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セフィード・オスカーの彼女(1)

 次の日の朝、昨日の余韻でうきうきと学園に向かった私は、学園全体が妙にざわついていることに気が付いた。

 首を傾げつつ教室に向かうと、入ったとたん友達に飛びつかれる。


「マフル、聞いた!?セフィード様、昨日デート権を使ったらしいよ!!!!」

「ソ、ソウナンダー……」


 思わず片言になってしまった。

 助けを求めてライシーの方を見ると、彼女は神妙な顔で首を横に振っている。


 どうやら、朝から皆がざわざわしている理由はこれらしい。

 セフィードは先週だってほとんど休んでいたのに、どこから昨日はデート権行使での休みだと漏れたんだろう?

 とりあえず、改めてセフィードの人気を思い知る。


「セフィード様、今まで浮いた話なんて全くなかったのに!」

「私次のミスコンでアピールしようと思ってたのよ」

「まだデートしただけなら、私にもチャンスがあるかも」


 思い思いに話す友人たちに、私は意識を遠くへ飛ばしそうになった。

 この会話、ほとんど私は蚊帳の外だ。

 

 しかしやがて私の存在を思い出したらしい友人の一人が、私に問いかけてきた。


「そういえば、マフルも昨日休んでたよね?まさかデート権使った?」


 いきなり核心をつかれ、一瞬言葉に詰まったものの、嘘はいけないと思い私はうなずく。


「う、うん、実はデートしてきた……」

「うそー!?!?今までそんな相手いなかったよね?もしかして、相手はセフィード様だったりする?」

「そ……うだよ」


 私の返答に、クラス中が静まり返る。

 きっちり5秒くらい静寂に包まれたのち、全員がどっと笑った。


「もう、マフルったら冗談が上手いんだから!」

「一瞬本当かと思っちゃった!」

「でも、夢はみたいよね!セフィード様と噂になるだけでも嬉しいかも!」

「マフルの本当の相手も興味あるー!」


 いや、全員果てしなく失礼だな!

 半目になった私を、ライシーが離れたところからひどく気の毒そうな顔で見ている。

 こうなると悔しいので、演劇祭の日は隠そうとしたことなど忘れ、相手はセフィードであることを主張しようと口を開く。


 しかし、私が話し始める前にタイミング悪く担任が教室に入って来た。


「朝のホームルーム始めるぞー。席つけー」


「あ、先生来ちゃった。またね、マフル」

「あとで相手聞かせてね」

「え、ちょ……」

「マフル・ハーシェ、早くしろー」

「…………」


 担任にまで煽られ、私は不完全燃焼な気持ちでしぶしぶ自分の席へ向かった。



 1限目と2限目の間の休み時間で、私はいつものように背中を高速でつつかれた。

 さっきの出来事で機嫌が悪くなっていた私は、当然のごとくそれを無視する。

 しかし、残念なことにタージェルは空気が読めない。


 ついには最近流行っている音楽を歌いながらリズムに合わせて私の背中をつつき出したので、いい加減うっとうしくなった私は観念して振り向いた。


「もー、いつもいつも本当にしつこい!なにっ!」

「おー、やっと振り向いた!お前もこの曲好き?」

「たった今嫌いになった」

「なんで!?」

 

 タージェルは大げさに驚きつつ、ちょいちょいと手招きする。

 仕方なく少し体をタージェルに近付けると、タージェルはひそひそ声で言った。


「ねえ、シャーリーって今彼氏いないってまじ?」

「……ほんとタージェルいらないことばっかり聞いてくる……」

「はい?」


 てっきり、朝の話題の延長で私のデートの相手を聞いてくれるかと思っていた。

 今までのタージェルなら聞いてきたはずなのに。

 そしたら、今度こそ相手はセフィードだって主張するのに!


「どういうこと?」

「……なんでもない。彼氏はいない……と思う」


 好きな人は、いたけれど。

 あれからシャーリーには気まずくて会えていない。

 あのときの私はシャーリーとセフィードが両想いだと思っていたから、振られるつもりで先手を打ってしまったけれど、セフィードと恋人同士になってしまった今となっては結果的にシャーリーを出し抜いてしまった形になる。

 それが申し訳なくて、彼女と顔を合わせられずにいた。


 せっかくできた新しい友人を傷つけたであろうことを思い出し、少し暗い気持ちになって思わず俯く。

 すると、なぜかタージェルが私の頭をぽんぽんと叩いてきた。


 思わず顔を上げてタージェルを見ると、タージェルは得意げな顔をしていた。


「何で急に元気なくなったか知らないけど、こういうとき女子を優しくなぐさめる男子がモテるんだよな?」

「余計暗い気持ちになったんだけど」

「だからなんで?!」


 なぜかむきになって再び私の頭をなでようとタージェルが手を伸ばす。

 私がその手を避けようと身を引くのと同時に、タージェルの手が誰かに掴まれた。


「え?」

「え?」


 私とタージェルは、揃って間抜けな声をあげてタージェルの手を掴んだ人物を見上げる。

 

 そこに立っていたのは、まさかのセフィードだった。


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