演劇祭当日(3)
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すべての大道具の搬入を終えタージェルと別れた私は、本番を見るべく観劇用の席へと向かっていた。
衣装係は本番やることがないため、一応緊急時の対応のために一人を舞台袖に残して、他は観客席から劇を見て良いことになっている。
観客席では同じく本番は暇になるライシーが席を取って待っていてくれた。
「マフル遅いー!何してたの?」
「ごめんね。タージェルの雑用に付き合わされてた」
「えー、それは災難だったね……」
気の毒そうにつぶやくライシーにうなずきながら、私はライシーの隣に座るライシーの彼氏、ローシャくんに挨拶をする。
「ローシャくん、久しぶり。今日はご一緒させてもらうね」
「やあ。慣れない衣装係、大変だったね。お疲れ」
「ほんとにね、とりあえず終わってよかったよ。ありがとう」
ローシャくんは明るい金色の髪に青い瞳の、白馬に乗って現れそうな王子様然とした男子だ。
いつもにこにこしていて話し方も穏やかなので、ライシーがそうだったように一部から高い人気があった。その子たちも今はライシーが彼女だからローシャくんを諦めたみたいだけど。
私がライシーとローシャくんと三人でとりとめもない雑談をしているうちに、演劇祭が始まりを告げた。
劇は学年順に行われるため、私たちの学年の劇は二番目だ。
一年生の劇は有名な童話に独自の解釈を加えたもので、コメディー色も強くなかなか楽しく観ることができた。
「一年の劇、よくできてたね。うちの学年優勝できるかなあ?」
ライシーの言葉に、私はうーん、と唸った。
正直三年から上はどんどん人数も少なくなるため、あまりライバルにはならず、本人たちもそこまで本気で作っていない。だから実質デート権は一年と二年の間での取り合いとなる。
「ストーリーは断然一年の方がよかったかも。あとはうちの学年の演技次第だよね」
「うちは演出もけっこう凝ってるからね。そこは勝てるんじゃないかな。今回音響は一から音を作ったりもしてたみたいだし」
私の言葉に、ローシャくんも分析を加えた。
私たちがこうして話している間にも、舞台のステージ幕の裏では私たちの学年の劇の準備が行われているようで、バタバタとした人の動きに合わせて幕が波打つ。
その動きをぼんやり見ていた私の耳に、うしろの女子の会話が聞こえてきた。
「次の劇、セフィード様が主役の英雄譚らしいよ」
「ええ、もうそれだけで強いじゃん!あの人ただ立ってるだけでかっこいいのに」
「たしかに!」
半ば冗談のように話してくすくす笑い合う彼女らに、私はこっそり心の中でうなずいた。
なんでセフィードはあんなかっこよく生まれてしまったんだろう。もし彼がもっと普通の外見だったら、こんなに人気が出ず、シャーリーにも好かれなかったかもしれないのに。
この舞台が終わったらセフィードはシャーリーに告白されて二人は恋人になるのかと考えると、気分が途方もなく暗澹としてくる。
いけない、このままじゃ泣いてしまいそうだ。
私は純粋に舞台を楽しむために、首を一度ぶんぶんと強く振ってから思考を切り替えて舞台に向き直った。
「お待たせいたしました、続いては二年の劇です」
アナウンスの声が入り、劇場内が再び暗くなる。
舞台の幕があがり、私たちの学年の劇がついに始まった。
物語は、一人の赤ん坊が親に捨てられるところから始まる。
胸に人々から恐れられるドラゴンの形のあざがあったことを理由に、親から不吉がられ山に捨てられた赤ん坊は、山に住む巨大な霊鳥に育てられて精悍な若者へと成長した。
『お母さま、どちらにいらっしゃいますか』
セリフとともに、セフィード演じる若者が舞台に現れる。
途端に、客席中から女子の黄色い悲鳴があがった。
セフィードのセリフに、霊鳥の声だけが応える。
『あなたは立派な若者に成長しました。もう私は必要ありません。あなたには使命があります。今すぐここを出て、都に向かいなさい。わたくしはいつでも、お前を見守っていますよ』
霊鳥の言葉に、はじめはしぶっていた若者もやがて旅に出る決心をする。
旅の道中で信用の置ける仲間とも出会い、都へと辿りつく直前に、若者は恐ろしいドラゴンに襲われる女性を間一髪のところで助けた。
ドラゴンは逃げ、残された女性がこの国の姫であることを知る。
姫の命を救ったことで城にて歓迎を受けた若者だったが、やがて若者は姫に語った。
『私には使命があります。姫の命を狙った邪悪なドラゴンは、まだどこかで生きている。私はそれを倒さなくてはならない』
若者の言葉に、姫は悲鳴をあげる。
『そんな、駄目です。あなたが殺されてしまいます。どうぞ、行かないで』
涙に濡れた顔で若者を引き留める姫をやんわりと引きはがしながら、若者は優しく笑みを浮かべて答えた。
『いいえ、私は行かなくては。それに、何事もやってみなければわからない。やらない後悔よりやった後悔というでしょう。何かあってもきっと、私の霊鳥が守ってくださる』
セフィードが、舞台をぐるりと見渡しながらよく通る低い声でこのセリフを言う。
その瞬間、彼と目が合った気がして私の心臓はどくんと大きな音を立てた。




