やっかみ
私がセフィードとのことを周知したいと思ったのは、そうすることで一緒にいても騒がれたり変に噂されたりしなくなるだろうと思ったからだ。
しかし、現実は想像より少し悪かった。
私は目の前に立つ私より少し背が高い女子を、ゆっくりと見上げた。
「ちょっと、聞いてんの?なんであんたなんかが図々しくセフィード様と付き合ってるわけ?って言ったんだけど」
「はあ……」
ため息とも相槌ともつかない返事をした私を、眉をしかめて相手の女子が睨みつけてくる。
私はゆっくり一度深呼吸してから相手に向き直った。
「どうして私がセフィードと付き合ったら駄目なの?」
「釣り合いがとれてないって言ってんの。あとその不愉快な呼び捨てやめてくれる?」
これはおそらくどんなに会話しても意味がない。
彼女はきっと、私が別れると言うまで納得しないだろう。
廊下のど真ん中で対峙する私たちを、すれ違う生徒がいぶかしげに見てくる。
私は敢えて何も答えず黙って歩き出した。
「待ちなさいよ」
「もう休み時間終わるから」
追いかけてこようとする女子を振り払うように、私は早足で歩き続けた。
「はあー……」
「ちょっと、大丈夫?マフル」
その日のお昼休み、食堂へライシーとお昼ご飯を食べに来た私は、注文もせずに机に突っ伏した。
何か食べなきゃと思っていたけれど、食欲が沸かない。
ライシーはいつの間にか買ってきたサンドイッチをもぐもぐと頬張りながら私の頭を撫でた。
「いやあ、困ったね」
「ほんと。今日だけでもう12回だよ……」
昨日は話題の衝撃が強すぎたからか何もなかったのに、噂が広まりきった今日、私はセフィードを狙っていた女子たちから道行く先で声を掛けられ、セフィードと付き合っていることを責められていた。
「クラスの子たちは応援派になってくれたのにね」
「持つべきものは友達だわ」
顔を合わせるたびにセフィードとのことを根掘り葉掘り聞かれるのは勘弁してほしいところだが。
それでも悪意を向けられるよりよっぽど心地良い。
私は突っ伏したままライシーに愚痴を言う。
「私がセフィードに公開告白したときに居合わせた女子にも声かけられた……」
「ほんと?何言われたの?」
「あの後絶対振られたと思ってたって……。こんなことになるなら私が先に告白したのにって」
「うわー……。先に告白しようが結果は変わらないのにねぇ」
変わらない……と思いたいけど。
その子がとてもかわいい子だったから、悔しいことに私は少し怯んでしまった。
セフィードが外見だけで判断する人じゃないのはわかってる。
だけど、かわいい人はかわいくあろうとメイクをしたり髪を巻いたり、多少なりとも努力しているのだ。
この間セフィードとデートしたとき、できる限りかわいくしたいと頑張ったことで、私にもやっとそれがわかった。
私が黙っていると、ライシーがふと思いついたように言った。
「ねえ、マフルはミスコン出ないの?」
「え?」
全く意識になかったミスコンという言葉に、私は思わず顔を上げてライシーを見る。
来週の試験が終わったら、次のイベントはミスコンだ。
この学園の女子なら誰でも出場可能なイベントで、相手のいない女子が男子にアピールする貴重な機会である。
中には外見ではなく自分の特技だけで勝負する女子もいるが、やはりミスコンと名が付くからには美しさを競う女子が圧倒的に多く、私には関係のないイベントだと思っていた。
「考えてもみなかった……。出場するのは彼氏がいない子ばっかりだし」
「そうなの?でもミスコンである程度良いアピールができれば、やっかみも減るかもよ?」
「それは……本当の外見を皆にばらすってこと?」
私の言葉にライシーは顎に手を添えて首を捻り、答える。
「それはやりすぎかもしれないけど、眼鏡とカツラはそのままでばっちりメイクしてみるとか」
私はしばらくそのまま考えてみたが、やがて首を横に振った。
「うーん……やっぱりちょっと出場してる自分が想像できないや。ごめん」
「そっか、そうだよね」
ライシーは困ったように笑ってそう頷く。それを見たらせっかくアドバイスしてくれたのに、となんだか申し訳なくなって、取り繕うように私は言った。
「一緒に考えてくれてありがとう。多分こんなのは最初だけだろうし、スルーできるように頑張るよ。今度の試験で良い点を取ったら、釣り合わないって言ってくる女子にも見直してもらえるかもだし」
とはいえ、私の成績は良くて中の上。いつもほとんど真ん中らへんだ。
学科も文学科で、特に取り柄のない生徒が選ぶ学科ランキングナンバーワンである。
改めて自分を見つめ直すと、自分の平凡さにつくづくため息が出た。
ちなみにセフィードはいつも学年5位以内に入っている。本当に非の打ち所がない。
だけど、セフィードは自分がそうあるために努力している。昨日一緒に勉強したときも、ずっと真面目にノートにペンを走らせていたし、私がわからないところはわかりやすく教えてくれた。
彼をまだちゃんと知らない頃、彼はなんでも持っていると思っていたけれど、それはもともと持っていたものばかりではなくて、彼が努力して手に入れたものもきっとたくさんあるのだ。
それなら私も一緒に頑張りたいと思う。
そう考えると少しやる気がわいてきて、私は立ち上がった。
「よし。なんかお腹空いてきた。とりあえずお昼買ってくる」
「よくわかんないけど、よかった。行ってらっしゃい」
手を振るライシーは、ほっとしたように笑っていた。




