デート?(3)
結論から言うと、ティールバーグ庭園は素晴らしかった。
季節を体感できるエリア分けも花々の配置のこだわりもどこをとっても面白いが、一番私の興味を引いたのは庭園内を飛び交う蝶だ。
この庭園は多種多様の植物が育てられているだけではなく、交配も兼ねて蝶も放し飼いにしているとのことで、可憐な花々を色彩豊かな蝶の羽が美しくいろどっていた。
ひらひらとあちこち飛び交う蝶を眺めているだけでもわりと楽しい。
「あ、ねえ、セフィード、あの蝶はなんていうの?」
「花より蝶に夢中になってないか?」
呆れたように言いながらも、セフィードは律儀に答えてくれる。
「アオルリチョウだよ」
「わー、さすが!よく知ってるね!じゃああっちは?」
「あのなあ……」
最初はセフィードに手を引かれていた私だったが、気付いたらいつの間にか私がセフィードの手を引いてセフィードを連れまわしていた。
あちこち引っ張りまわす私に文句も言わずついてきてくれるあたり、セフィードはやっぱり優しい。
しばらく歩き回っていて、トイレに行きたくなった私は、一度セフィードと離れてお手洗いへと向かった。
手早くトイレを済ませてセフィードを探すも、見当たらない。
「あれ、どこ行ったんだろ……」
呟きながらトイレの周辺を捜し回る。
すると、少し離れたところで女の子の集団に捕まっているセフィードが目に入った。
「私たち熱帯植物のエリアに行きたいんですけど、迷っちゃってー」
「どっちに行けばいいかご存じですかぁ?」
言葉ぶりはさも困っていそうだが、残念ながら彼女たちの近くに案内板があるのが見えている。
本当に困っているなら、スタッフでもないセフィードに聞くより案内板を見る方が早いはずだ。
それに、全員セフィードを見る目がなんだかギラギラしている。
学園では怖がられていることの方が多いセフィードだが、もしかしたら外に出るとこれが彼の日常なのかもしれない。
「この先の通路を右に曲がれば着くから」
セフィードは眉をしかめつつも、経営関係者として無下にはできないのか簡単に説明した。
しかし、それに気を良くした女の子の一人がセフィードの腕に手を伸ばす。
「えー、よくわかんないですぅ。一緒に来てもらえませんか?」
嫌だ。他の子に触ってほしくない。
咄嗟にそう思った私は、思わず彼らの前へ飛び出した。
「あの、私の彼氏に何か御用ですか」
「なによ」
強気にそう言いながら私の方を振り向いた女の子の顔が一気に青ざめる。
セフィードの腕に触れようとしていた女の子は、私を見て顔を引きつらせ、セフィードから一歩離れた。
「えーと、すみませんでしたぁ」
「やっぱり大丈夫ですー」
思いがけない彼女たちの反応に私が戸惑っているうちに、彼女たちは「いや、勝てないって」「かなうわけない」とささやき合いながら、そそくさと熱帯植物のエリアの方へと行ってしまった。
「え?なに?私そんな怖かったかな……」
彼女たちには、私が殴り合いの勝負を挑んでいるようにみえたのだろうか?
若干ショックを受ける私の傍ら、セフィードは呆れた顔で私を見て呟いた。
「顔面偏差値の暴力だな」
「どういう意味?」
「なんでもない。次のエリアに行くぞ」
セフィードの言葉の意味が気になったものの、彼が当たり前のように私と手をつないで歩き出したために、単純な私はさっきの女の子たちのことなどすぐにさっぱり忘れてしまった。
ティールバーグ庭園を満喫した私は、最後にセフィードに連れられて春のエリアの近くにあるレストランに立ち寄った。
セフィードいわく、ここはこの国の東の地方の伝統料理をコースで提供するレストランらしい。
ティールバーグ庭園内にある飲食店の中で最高級店に見えるこのレストランに、私は着飾ってきてよかった……とこっそり胸をなでおろした。
レストランに入ると、ウェイターに一番奥の個室へと案内される。
私に続けて個室に入ったセフィードは、なぜか私の向かいではなく横に腰を下ろした。
「なんで横に座るの?」
私が尋ねると、セフィードは私をじっと見て少しの間口をつぐんでから、思い切ったように切り出した。
「……突然で悪いんだけど、今から俺の両親に会ってほしい」
「い、今から!?セフィードのご両親!?!?」
あまりに突然のことに、私はぎょっとして身を引く。
「な、なんで急に……もしかして、用事ってそれ?」
「そう。だけど、最初に両親に会うことを伝えてたら緊張して庭園を楽しめなかっただろ?マフルとデートしたかったのも本当だから……黙って連れてきて本当に悪いと思ってる」
なんだか申し訳なさそうに、セフィードが説明する。
初めて見るセフィードの殊勝な態度に、私は思わずほだされてしまった。
それに、セフィードの言う通りセフィードの両親に会うことを事前に伝えられていたらきっと庭園は上の空になってしまっていただろう。
しかも、私なんて予告もなく兄に挨拶させてしまっている。
正直セフィードのことを責められる立場でもない。
私は肩の力をふっと抜いて、セフィードに笑いかけた。
「わかった、会うよ。手土産とか何もないけど大丈夫かな?」
「俺が黙って連れてくることは伝えてあるから平気。……ありがとな」
もしかしたら、セフィードはずっと私にこれをどう伝えようかこっそり悩んでいたのかもしれない。
彼のほっとしたような笑顔を見たら、それだけで両親にだって何にだって会ってやろう、という気になれた。




