デート?(5)
今日は文字数の関係で2話連続更新しています。
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「いや。正しくはシャーリーくらいしか書ける名前がなかった。書いてから、シャーリーに彼氏がいることに気付いた」
「えー、もっとひどい理由……。ちなみに、今はもうシャーリーは彼氏と別れてることは知ってた?」
「そうなのか?初めて知った」
「……。シャーリー、セフィードを降光祭に誘ったんでしょ?」
「誘われたけど、暇だったらどう?みたいな感じだったから。あっちも当日彼氏に用事があるとかで暇なのかなと」
セフィードのとぼけた返事に呆れつつ、私は口元がほころぶのを抑えきれない。
セフィードはシャーリーを好きなんて一言も言ってない、と言っていたけれど、好きじゃなければどうしてあの用紙に名前を書いたんだろう、と本当はずっともやもやしていた。
その疑問が、こんな形で解消された。
セフィードは本当にシャーリーを好きなわけではなかったらしい。
シャーリーに申し訳ないと思いつつも、セフィードが初めて好きになった人が私で嬉しい。
顔を両手で隠して笑う私をセフィードが「なんだよ?」と肘で小突いたところで、飲み物と前菜が運ばれてきた。
私たちの会話を黙って見守っていたセフィードの父親が、にこやかにグラスを持ち上げる。
「じゃあ、乾杯しよう。セフィードの成長と、マフルちゃんに会えたことを祝して」
その言葉にセフィードは眉をしかめたが、特に何も反論せずに黙って同じようにグラスを持ち上げた。
******
もうすっかり暗くなったその日の帰り道、私はほどよい疲れで少しぼーっとしながら馬車に揺られていた。
いつの間にか雪はやみ、雲間からは月の光が差している。
セフィードの両親とは、食事をしたレストランで別れた。
今日はこの後二人ともティールバーグ庭園に残って仕事をしてから帰るらしい。
セフィードが少し席を外したすきに、セフィードの父親が茶目っ気たっぷりにウィンクして言った。
「今日は本当にありがとね、マフルちゃん」
「いえ!とても楽しかったです」
私の返事に、彼は父親の表情で笑った。
「きみのことを報告にきたときのセフィード、僕たちも初めて見る表情をしていたよ。不愛想な子に育ってしまったと思っていたけれど、あんな表情もできるんだと安心した」
優しい顔でそう話すセフィードの父親の横で、セフィードの母親もまたうんうんと嬉しそうにうなずく。
両親がそんな風に言うなんて、一体セフィードはどんな顔をしていたんだろう。
聞いてみたかったけれど、セフィードが戻ってきたため、その話題は流れて行ってしまった。
セフィードは行きと同様私の横に座り、窓枠に頬杖をついて外を眺めている。
時折差し込む街灯の光に照らされたその横顔は、相変わらず嫌味なくらい美しい。
正直、未だにこの人の恋人になった実感がわかない。
いや、もちろんなったのはわかっているんだけど、夢みたいというか、現実とは思えないというか……。
私がじっと見つめているのを感じ取ったのか、セフィードはふと窓から視線を外してこちらを見た。
「どうした?」
「見てただけ」
「…………」
私の返事にセフィードは怪訝な顔をしたあと、少し視線を落として言う。
「今日はちゃんとしたデートができなくて悪かった」
「え?デートだったでしょ?れっきとした」
「そうか?」
だって、とても楽しかった。
初めて行ったティールバーグ庭園の散策も、セフィードのご両親との食事も。
知らない人にセフィードを彼氏だと宣言できたのも正直嬉しかったし、うちの兄弟と仲良くしてくれたことも嬉しかった。
セフィードは自分の用事に付き合わせた罪悪感からあまりそう思えないみたいだけど、私にとっては今日は完全にデートだった。
「楽しかったよ。今まで生きてきて一番楽しい日だったかも」
私の言葉にセフィードは見たことがないほど甘やかな笑みを浮かべる。
夜の闇の中きらめくエメラルドグリーンの瞳の美しさに、私の心臓は高鳴った。
セフィードは固まった私を嬉しそうに見つめながら、黙って私の頬をなで、そのまま指を顎まで滑らせて少し顔を持ち上げた。
最初のキスは突然で目をつぶることもできなかったけど。
今度は、このあと何が起こるかわかる。
私は飛び出しそうなくらい鳴る自分の心臓の音を聞きながら、静かに目を閉じてセフィードの唇を受け入れた。




