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演劇祭当日(5)


 セフィードに手を引かれて向かった先は、いつもの広場だった。


 もうセフィードと一緒にここに来ることはないと思っていた私は、嬉しさと戸惑いからセフィードの顔と繋がれた手を交互に見比べる。

 

 セフィードは手を離さないまま大きくため息をついて、空いている方の手で自分の顔を覆った。


「お前、ほんと何なの?」

「えっ、何ってなに?」

「…………」


 黙ってしまったセフィードを、私はじっと見つめる。

 なんだか彼の顔がほんのり赤くなっている気がして、私もつられて頬がほてってきた。


 セフィードのことだから振るにしても優しいとは思っていたけれど、ここまで特別扱いしてくれるとは思わなかった。

 なんだか申し訳なくなってきて、私はそれをごまかすように繋がれた手をぶんぶんと振り、口を開く。


「ええと、シャーリーが話があるって言ってたね!セフィードに協力するとかいって、邪魔しちゃってごめん。私はその、聞いてもらえるだけでよかったの。迷惑だったら申し訳なかったけど、でもどうしても言っておかないと諦めきれないっていうか――――」

「ちょっと黙って」


 話が終わったらセフィードが行ってしまう気がして止まらない私の口を、セフィードが突然自身の顔を覆っていた方の手でふさぐ。

 

 そして、無理やり塞がれたことで閉じた私の唇に、セフィードの唇が重なった。


 びっくりして、目を閉じることもできなかった。

 頭が真っ白になって何も考えられない私を覗き込んで、セフィードが言う。


「俺も好き」


 セフィードの言った言葉がうまく呑み込めない。

 返事をしない私を見て、焦れるように眉をひそめてセフィードが再度口を開いた。


「俺も好きだって言ってんだけど」

「え……ええっ!?!?」


 一連の出来事がやっと現実感を伴って私に襲い掛かる。

 私は顔をゆでだこみたいに真っ赤にして繋いでいた手を振り払い、あわあわしながら後ずさった。


「え、セフィードいま、今、キ……キスした!?」

「今そこ?」


 あまりに何でもないように首をかしげて言うセフィードを見て、もしかして私の妄想?と考えた私は左右に頭を振ってみる。

 セフィードは消えない。どうやらこれは現実なようだ。

 口を手で押さえてずりずりと後ずさりながら、私は尋ねた。


「え、だって……だって、シャーリーは? 好きなんだよね? もしかして同情のキス?」

「バカ」


 セフィードが素早く距離を詰めて私の腕をつかむ。

 そのたしかな感触に、私は息をのんだ。


「俺、シャーリーのことが好きだなんて一言もいったことないけど」

「だって、降光祭の紙……それに、降光祭で誘われたって言ってた……」

「……あれは、事情があって他に女子の知り合いがいないから仕方なく書いただけ。書いてから、シャーリーに彼氏がいたことを思い出した。何度も言うけど提出する気もなかったし。降光祭は誘われたけど一緒には見てねーよ」

「そうなの!?じゃあなんで誘われたなんてわざわざ……」

「お前が俺のことばっか気にして自分のことに集中してなかったからだろ」


 どうやら私は出会いからとんでもない勘違いをしていたらしい。

 思い返してみれば、たしかにセフィードは一度も協力して、なんて言ってなかった。私が勝手に協力しようと張り切ってただけ。


 気が抜けて、へたりこんだ私の前にセフィードも一緒になってしゃがみこむ。


 彼の美しいエメラルドグリーンの瞳を見ていたら、彼も私を好きだと言った事実をだんだんのみこめてきた。

 私の様子に気が付いたセフィードが、珍しく満面の笑顔を浮かべる。


「やっと信じた?」

「うん……」


 恥ずかしさから思わず下を向く。

 

 私はセフィードが好きで、セフィードも私が好き。

 ということは、私たちは両想い。恋人同士だ。

 信じられない。私を外見で選ばず、好きになってくれる人があらわれるなんて。

 しかもその人が、私も大好きな人だなんて。

 正直、私は半分諦めていた。だって、先輩のときだってあんなに頑張ったのにだめだった。こんな奇跡みたいなこと、きっと私には起こらないと思っていたのだ。


 思わず目に浮かんだ涙を、セフィードがその指でそっとぬぐいとる。

 私はゆっくりと顔をあげて、セフィードにもう一度伝えた。


「あの、セフィード……好き。私を好きになってくれてありがとう……」


 セフィードは返事のかわりに、私をきつく抱きしめてくれた。


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