 今庶民の間では、平日の空いた時間に短いデートをするのが流行っているらしい。

 私たちの場合、それがしたかったというより、「また一緒に出掛けたいなー」「しばらく休みの日も忙しいんだよな。テスト期間最終日なら空いてるけど」という会話があって、今日になっただけなのだが。


 なぜか自分のことのようにワクワクしてくれている友人に手を振り、私はセフィードのいる教室へと向かった。


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