シャーリーの恋
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シャーリーは、立ち尽くしていた。
目の前でマフルをなじっていた女子たちが、気まずそうな顔をしながら一人、また一人とこの場を去って行く。
セフィードとマフルの姿は、とうに見えなくなっていた。
(な、何が起こった……?)
この場に誰もいなくなってなお、シャーリーには今起こったことが信じられない。
あと一歩だったのだ。
あともう少しで、セフィードが手に入るはずだった。
最近は誰の邪魔もなくて、劇の練習をしていても雰囲気もとてもよくて、周りからも公認カップルのように扱われていて――――
入学してからの影の努力のあれこれが走馬灯のように思い出される。
(何のために、今まで、私が……)
まだマフルがセフィードに告白しただけで、二人が恋人になることが確定したわけではない。
でも、シャーリーはずっとセフィードを見ていたからわかっていた。
さっきのセフィードがマフルを見つめる瞳は、他の子を見るときと違っていた。セフィードもきっと、マフルのことが好きだ。
何も伝えていなかったのに。
震える手をぎゅっと握ってうつむきかけたそのとき、遠くからばたばたと自身の取り巻きの女子が走ってくるのが見える。
「シャーリー様、お疲れ様でした!」
「告白はできましたか!?」
何だか今は気丈に彼女たちと話せる気がせず、シャーリーは彼女たちから逃げるように走り出した。
特にどこへ行くとは決めずに走ったシャーリーだったが、気が付けば音楽室にたどり着いていた。
シャーリーは音楽科専攻であるため、彼女にとってはなじみ深い場所だ。
(ここは……)
ふと我に返ってぼんやり考えたシャーリーの視界の端に、誰かの足がうつる。
「きみの計画は失敗した?」
ゆっくりと顔をあげると、そこにはシャーリーの元彼氏、カーフェが立っていた。
思いがけない人物の登場にシャーリーはいつになく狼狽する。
カーフェとは、降光祭の前に別れて以来一度も会っていなかった。
そしてここは、シャーリーがカーフェと出会った場所であり、別れを告げた場所でもある。
「な、なんで……」
「きみがここに来るだろうと思って待ってた」
何を考えているかわからない笑顔をうかべるカーフェを、シャーリーは眉を寄せて睨む。
出会ったときからこうだった。いつも飄々として、心のうちがまったく読めない。
彼にビジネスカップルを提案されたときも、それを受け入れたときも、もう必要なくなったと告げたときも、いつだって彼は笑っていた。
「私とセフィードはうまくいかないと思ってたってこと?」
「そうだね。きみ、いろいろと不器用でへたくそだから」
カーフェの言葉にシャーリーはかっとなる。
「私の何を知ってんだよ!わかったような口をきくな」
「そういうところ全部だよ。ずっときみを見てきたんだ」
「なっ……」
シャーリーは初めて、自分が利用しているだけのつもりだったこの男がおそろしくなった。
カーフェがシャーリーに一歩近づいたのに合わせて、シャーリーは一歩後ずさる。
露骨に避ける態度を取られても、カーフェはなんでもないように笑って言った。
「いいね。やっと僕を警戒してくれるようになったね。ようやく厄介なライバルもいなくなったことだし、もっと僕のことを見てほしいな。僕はずっときみの全てを手に入れたかったから」
カーフェの言葉に、シャーリーは思わず顔を赤くした。
「な、なにを……私の本性もわかってるんだろ」
「わかってるよ。でも全部ひっくるめてきみが好きなんだ」
シャーリーはいつの間にか、自分が壁際に追い詰められていたことに気が付いた。
逃げ出そうにも、シャーリーの顔の両側にカーフェが手をついていて逃げられなかった。
「意地っ張りなところも、人遣いが荒いところも、腹黒なところも、全部好きだよ。よりを戻そうよ、シャーリー。今度はビジネスカップルとしてじゃなく、本当のカップルとして」
シャーリーは強気に言い返したくても、自分の心臓の音がどきどきうるさくて何も考えられない。セフィードに失恋したことの悲しみも、このときは完全に忘れていた。
にこにこしながら返事を待つカーフェを涙目で震えながらにらみつけ、とうとうシャーリーは叫んだ。
「うっさい、ハゲ!っどけっ!!!!」
そしてそのままカーフェを突き飛ばし、真っ赤な顔のまま音楽室をばたばたと走り去っていく。
(なんなんだ!あいつ!私の悪いとこばっか羅列しやがって!わけわからん!くそっ、鳴り止め心臓っ!だまされんな!)
だから、そんなシャーリーの後ろ姿を、いつものような穏やかな笑顔ではなく獲物を狙うような目つきでカーフェが見つめていたことなど、微塵も気付くことはなかった。
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