デート?(4)
私もまたセフィードに笑顔を見せたところで、タイミングよく個室のドアがノックされる。
「セフィード、マフルちゃん、入るよー」
なんだか気が抜けるような声で言いながら私たちのいる個室に入ってきたのは、茶色の長髪を肩のあたりでくくっている端正な顔立ちの中年男性と、金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ年齢不詳の美人だった。
言わずもがな、この二人がセフィードのご両親なのだろう。
私は慌てて立ち上がり、淑女の礼をとった。
「はじめまして、マフル・ハーシェと申します。この度は……ええと、よろしくお願い致します!」
息子さんにお世話になってます、も変だし、息子さんの恋人になりました、もなんだか恥ずかしいしで、思わず勢いでごまかすと、セフィードの両親はくすくすとおかしそうに笑ってくれた。
この二人からセフィードが生まれたとは信じられないくらい、物腰の柔らかい人たちだ。
「マフルちゃん、どうぞ座って。私たちも座っていいかな?」
「もちろんです!」
私が座り直すのを見届けてから、セフィードの両親がウェイターの引いた椅子に腰を下ろす。
彼らは何やらウェイターに手早く注文すると、すぐに私に向き直った。
「セフィードから聞いているよ。黙って連れてきて悪かったね」
「い、いえ。驚きましたが、お会いできてうれしいです」
「ありがとう。こちらこそ光栄だよ」
セフィードの父親は私の返事を聞いてにこにこと笑う。
その横で、セフィードの母親が頬に手をあててほうっと息をついた。
「それにしても、マフルちゃんたらとっても美人さんねえ。セフィード、マフルちゃんのことこんな美人さんだなんて言ってなかったじゃない」
美人に美人と言われても、なんだか据わりが悪い。
しかも、セフィードにこの姿をばらしたのは今朝だから、セフィードが私の容姿に言及していないのも無理はない。
どうしよう……とセフィードをちらっと見ると、セフィードはこちらを横目で見返してから飄々と答えた。
「今日は特別かわいいよ」
答えになっていないような気もするが、まるでいつもかわいいようなその言い草に、私はぼっと顔が火照るのを感じた。
私の様子をみて、セフィードの母親が口に手を当て、まあ、と嬉しそうに笑う。
「セフィードったら、そんなセリフも言えたのね。少し安心したわ」
「ああ、正直跡目を継ぐための嘘だったらどうしようかと思っていた」
セフィードの両親の言葉の意味がわからず、私は首を傾げる。
「あの、どういうことでしょうか……?」
「あら、セフィードったら説明していないの?」
咎めるような母親の視線を受けて、セフィードはばつが悪そうに顔をそむけた。
「そのためにマフルと恋人になったわけじゃないから。俺がこいつのことが好きで、こいつも俺を好きって言ってくれたから、結果的に丸く収まったってだけ」
なんだか恥ずかしいことをさらっと言っているけれど、相変わらず話は全く読めない。
しかし、ついていけない私の正面ではセフィードの両親が目をきらきらと輝かせてセフィードを見つめていた。
「セフィード、本当に成長したな……!」
「偉いわ、セフィード」
「やめろよ、恥ずかしい」
セフィードは両親の視線をうざったそうに振り払う。
それから両親の存在を無視するかのように私に向き直った。
「一応説明するけど、実はラース学園で恋人を見つけられなかったら、俺はオスカー財閥の後継者から外されることになってた」
「え……ええええ!?そうなの!?いつから?!」
「ちょうどマフルが俺の降光祭の紙を拾ったあたりだったかな」
「えっ、ちょっとまって、整理する……」
セフィードは、オスカー財閥を継ぐためにずっと努力をしてきた。
後継者から外されると、その努力は水の泡になる。外されないためには、恋人を作る必要があった。
つまり、私に都合のいい解釈をするなら……
「もしかして……シャーリーが一番恋人になってくれそうだったから、あの用紙にシャーリーの名前を書いただけってこと?」
思わず口に出してしまった問いを、セフィードが訂正した。




