演劇祭当日(4)
若者のセリフの通りだ。
彼に協力すると決めたからといって、どうして私は何もせずに諦める気でいたんだろう。
たしかに振られるのは、怖い。マルディー先輩に振られたときの記憶がよみがえり、手先が少し震える。
だけどこのまま何もせずに彼を諦めたら、きっと私は一生後悔するだろう。
だったら、きっぱりと振られた方がきっと次に進めるんじゃないか。彼なら私を傷つけるような振り方はしない。
シャーリーには申し訳ないけれど、私も彼に告白しよう。
私がそう静かに決意を固める間にも、劇は先へと進んでいた。
都中の人々に見送られて仲間とともに旅立った若者は、ついにドラゴンと対峙する。
死闘を繰り広げ、何度も危ない目にあいながらもついにドラゴンを斃した若者は、その牙を戦利品としてもって都へと帰還した。
脅威であったドラゴンが斃れたことに、人々はおおいに喜び、若者を称えた。
王は褒美として姫と結婚することを彼に許し、彼はとうとう人々の上に立つ存在となる。
親に捨てられ独りぼっちだった若者が、人々に囲まれ尊敬されるようになる様を、霊鳥は遠くの空から静かに見守っていた。
舞台の幕が下り、講堂が盛大な拍手で包まれる。
ライシーが雰囲気にのまれてほんのり浮かんだ涙をぬぐいながら言った。
「心配してたけど、セフィード様の存在感が圧倒的だったね!シャーリーさんもきれいだったけど、とにかくセフィード様のおかげで舞台に華がでてすごく印象的な劇になったと思う」
「……うん。ごめん、ライシー私ちょっと行ってくる」
ライシーの言葉を聞いていたら何だかいてもたってもいられず、席から立ち上がる。
突然席を立った私に驚くライシーとローシャくんを尻目に、私は講堂の出口に向かって走り出した。
講堂を出て、講堂の裏にある舞台袖へ入るための扉へ向かう。
扉からセフィードが出てきたところを捕まえようと思ってそちらへ向かうと、扉の近くの廊下に何やら人だかりができていた。
よくよく見ると、その人だかりの中心にはまだ衣装を着たままのセフィードがいる。
どうやらすでにセフィードは舞台袖から出てきていて、私と同じようなことを考えた女子が彼を取り囲んでいるようだった。
「セフィード様、とってもかっこよかったです!」
「演技もお上手なんですね!」
「剣をふるうのは初めてだったんですか?すごく素敵でした」
普段彼を遠巻きに見つめるだけの女子も、舞台上のセフィードにあてられたのか興奮したように彼に接近する。
セフィードはそんな彼女らを、困惑した顔で見つめていた。
どうしよう、これじゃ近づけない。
そもそもセフィードに気付いてもらえない。
勢いを削がれた私が立ち尽くしていると、舞台袖へ続く扉が開き、中からシャーリーが現れる。
その迫力ある美しさに、セフィードを取り囲んでいた女子は少し気圧されたようだった。
シャーリーは余裕の笑みを浮かべて言う。
「こんなところで騒ぐのはよくないわ。それより、セフィード、話があるの」
主役とヒロインの二人だ。あまりにお似合いで、並んで立つだけでひとつの絵画のようで、女生徒たちは思わずシャーリーに道を譲る。
このままでは、シャーリーに先を越されてしまう。
たまらなく恥ずかしいし怖いけれど、今ここで告白するしかない。
シャーリーが一歩を踏み出したそのとき、私は勇気を振り絞って叫んだ。
「待って、セフィード……好き!」
私の言葉は、静かになっていた廊下に存外大きく響いた。
セフィードが驚いた表情でこちらを見つめるのがわかる。
周りの女子は、こんな状況で空気を読まずに突然告白したのは誰だろうとあたりを見回し、それがよりによってこの学園で一番地味な私であることに気付いて侮蔑するような顔でこちらを見てきた。
「ちょっと、今シャーリーさんがお話しようとしていたところでしょ」
「あんたごときが邪魔するんじゃないわよ。何様のつもり?」
「というか釣り合うと思ってるの?」
さっきまでセフィードを取り囲んでいた女子たちが、今度は私を取り囲むようにして詰め寄ってくる。しかし、怯むわけにはいかない。
私が彼女たちに言い返そうときっと顔をあげたところで、セフィードの声がため息とともにこの場に響いた。
「いいかげんうざい」
彼の言葉に私の視界は途端に色を失くす。
迷惑になっていたとは思わなかった。セフィードならひどい振り方をしないだろうと思っていたけれど、彼を怒らせていたなら話は別だろう。
申し訳なさに涙が目に浮かんだ私をみて、女生徒たちがほらね、と意地悪な笑みを浮かべた。
しかし、セフィードはなぜかそんな彼女たちをかきわけるように私に近寄ると、私の前に立って彼女たちと対峙する。
「お前らだよ。なんなの、突然近寄ってきてぎゃーぎゃー騒いで。俺疲れてるんだけど。他の人にも迷惑だし。俺の気持ちを勝手に決めつけんな」
セフィードの言葉に、女子たちは一気に顔を青くして静かになった。
セフィードはそんな彼女たちに背を向けると、茫然としたままの彼女たちを置いてまだ今の状況に頭が追い付かない私の手を取り、歩き出した。




