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家族への報告


 ハーシェ家では、よほどのことがない限り夕食は家族全員揃って食べるのが決まりだ。


 今日はいろいろあったので、家に帰った私はカツラと眼鏡を取り、制服を着替えてすぐに部屋のベッドで眠ってしまっていた。

 そのため使用人に起こされたときには夕食の時間が差し迫っていて、慌てて私がダイニングに向かうとそこにはすでに両親と三人の兄が揃っていた。もう一人の家族である姉は、去年結婚して家を出ている。


「マフル、遅かったわね」


 私が自分の席に着くと、母がにこっと笑って言った。ちなみに私のふわふわピンク髪はこの母譲りである。


 母の言葉に私は頭を下げた。


「ごめんなさい、部屋で寝てしまっていました」


 私の言葉に、二番目の兄が目を丸くした。見た目も人当たりも優しいこの二番目の兄は、我が家の三兄弟の癒し系担当だ。


「マフルがうっかり寝るなんて珍しいね。何かあったの?」


 その質問に、私は一瞬口をつぐむ。

 本当は夕食を食べながらさらっと切り出そうと思っていたんだけど、こうして家族全員から注目を浴びている以上今言うべきなのかもしれない。


 私はおずおずと口を開いた。


「実は……今日、恋人ができました」


 私の言葉に、父と一番上の兄以外の全員が一瞬驚いた顔をした後、手を叩いて喜んだ。

 後ろに控えている使用人たちも嬉しそうな表情になっている。


「おめでとう、マフル!よかったわね!」

「へー、よかったじゃん。よくあんなもっさい姿でがんばったね」

「かわいいマフルには、遅すぎたくらいだよね」


 母と三番目の兄が笑い、二番目の兄が兄バカ発言をする。

 そんな中、苦い顔をした一番上の兄が腕を組んで言った。


「そいつは本当にちゃんとした相手なのか?騙されてないか?マフルは世間知らずだからな」


 一番上の兄は、過保護と言ってもいいくらい世話焼きだ。私をいつまでも小さい子供だと思っている。私がラース学園に入りたいと言ったとき一番反対したのもこの兄だった。

 また子供扱いされたことで、私は少しへそを曲げながら答えた。


「ちゃんとした相手だよ。お兄様も知ってる」

「誰なんだ?」


 口を挟んできたのは、今までずっと無言だった父だ。

 父はいつも寡黙で食事の席でもあまり発言しないので、私は父が喋ったことに少しびっくりしながら父の方を向き、言った。


「セフィード・オスカーです」

「!!!!」


 私の答えに、その場にいた全員が飛び上がるような勢いで驚いてみせた。

 母は口を手で押さえて目をキラキラさせているし、三番目の兄はさっそく何やら企むような顔をしている。父は表情はほとんど変わらないものの口が開いたままだし、一番上の兄なんて持っていたスプーンを大きな音を立てて取り落とした。


「あのとってもかっこいい子よね?やるじゃない、マフル!」


 嬉しそうな母に私は照れながら頷いて見せる。その横で一番上の兄が使用人から替えのスプーンを受け取りながら言った。


「オスカー財閥の一人息子だろ?やっぱり騙されてないか?」

「騙されてないってば!セフィードの中身を知らないくせに適当なこと言わないで」


 思わず憤慨してそう答えると、一番上の兄は雷にうたれたように蒼白な顔になって再びスプーンを取り落とした。彼の顔の横に“ガーン”という文字が見えるかのようだ。

 動かなくなった一番上の兄の横で、三番目の兄が黒い笑顔を浮かべる。


「マフルがセフィード・オスカーと結婚すれば、オスカー財閥と縁ができる……つまり、今まで手を出せなかったあの事業も現実的になってくるな……」


 三番目の兄は、天使のようなふわふわした見た目をしながら、中身は仕事のことしか考えていないワーカホリックだ。

 さっそく仕事のことを考え始め、付き合ったばかりなのに結婚などと言い出すこの兄も放っておいて、私は父に向き直った。


「お父様、あらためて、私がラース学園に入ることを許可してくださってありがとうございました」


 私の言葉に、口をぽかんと開けたまま固まっていた父がごほんと咳払いをして居住まいを正した。


「あ、ああ。マフルは昔から、有言実行だったね。無事に理想の相手に出会えたようでよかった。大事にしなさい」

「おめでとう、マフル。よかったね」


 父に続けて、二番目の兄がにこにこ笑って言う。

 私は二人の言葉に嬉しくなってにっこり笑い、うなずいた。


******


 いつになく騒がしかった夕食を終え、部屋に戻った私は改めて侍女のセタルに向き直る。


「というわけで、週明けにさっそくセフィードとデートするの。服のアドバイスをもらえる?」

「おめでとうございます、マフル様。私たち使用人一同も大変喜ばしく思っております」


 伯母に関する一連の出来事からの私のこじらせ具合をずっと傍で見てきたセタルが、涙ぐみながら言った。

 私がありがとう、と返すと、セタルは首を傾げて問う。


「デート、とのことですが……カツラと眼鏡はどうされるのですか?」

「それなんだけど、まだセフィードにはこっちの姿を見せていないの。だから、デートの日にきちんと話そうと思ってて。どうせだから、とびっきりかわいくしてほしい」


 私は言いながら、少し前、マルディー先輩とのデート前にライシーから聞いた言葉を思い返していた。


“その人のためにかわいくなる努力をしたってところが重要なんだから!”


 今なら、ライシーの言葉の意味がわかる気がする。

 相手がそう望むからではなく、自分がそうしたいから努力をするのはきっと悪いことではないのだ。


 私の言葉にセタルが張り切った顔でガッツポーズをしてみせた。


「マフル様はもともととてもかわいらしいので大丈夫ですよ。お任せください、マフル様のことを誰より知っている私がマフル様を完璧に着飾らせてみせます」

「ありがとう、セタル」


 仲の良い友人がいて、心配してくれる家族がいて、理解のある侍女がいて、私は本当に幸せ者だ。

 私たちは顔を見合わせて笑い合った。


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